(劇評・12/12更新)「伝えたいことをどこまで伝えるか」なかむらゆきえ | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2021年12月4日(土)19:00開演のLAVIT『404 NOT FOUND』についての劇評です。


開演前、ピーピーという不規則なリズムの電子音が小さく流れていた。タイトルも『404 NOT FOUND』だし、デジタルな世界が始まるかと思ったら、意外にもLAVIT(ラビ)自身の生声によるアカペラで始まった。LAVITの公演を観るのは3度目だ。ダンス公演は普段演劇ばかり観ている私にはあまり縁がない。ミュージカルを観ることはあるのでダンスを全く見ないわけではないが、必ず言葉がある。歌で始まることで私のようなダンス公演に不慣れなものでも、LAVITの世界に入りやすくしてくれた。

歌は映画『千と千尋の神隠し』の主題歌だった。オレンジ掛かった照明に照らされたLAVITの歌は、普通に言葉を話しているような声のトーンだ。元の歌詞をよく覚えていなくて、果たして既存の歌詞なのかこの公演に合わせた歌詞に作り変えたのかわからなかった。まるでLAVIT自身の言葉のように聞こえたからだ。その言葉は心地よく体に沁みた。

ダンスパートで最初に表現されたのは、パソコン画面でパスワードを入力するがなかなか入れない場面。白抜きでLAVITのマークが入っている真っ赤でゆったりしたTシャツと、サングラスが印象的だ。サングラスには音楽に合わせて文字や模様が映し出されていた。バックのスクリーンにはパスワード入力画面が投影されている。映像は見ていて飽きが来ない要素の一つだった。ストーリーそのものも分かりやすくテンポもよかったので、どんどん引き込まれた。

パスワードを無事に入力するとLAVITは次々と別の世界に入っていく。最初の世界ではスクリーンに投影された数人のダンサーたちと同じダンスを一緒に踊る。また、ビルやネオンが光る外国の街が映し出される。真っ赤な照明の中で戦いの只中にいるイメージの表現では、LAVITが命を落としたかのように見えた。その後、心音をモニターするグラフが独特の音と共にスクリーンに映し出された。LAVITの公演前にアップされたFacebookの記事には近しい人の生死にかかわる記述があった。これはLAVIT自身のことを表現しているのかもしれないと感じた。

衣装も場面ごとに変わっていて、次の場面では白い光の中に白い衣装を着たLAVITが表れた。胸のドレープが悟りを開いた如来の胸元のように見え、その姿は一度消えた命が力強く復活したように感じた。スクリーンにタイトルの「404 NOT FOUND」が映し出されて最初と同じ衣装に戻った。そして冒頭と同じように「千と千尋の神隠し」をアカペラで歌う。歌詞ははじめに歌った部分の続きだった。ただ最初に聞いたときほどの意外性や感動はない。LAVITが伝えたいことはダンスで十分表現されていたし、それを私は受け取れていると思っていた。どうしてここで続きを歌ったのだろう。ダンスを見ることに不慣れな私でも、そのパフォーマンスによって伝えたいことが分かった気がしていた。そのダンスでパワーが入ってくる感覚がとてもよかった。LAVITがかつてはまっていた演出家に表情が似ている瞬間があって、そういうところもちょっとしたツボだった。そうやってLAVITのダンスに入り込んでいく感じが心地よかったのに、ダンスで終わらなかったのはなぜだろう。

LAVITがどうしても伝えたかった言葉を知りたくて終演後にラストに歌った歌詞を確認した。「輝くものはいつもここに わたしのなかに見つけられたから」(「いつも何度でも」作詞:覚和歌子)。LAVITが白い衣装で現れたとき、迷いが消え、前向きに吹っ切れたようなものを感じた。紆余曲折楽しみ苦しみを体験するなかで自分を見失う瞬間があったLAVITが、自分のなかに自分はあったことを明確に表現したと私は捉えた。「404 NOT FOUND(=見つからない)」のではなく、ここにあったのだ。ラストの歌はすでにLAVIT自身が伝えたものをわざわざ言語化した形になった。もしかしたらパフォーマンスだけではメッセージがうまく伝わらない場合もあるかもしれない。だとしても歌で解釈を固定せずに、もっと観客に委ねるという寛容さがあってもいい。自分のなかに輝くものを見つけ前に進んだLAVITなら、観客からの自由な反応も輝きを増すための糧とするだろう。



(以下は更新前の文章です)

開演前、ピーピーという不規則なリズムの電子音が小さく流れていた。タイトルも『404 NOT FOUND』だし、デジタルな世界が始まるかと思ったら、意外にもLAVIT自身の生声によるアカペラで始まった。LAVITの公演を観るのは3度目だ。ダンス公演は普段演劇ばかり観ている私にはあまり縁がない。ミュージカルを観ることはあるのでダンスを全く見ないわけではないが、必ず言葉がある。歌で始まることで私のようなダンス公演に不慣れなものでも、LAVITの世界に入りやすくしてくれた。

歌は映画『千と千尋の神隠し』の主題歌だった。オレンジ掛かった照明に照らされたLAVITの歌は、普通に言葉を話しているような声のトーンだ。元の歌詞をよく覚えていなくて、果たして既存の歌詞なのかこの公演に合わせた歌詞に作り変えたのかわからなかった。まるでLAVIT自身の言葉のように聞こえたからだ。その言葉は心地よく体に沁みた。

ダンスパートで最初に表現されたのは、パソコン画面でパスワードを入力するがなかなか入れない場面。白抜きでLAVITのマークが入っている真っ赤でゆったりしたTシャツと、サングラスが印象的だ。サングラスには音楽に合わせて文字や模様が映し出されていた。バックのスクリーンにはパスワード入力画面が投影されている。映像は見ていて飽きが来ない要素の一つだった。ストーリーそのものも分かりやすくテンポもよかったので、どんどん引き込まれた。

パスワードを無事に入力するとLAVITは次々と別の世界に入っていく。最初の世界ではスクリーンに投影された数人のダンサーたちと同じダンスを一緒に踊る。また、ビルやネオンが光る外国の街が映し出される。真っ赤な照明の中で戦いの只中にいるイメージの表現では、LAVITが命を落としたかのように見えた。その後、心音をモニターするグラフが独特の音と共にスクリーンに映し出された。LAVITの公演前にアップされたFacebookの記事には近しい人の生死にかかわる記述があった。これはLAVIT自身のことを表現しているのかもしれないと感じた。

衣装も場面ごとに変わっていた。心音のモニターの次の場面では、白い光の中に白い衣装を着たLAVITが表れた。胸のドレープが悟りを開いた如来の胸元のように見え、その姿は一度消えた命が力強く復活したように感じた。まるでフィナーレのようだった。スクリーンにタイトルの「404 NOT FOUND」が映し出されると、最初と同じ衣装に戻った。そして冒頭と同じように「千と千尋の神隠し」をアカペラで歌う。

歌詞ははじめに歌った部分の続きだった。ただ最初に聞いたときほどの意外性や感動はない。LAVITが伝えたいことはダンスで十分表現されていたし、それを私は受け取れていると思っていた。どうしてここで続きを歌ったのだろう。ダンスを見ることに不慣れな私でも、そのパフォーマンスによって伝えたいことが分かった気がしていた。ダンスがパワーが入ってくる感覚がとてもよかった。LAVITがちょっと一時期はまっていた演出家に表情が似ている瞬間があって、そういうところもちょっとしたツボだった。そうやってLAVITのダンスに入り込んでいく感じが心地よかった。

LAVITがどうしても伝えたかった言葉を知りたくて終演後にラストに歌った歌詞を確認してみた。その歌詞を見て、おそらく私はLAVITのメッセージを理解できていたと思う。ただ、歌で解釈を固定せずに、もっと観客に委ねた自由な終わり方にしてもよかったのではないだろうか。