里山と熊鈴と私(一切経山・東吾妻山) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 そんなわけで、昨日は、ほぼ徹夜状態で勤務。バイトで来ていた、格闘家とのトークが面白かった。

 

 幼少時から、極真空手に勤しんできたみたい。そんなにゴツい、という感じでもないが・・・。で、年末のライジン?とかに出場するそうだ。頑張ってほしい。

 

 で、かなり体力的にはグロッキーであるけれど。

 全国的に、素晴らしい快晴。せっかくだから、ちょっと遠出しましょう。

 

 えーと。吾妻山、という山はない。福島市の西部から山形市の南部にかけて連なる大火山帯、吾妻連峰の通称なんだね。

 

 最高峰は西吾妻山(2035m)だけど、今日はエンタメ的に見どころが多いという、一切経山・東吾妻山を目指す。

 

 福島JCTで山形方面へ向かい、すぐに福島大笹生ICで降りる。

 

 途中、セブンイレブンで補給。ここからも、吾妻小富士が良く見える。

 それにつけても、哀しいくらいの快晴。今日も気持ちよく登れそうである。

 

 で、いつしか磐梯吾妻スカイラインに。ここ、いつからか無料になったんだね。

 「高湯温泉あったか湯」を通り過ぎ、うんざりするようなクネクネ道の果てに、11時ちょっと前、浄土平着。セブンイレブンから、50分近くかかってしまった。

 

 駐車場入り口は、料金所があるためちょっと渋滞気味。

 オバチャンに500円を支払う。今日は、吾妻小富士は登山道の工事のため、見学不可とのこと。

 

 残念。まあ、また今度にしましょう。

 ここは1,000台くらい駐車できるようだけれど、梅雨明け最初の休日ということもあってか、なかなかの賑わい。一番端っこの方に、ようやく数台の空きスペースを見つけることができた。

 

 で、身支度して、国立公園ビジターセンターとか、レストハウスとか、天文台なんかで賑わう界隈を離れ、湿原の中を伸びる木道に。

 

 右手の一切経山は、豊かな緑の中で、ゴツゴツと岩肌むき出しで、異彩を放っている。中腹からは、モクモクっと硫黄の噴煙が勢いよく吹きあがる。その奥の前大嶺(1911m)は、緑に覆れて穏やかな印象。

 しかし、立派な木道である。前をチビッコを連れた親子が歩いていて、どうしてもこちらの歩速が上回るので「あおり運転」みたいになってしまう。

 道を譲ってもらう。なんか、気を使わせてしまった。

 

 11:13、木道から登山道に復帰し、石でゴロゴロした道をポクポク歩く。家族連れ、オバサマ方のパーティとすれ違う。

 

 11:34、酸ケ平分岐への道を行く。ここらへんから、本格的な山道の雰囲気。

 次第に高度が上がり、一切経山の山体がひときわ大きくなる。


 振り返れば、吾妻小富士の絵にかいたような噴火口が良く見える。

 今日の脳内BGMは、GEORGE BENSON&EARL KLUGH『 Collaboration』より、「Mt. Airy Road」と「Since You're Gone」。チュルッ・ツゥッツ・ツウ~ ♪っと

 

 この両巨頭がタイトルそのまんまに大競演したアルバム、個人的に80年代ギター・フュージョンアルバムの大傑作だと思っているのである。

 

 薄く後景を飾るストリングスとギターのアルペジオ。ハーヴィー・メイソン氏(Dr)の、現在のFourplayにも通ずる、主張しないクローズド・リム・ショット。

 

 ちとシンセの音には時代を感じる面もあるけれど、正にあるべき場所にあるべき音がある、非常に職人技的なアレンジ。

 流れ行く初夏の小川のような、ゆるぎないスムースさ。ドライブのお供にも最適。

 

 えーと、山の話でしたね。

 11:58、視界が開け、酸ケ平。気持ちが良い湿原である。

 ほどなく、分岐。オッチャン・オバチャンが道をふさいで談笑中。その脇を、酸ケ平避難小屋方面へ。

 5分ほどで、酸ケ平避難小屋。すごく立派な作りである。ちゃんとしたトイレもある。

 ちょっと覗いただけで、中には入らず、スタスタ通り過ぎる。

 

 このあたりから、傾斜がきつくなる。だけど、さすが人気観光地だけあって、しっかり整備されている。落ち着いて登れば、何ら危険はない。

 

 振り返れば、酸ケ平を一望できる。その奥には中華鍋を伏せたような東吾妻山。そして、継森(1910m)、中吾妻山(1930m)。絶景。

 ますます、石ころがゴロゴロする登山道で、幾多のオジサマ・オバサマを抜き去る。

 日差しは強い。だが、このへんでようやく、風が涼しくなってきて、心地が良い。

 

 ずんずん登る。と、手前の山が見切れて、吾妻小富士のクレーターが右手にきれいに見えて来た。

 と、同時に、山頂らしきものが前方に。

 そこまで続くのは、割と平坦な道で、特に息が切れるほどでもない。


 尾根の左側、東吾妻山の奥に、鋭角的な磐梯山が見え始める。しばし、ザレ場を歩き、12:39、頂上着。20人程が、休息をとっていた。

 それにつけても、いくつかの石積みがあるばかり。石だらけで、草木がほとんど見当たらない。まるで、月面に立ったかのようだ。

 

 360度の景色。ほんと何にもなく、見晴らしが良すぎてかえってマゴついてしまうような山頂。

 

 ちょっとザレ場の正面を下ると、いきなりの絶景。

 五色沼。緑の額縁に、見事なコバルトブルーがたたえられている。

 (絶句)

 

 いやはや。きれいである。

 

 完璧な紺碧に、ヒデキ、感激である。ここまで電撃的に進撃した意義があったき。

 (やや高知弁混じり)

 

 大きめの石に腰かけ、沼を見下ろしながら、今日初めての休憩。麦茶が冷たい。至福の時である。

 

 ザレ場の先は、深く谷に落ち込んでいて、様子が良く分からない。このまま、沼まで転げ落ちたい気分にもなる。

 

 西側の尾根を降りて、五色沼をかすめて家形山、烏帽子山を経て周回する道もあるようだが、全部で10時間ぐらいかかる、壮大なコース。ちょっと今日は遠慮したい。

 

 で、13:03,東吾妻山方面を目指す。

 今来た尾根を、酸ケ平方面に下る。

 後ろのカップルが、なんだかわからないがJ-POPを、大声て歌っている。

 ちょっとうざいので、吾妻小富士を撮影するふりをしてやり過ごす。

 

 静かになった。13:35、酸ケ平分岐を鎌沼方面へ。

 実に美しい湿原である。ゆっくり、噛みしめるように進む。

 13:40,鎌沼のほとり。

 ちょっと太陽が雲に隠れてしまい、シャッターチャンスを待ちながら、昼食にする。他には、これまた昼食中のカップルのみ。しずかである。

 

 お魚の姿は見えないようだ。酸ケ平というだけあって、pH的に厳しい環境なのかもと思ったけれど。

 

 ただ、カモさんが悠然と泳いでいらっしゃるので、ある程度、お魚はいるはずですよね。

 

 14:00、沼を周回して、東吾妻山を目指す。

 途中、やや登りがあって、谷地平への分岐が。この湿原も、景色が良いという。いつかチャレンジしたい。

 

 姥ヶ原の十字路を直進すると、本格的な山道になる。

 赤い溶岩がごろごろする、さほど整備されていない道。

 湧き水でビチャビチャしたとこや、エイっと気合を入れて乗り越える段差があったりもする。

 

 ふーむ。立て看板によると、クマさんが最近、鎌沼まで水を飲みに来たのが目撃されたそうだ。

 この辺りで熊鈴を装着し、必要以上に鳴らしながら歩く。

 

 登りの最中、左側の茂みから、「グーフ」っていう唸り声が聞こえたけれど、あれがクマさんのものかは分からない。第一、クマのナチュラルな声なんて、聴いたことないし。

 

 さっきの、カンコウチ然とした一切経山とは雰囲気が異なり、しっかりとした準備が必要。すれ違う人も、アスリートと思しきカップル・ランナーと、白くあご髭を蓄えた、仙人っぽいオジイサマで、人種の違いが如実に表れる。

 

 これまでずっと、茂みの中を通り抜けて来たのだけれど、にわかにハイマツ帯となり、視界が開ける。オジサマ2人とすれ違い、頂上はもうすぐ。

 

 14:45,頂上に着く。

 ポッカリと円いザレ場の真ん中に、標柱が立てられている。

 三角点にタッチし、しばし休憩。

 これまた360度の景色。ややかすんではいるものの、磐梯山、檜原湖、猪苗代湖が良く見える。美しい。

 

 手ごろな石に腰かけて、休憩。

 

 頂上には他に、1組のカップルのみ。

 寡黙な女性に比べ、男性の方が、やたらと饒舌である。

 

 言葉からすると、福島の人ではない。おそらく宮城県北の沿岸部、または岩手県南部の人だろう。多分だけど。

 

 別に、聞き耳を立てていたわけではない。

 他に鳥の声しか聞こえない山のてっぺんなもので、自然と耳に入るのである。

 

 入道雲がふわりと。

 

 夏だ。いつの間にか、夏になっていたのだ。

 さて、そろそろ。東北弁トークを傾聴していても仕方がないので、15:02、出発。

 

 途中、さっきは余裕がなくて撮れなかった花を撮影。

 カラマツソウ、アズマシャクナゲなど。

 再び十字路を直進し、鎌沼の南岸を右折。15:40。

 湖畔のコバイケイソウの群落が美しい。

 この時間になると、出会うトレッカーは、まばら。

 沼のしずけさを味わいつつ、木道の傍らのベンチに腰掛け、さっきの食べ残しの菓子パンを片付ける。

 

 さて、名残惜しいが、そろそろお暇の時間である。

 

 さようなら。鎌沼。

 振り向きもせずに5分ほど歩くと、さっきの十字路から続く道との合流地点。16:13。

 

 ずんずん、木道を進む。と、16:27、前方に、吾妻小富士のクレーターがはっきり見えて来た。

 誰もいない、と思ったら、ピンク色のランニングウェアを着た白人女性とすれ違う。

 あら。コンニチハ。

 

 強い香水の香りがした。こんな時間に、どこまで行くのだろう?

 

 先行していたオバチャングループを抜き去り、登山口に着いたのは16:45。

 

 名残惜しくて、レストハウス方面まで木道を遠回り。硫黄成分がふつふつ流れる小川や、まん丸い池塘。

 それにつけても、この美しさ、この静けさ。

 

 人影はまばら。

 あんなに混雑していた駐車場も、もはや5~6台を残すのみ。

 

 お店やセンターも、ことごとく閉まっている。

 

 力の有り余る若者が、工事のため閉鎖されている吾妻小富士のバリケードを乗り越えて、ポクポク登っていく。

 

 もちろん、そんな若くないので、追従はしない。

 かといって、ルールを守れ、と、若者に注意することもない、良識ある大人約1名である。

 

 だいぶ傾いたとはいえ、まだ、日の名残は力強い。

 気が付けば、両手の甲、そして肘までが真っ赤である。

 

 一切経山。日本百名山の一角だけあって、美しい湿原と山々の景色、神秘的な沼の色、多様な草花等々、噂にたがわぬ、なかなか、エンタメ感満載の山であった。山頂まで1時間半程度で登れるし、ファミリーにもおすすめ。

 

 またいつか、来ましょう。

(20210718)