#0277【まさ56】「障害」それとも「障碍」はたまた「チャレンジド」?(2020.3.17) | コトバあれこれ

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子ども作文教室、子ども国語教育学会の関係者による
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 横浜地方裁判所は16日、神奈川県相模原市の知的障害者施設で入所者19人を殺害した罪などに問われた植松聖被告に対し、死刑の判決を言い渡した。植松被告の行為は残虐で理不尽だが、そのことが今回のテーマでは無い。「知的障害者」の「障害」という言葉が今回のテーマである。新聞記事やテレビのニュース番組のテロップでは「障害」が使われているが、筆者にはこの言葉に違和感を覚える。特に、身体障害者や知的(精神)障害者として使われる場合、違和感が強くなる。なぜか。「害」という語には災害や害悪など否定的意味が強いからである。心身障害者は自ら好んで障害者になったわけではない。病気や事故などによるものが多い。高齢になれば、程度の差こそあれ、誰しもが「障害者予備軍」になる。そう考えると、心身障害者という表現は適切とは言えないだろう。

 

「障害」より「障碍」の方が適切

 これまで「障碍者」や「障がい者」というように、漢字平仮名混じりで表現されることもあった。常用漢字について話し合う文化審議会国語分科会は2018年11月、「碍」の使用について「相応の審議が必要」として結論を先送りしたが、「地方公共団体や民間の組織が『碍』を使うことを妨げるものではない」との考えを示していた。法律や公文書で使う漢字は常用漢字表が基準になっており、妨げるという意味がある「碍」の字は含まれていない。だが、2020年の東京パラリンピックを見据え、衆参両院の委員会が19年、法律で「障碍」と表記できるよう常用漢字表に「碍」を加えることを求める決議をした。

 これを受けて、兵庫県宝塚市は19年4月から「障害」の文字を使わず「障碍(がい)」と表記する方針を決めた。災害や害悪など「害」に否定的なイメージがあり、障害者の中に不快に思う人がいるというのが理由だ。

 同市はこれまでホームページや広報資料では「障がい」と平仮名交じりで表記してきたが、市内の障害者の関係団体に意見を聞いた結果、「障碍」の表記におおむね異議はなく、表記を改める方針を決めたという。

 

 

 白川静氏の『字通』を見ると、「碍」は石などに遮られて進み得ないことを言う。妨げる、遮る、止める、隔てる、防ぐという意味がある。例えば、「碍子」は電気を遮断する役割がある。心身障害者に対する社会の壁がいまだにあると考えれば、障碍者がふさわしいかもしれない。一方、「害」は把手のある大きな針と口で構成されている。口は祝詞を収めた器とされ、その器に上から把手のある大きな針を加え、その祝詞の効力を妨げる意と、白川氏は解説している。字の起源からも否定的な意味である。

(碍子の一例)

後ろ向きではなく、前向きの表現で

 欧米では「障害者」をどう表現しているのか。persons with disabilitiesやthe challengedという表現が知られている。心身障害者も人間であることに変わりはない。たとえ、健常者に比べて能力的に劣っているとしても、自分のできる範囲で社会の支援も得て各自の人生を生きていくというのが理想的ではないだろうか。

 ただ、障害者はもちろん、障碍者という言葉も前向きではない。英語のpersons with disabilitiesも同様だろう。そんな中で私はthe challengedを推薦したい。カタカナ日本語になるが「チャレンジド」である。漢字や大和言葉にすると、「挑戦者」や「挑(いど)む人」となろうか。新型コロナウイルスの流行で不透明感が出てきた「東京パラリンピック」にふさわしい言葉と思うが如何だろうか。