【原神】8月6日実装予定のエミリエについて【ポムム・ドゥ・アンブラとは】 | 久印のゲーム雑考

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現在はHoYoVerseの『原神』を中心に扱っています。

オープンワールドRPG『原神』も現在 ver4.8 最中です。このバージョンでは後半で新キャラクター・エミリエの実装が予定されています。ガチャ更新は8月6日の日本時間夜7時。

Ver4 台で最後の実装キャラクターです。『原神』は1年間で17キャラクターの実装というペースを維持しており、今回も ver4 台の約1年間で17人目です。

 

 

 

名前のスペルは英語だと Emilie, フランス語では Émilie です。フォンテーヌ人の多くの名前はフランス名であり、またイタリア語やドイツ語などでもアクセント記号付きのフランス語表記なので、このフランス語表記が正式と思われます。
(そもそも、フランス語の Émilie は英語なら Emily ですし、たとえば英語の Michael がフランス語なら Michel、英 William がフランス語では Guillaume となるなど、ヨーロッパ言語の間では同由来の人名も変化するのですが、『原神』のローカライズはそのように固有名詞を変換することはなく、そのキャラクターの出自や所属を示す言語での表記になっています)

 

ただ、そもそもフランス語読みなら「エミリー」でしょう。

この辺、『原神』日本語版のカタカナ表記は必ずしもその言語の発音に忠実ではなく、日本語の語感も意識していると思われます。ガイアの欧文表記は Kaeya だったりしますしね。

元より、音韻の大きく異なる言語間での音写には限度があるわけでして、「原語の発音に忠実とは何ぞや」というのは、それ自体が大問題です。日本語での「らしさ」を優先するのも、一つのやり方です。

 

神の目(いわゆる属性)は草元素。職業は調香師、つまり香水を調合する人ですが、裏の仕事として「特殊清掃人」という警察に関わる仕事を引き受けている模様。予告放送によれば法医学者に近い仕事のようですが。

実際、英語版では「特殊清掃人」は "forensic cleaner"、フランス語でも nettoyeur légiste で、「法医学清掃人」とでもいうべき表現になっています。

 

が、やはり気になるのは命ノ星座名ではないでしょうか。

「ポムム・ドゥ・アンブラ Pomum de Ambra」座となっています。

 

命ノ星座名はラテン語表記……と以前に書きましたが、この場合、pomum と ambra はラテン語ですけれども、de はフランス語の前置詞なので、フランス語とラテン語の混用表現に近い形になっています(ラテン語ではこのような場合、前置詞を使わず名詞を語尾変化させて pomum ambrae となる)。

一方で、フランス語ならば pomme d'ambre となります(フランス語の de は直後の単語が母音で始まる場合エリズィオン=縮約して d' となる)。フランス語は(イタリア語やスペイン語なども)ラテン語の遠い子孫ですので、それぞれの語形自体は近いのがわかるでしょう。

 

では、pomum ambrae とは何でしょうか。

結論からいうと、これは今の英語だとポマンダー pomander と呼ばれるもので、香料の原材料となるものを混ぜ合わせ、玉にしたものです。

 

これについてはアロマセラピストによるブログ記事もありましたので紹介しておきます。

 

とまあ、これで終わってもいいんですが、語源こそがこのブログの本番です。

ラテン語で pomum、フランス語で pomme といえば「リンゴ」のことですが、そもそも現代で「リンゴ」と訳される言葉は、古くは果実全般を指していたという説もあります。ラテン語辞典でも pomum の訳語はまず「果実」となっていますね。

ついでに言うと、フランス語で pomme de terre とは文字通りには「大地のリンゴ」ですが、これはジャガイモのことです。

 

Ambra は琥珀のことです。だから pomum ambrae は直訳すれば「琥珀のリンゴ」とでもなります。

英語だと amber で、この名は『原神』だと最初に出会うプレイアブルキャラクターの名前の印象が強いでしょうが。

一方で『崩壊: スターレイル』の方だと、星神クリフォトの異名が「琥珀の王」なので、関連する用語にちょくちょく出てきます。あちらの主人公のスキル名にも出てきます。

 

さらに、派生語として「アンバーグリス ambergris」、文字通りには「灰色の琥珀」となる言葉があって、これは竜涎香(りゅうぜんこう)のことです。マッコウクジラの腸内から取れる結石のことで、貴重な香料として珍重されました。

Pomum ambrae の材料にも竜涎香が使われました。

 

つまり、そのものズバリ、香料の塊を指す星座名だったわけです。

 


 

さて、このブログは言語と元ネタの考察をメインにしているので、攻略情報の話はほどほどにしようかと思っていますが、エミリエは実装間近のキャラクターですし、すでに2024年7月5日の公式予告番組で性能についてもある程度公開済。

少しは触れておきましょう。

 

 

エミリエは控えから元素スキルで攻撃できる、いわゆるサブアタッカーであり、そしてスキルは「燃焼」の元素反応で強化されると説明されています。

『原神』世界の「燃焼」は炎元素草元素の反応で、この反応を受けた相手は文字通り火だるまになり、一定時間継続的にダメージを受け続けます(ダメージ発生は1秒間に4ヒットと高頻度)。

 

……というと強そうに聞こえますが、『原神』の戦闘を追究した場合のダメージレートと比して、燃焼反応のダメージは高いものではありません。

そして何より、最大の欠点は、燃焼しているキャラクターと接触すると敵味方問わずダメージを受けること。

 

動画の14秒目辺りから、敵に草を付着させた上で風で敵の持っている松明の炎を拡散させ燃焼を起こした結果、あっという間に味方のHPバー(画面下中央)が残り3割以下まで減っているのがわかります。

(1回当たりのダメージの数字が737→971と変わっているのは、最初は炎を拡散させた鹿野院平蔵が燃焼を起こしたのが、途中でヨォーヨが草元素を付着させ、ヨォーヨのステータスを参照する燃焼に上書きされているため)

 

アクション要素のあるゲームで爆発などの攻撃を放つと味方も範囲内に巻き込まれて見えますが、それでもダメージを受けるのは敵だけというのが普通です。そうでないと扱いにくくて仕方ありません。マルチプレイでフレンドリーファイア(友軍誤射)などされたら最悪です。

『原神』ももちろんそうですが、燃焼と開花という元素反応だけは例外です(開花は水と草の元素反応で、植物の種を発生させ、その種が破裂してダメージを与えます)。

ただ、開花の場合、味方の受けるダメージは敵の5%だけ。敵味方同じダメージを受けるのは燃焼だけです。

 

「敵味方問わず」でヒット数の制限もないため、理論上は燃焼している敵複数体を集めて密着させれば何倍ものダメージを与えられる計算になりますが、そこまで密着させられる場面は限られているので実用性はあまりありません。

 

『原神』で味方キャラクターのHPは1万6000~2万くらいが標準的で、もっとHPを伸ばす価値のあるキャラクターでも3~4万の大台なら十分、5~6万を稼げるキャラクターはかなり少数です。

それに対して、「深境螺旋」などの高難易度コンテンツのボスは100~200万のHPがあります。

敵の方がHPが2桁高いのに敵味方同じダメージを受ける、これは欠陥以外の何物でもありません。

 

上の動画では秒間971ダメージ×4回で3884ダメージになっていますが、必要ステータス(燃焼はキャラクターのレベルと「元素熟知」のみを参照)を盛れば秒間3000ダメージ×4回くらいは十分出ます。

あらゆるダメージを一定量まで吸収し無効化するシールドでも吸収量1~2万あれば上出来なので、あっという間に消し飛びます。

 

まあ、「密着」という範囲は狭く、近接戦闘をしていても常時敵に密着しているわけではないので、実際には敵の燃焼状態でダメージを受ける頻度はもう少し下がります。さらに、遠距離攻撃キャラクターならば比較的安全に戦うこともできるでしょう。

しかし、「同じ元素で同じ戦法を使おうにも近接攻撃アタッカーが極端に不利になる」というのが正当に想定されたゲームバランスなのかは疑問です。

 

というわけで、燃焼反応を活用できるようにするための最大の必要条件は反応を強化するとかではない、味方の受ける燃焼ダメージを減らすこと、これは自明の理でした。

 

と思っていると、エミリエは「味方の受ける燃焼ダメージに対する炎元素耐性を上げます」とのこと。

さすが、何が必要なのかよくわかっています。

(ただ、「耐性」は80%を超えた分は効果が薄くなり、耐性100%以上でもダメージは0になりません。これでどのくらいダメージが軽減できるのかは、やや気になるところですが)

 

なお、ver4.6 で、敵が燃焼状態にあると強化を得られる聖遺物「遂げられなかった想い」が実装されていたので、当然エミリエは燃焼キャラクターでこの遺物が適性装備になる……という予想は、以前からありました。

 

が、私は懐疑的です。

理由は単純で、

  1. そもそも誰にとっても無条件で最適装備とはならない聖遺物はすでにいくつもある
  2. 特に、特定の元素反応に特化した聖遺物はそうである
  3. 他の候補と比べてみても……

ですね。

 

たとえば、ver3.3 では開花反応の強化に特化した聖遺物「楽園の絶花」が実装されましたが、

これは開花の強化に特化したキャラクターであるニィロウの適性装備ですらありません(ニィロウは単純にHPを上げた方が良いため)。

 

こうして先例を見ると、「燃焼依存で強化を得る聖遺物が実装されたから、それを使うキャラクターが実装されるはずだ」「ましてや、燃焼依存のキャラクターが実装されるのだからそのキャラクターの適性装備に違いない」という推論は、それほど根拠がないことに気づきます。

3 他の候補との比較は当然ながら、ステータスの詳細が判明しなければ結論は出ませんが、主な候補と比較を見ても……なんですよね。

このブログでは攻略情報は程々にしておきますが、そちらに興味のある方は下記の久印の HoYoLAB 投稿をご覧ください。
 
【8月1日追記】
エミリエの能力詳細が判明したので、それを踏まえてこちらに書きました。
 

 

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