本日は春分の日であり、日本では国民の祝日である。この日をはさんで前後7日間が春の彼岸であり、彼岸の中日ということで墓参りをされる方も多いと思う。
一方、春分の日という言葉から私が思い出すことはメキシコの「ククルカンの降臨」である。これは、メキシコのチェチェン・イツァ遺跡において春分・秋分の日に起きる「ククルカンの降臨」という珍しい現象である。2年前にここを訪問した時には春分の日ではなかったのでこの現象を見ることが出来なかったが、その際この話を聞いて、なんと壮大で神秘的な現象であるかと驚いたものである。
ククルカンのピラミッド(神殿)
チェチェン・イツァ遺跡はメキシコ東部のユカタン半島のつけ根の密林にある有名なマヤ文明の遺跡である。チチェン・イッツァとはユカタン語で「イツァ人の湖の畔」ということである。ユカタン半島は石灰岩からなる非常に広大な台地であり、カルスト地形が発達している。そして、大きな山や川もなく多くは密林となっている。この地に降る雨は土に染み込んで地下水脈を流れ、多くの場所に流れる地下水がセノーテと呼ばれる泉として湧き出だしているのである。
遺跡には神殿、球戯場、セノーテ(聖なる泉)、天文台など多くの遺跡があり、その中心として、「ククルカンの神殿」と呼ばれる有名なピラミッドがある。これは王を葬る墓とともに神に祈りを捧げた巨大な神殿である。マヤの最高神が祭られたこのピラミッドは1000年以上前の古代マヤ文明によって建てられ、底面は55.3m、高さは24m、大きな9段の階層からなり、最上部の神殿で構成されておりマヤ歴を表していると言われている。周囲4面に各91段の急な階段が配置されているが、ピラミッドの階段は4面の91段を合計すると364段で、最上段の神殿の1段を足すと、ちょうど365段である。また1面の階層9段は階段で分断されているので合計18段となり、これらはマヤ暦の1年(18月X20日と5日=365日)を表している。このことからこのピラミッドは「暦のピラミッド」とも呼ばれているのである。
ククルカンの頭部
ククルカンとはメキシコ中央高原で古くから信仰されていたケツアルコアトル(羽毛のあるヘビ)のマヤ語名であり、10世紀ころにククルカン信仰はユカタン半島にもたらされ、「風とハリケーンの神」とも言われている。ピラミッド北側階段の最下段にはククルカンの頭部の彫刻がほられている。そして、春分の日・秋分の日に太陽が沈む時、ピラミッドが真西から照らされた光とピラミッド西端の影によって北側階段の西側にククルカンの胴体(蛇が身をくねらせた姿)が現れ、最下段の石造りの蛇神の頭と合体するのである。これが「ククルカンの降臨」と呼ばれる現象である。
ククルカンの降臨(階段に蛇の胴体が確認できる)
上記写真は実際にその現象を捉えた写真である。マヤ文明はメキシコ・ユカタン半島で紀元前3世紀から16世紀に栄えた文明であるが、最盛期の6~9世紀、マヤ人は天文学や数学の高度な知識を駆使して都市計画や農耕を発展させ、高度な天文学を駆使してこのような壮大で魅力的な建築物を建造したことに驚かざるを得ない。
もし機会があれば、再びこの時にこの地を訪れて実際の現象に立ち会ってみたいものである。
[K.Takagi記]