(劇評・12/8更新)「小さな物語にぎゅっと詰めて」大場さやか | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2021年11月27日(土)19:00開演の浪漫好 -Romance- 『ポケット芝居』についての劇評です。

 浪漫好 -Romance- 『ポケット芝居』は3本の短編からなるオムニバス公演だった。ポケット芝居とは当日パンフによると「まるでポケットの中に入る様なスケールが小さく、でも何処か身近に感じる“お話達”」とある。舞台壁面中央では縦長方形のスクリーンになるように黒いカーテンが開けられており、ここには開演時にキャストやスタッフ名のオープニングムービーが映された。上手には事務机が一台と、椅子が二脚置かれている。

 一話目は「冬にはね 数学よりも 物理だね」。この俳句を作った生徒・平田(岡島大輝)を教師(横川正枝)が呼び出した。俳句を適当に作ったことで平田が怒られていると、教師に来客がある。レインボーカラーのアフロヘアーに派手な衣装を着たその人はブリトリー佐々木(秋山アレックス)。俳句コンテストの偉い人であった。教師は生徒達の俳句をコンテストに送っていたのである。そしてまさかのコンテスト大賞を、平田の適当な句が受賞するというのだ。納得がいかない教師とブリトリーの間で、俳句バトルが勃発する。

 続いては「小さな嘘からコツコツと」。無職で金がなく、母親に詐欺まがいの電話をしてしまった杉田飛鳥(西村優太朗)。自責の念に駆られて公園を歩く彼に、暇人(山崎真優)と名乗る女性が声をかけてきた。希望を失って自暴自棄の飛鳥に暇人は、小さな嘘をついていくことを提案する。嘘も本当になるというのだ。半信半疑ながら母に「就職が決まりそう」と電話をした飛鳥は、しばらくして本当に就職を決める。暇人にそそのかされて願った通りに、恋人(守伽奈恵)もできる。その頃公園では、刑事(青野英敏、西田直也)が誰かを探しているようだ。しばらくして暇人に借りた本を返そうと飛鳥は、恋人と公園を訪れるのだが、そこに暇人の姿はない。

 最後は「野口と樋口と諭吉」。お札を擬人化した作品だ。消費税が8%から10%に上がり、一万円札の福沢諭吉(平田渉一郎)には千円札の野口英世が付いてくることになった。うざったい野口を嫌がる諭吉。しかし消費税がまた上がってしまう。野口は3人(杉山佑介、岡島大輝、秋山アレックス)に。野口たちへの対応で疲れ果てた諭吉の前に、樋口一葉(横川正枝)が現れる。そう、消費税が50%になってしまったのだ。

 以上、3作品が上演されたのだが、オムニバスと言われても、何か共通項があるのではと勘ぐってしまった。1作目と2作目にお茶のペットボトルが登場することしか筆者は見つけられなかった。関連はなくともよいのだが、3作を貫く存在があると、個々の物語により強い意味が出せたのではないか。
 3本の上演が終了後、キャストが全員舞台に登場した。終演のご挨拶かと思いきや、鳴り出した音楽は星野源の『SUN』。軽快な曲に合わせ、キャストたちは踊り出す。観客には手拍子を求め、そして振付も一緒にと促される。笑顔で踊るキャストたちを観ながら、これでまとめていい感じに持っていってしまうのは力技が過ぎないかと感じてしまい、手拍子はできても振りはできなかった。
 全体的に素直でストレートな表現がされている芝居だと感じられた。彼らは懸命に演技で語りかけてきていた。自分たちの思いを届けようと全力を尽くしていた。笑ってもらおう。何か感じてもらおう。その気持ちは伝わった。しかし、ラストの大団円で一緒になって踊れるほどの高揚感や没入感を筆者は持てなかった。

 そんな観客をも感動させ、芝居に熱中させるにはどうすればよいだろうか。少し引いてみることなのではないかと思う。ちょっと後ろに下がり、少し離れた位置から情報を差し出せば、何がそこにあるのかとより興味を惹かれるのではないか。そのためにもう少し情報や設定がほしい。俳句の偉い人はどんな俳句を詠み、何を面白いの基準にしているのか。暇人さんはなぜいつも公園に来ているのか。消費税増を今取り上げた理由は何か。いろいろな疑問があった。例えば2作目なら、暇人さんが持っていた本を、もっと使ってもよかったのではないか。なぜ本を持っているのかはラストで理解できたが、より効果的な使い方は考えられる。冒頭で本の一部を読んでみるなどしてもよかったかもしれない。全てを説明すると今度はうるさくなってしまうのでバランスが難しいが、「そういうことか」と観客の気を惹いてほしい。そこから観客が「だからこうかな」と自分なりに想像する余地を与えてほしい。

 ポケットに入るような、小さな物語たちである。しかしそれを表現する俳優たちは、溢れんばかりの熱量を持っていた。その熱を大切にしながら、けれどよりよい状態で観客に届くように。細部に気を配り、小さな物語を濃密にすることはできる。


(以下は更新前の文章です)


 浪漫好 -Romance- 『ポケット芝居』は3本の短編からなるオムニバス公演だった。ポケット芝居とは当日パンフによると「まるでポケットの中に入る様なスケールが小さく、でも何処か身近に感じる“お話達”」とある。舞台壁面中央では縦長方形のスクリーンになるように黒いカーテンが開けられており、ここには開演時にキャストやスタッフ名のオープニングムービーが映された。上手には事務机が一台と、椅子が二脚置かれている。

 一話目は「冬にはね 数学よりも 物理だね」。この俳句を作った生徒・平田(岡島大輝)を教師(横川正枝)が呼び出した。俳句を適当に作ったことで平田が怒られていると、教師に来客がある。レインボーカラーのアフロヘアーに派手な衣装を着たその人はブリトリー佐々木(秋山アレックス)。俳句コンテストの偉い人であった。教師は生徒達の俳句をコンテストに送っていたのである。そしてまさかのコンテスト大賞を、平田の適当な句が受賞するというのだ。納得がいかない教師とブリトリーの間で、俳句バトルが勃発する。

 続いては「小さな嘘からコツコツと」。無職で金がなく、母親に詐欺まがいの電話をしてしまった杉田飛鳥(西村優太朗)。自責の念に駆られて公園を歩く彼に、暇人(山崎真優)と名乗る女性が声をかけてきた。希望を失って自暴自棄の飛鳥に暇人は、小さな嘘をついていくことを提案する。嘘も本当になるというのだ。半信半疑ながら母に「就職が決まりそう」と電話をした飛鳥は、しばらくして本当に就職を決める。暇人にそそのかされて願った通りに、恋人(守伽奈恵)もできる。その頃公園では、刑事(青野英敏、西田直也)が誰かを探しているようだ。しばらくして暇人に借りた本を返そうと飛鳥は、恋人と公園を訪れるのだが、そこに暇人の姿はない。

 最後は「野口と樋口と諭吉」。お札を擬人化した作品だ。消費税が8%から10%に上がり、一万円札の福沢諭吉(平田渉一郎)には千円札の野口英世が付いてくることになった。うざったい野口を嫌がる諭吉。しかし消費税がまた上がってしまう。野口は3人(杉山佑介、岡島大輝、秋山アレックス)に。野口たちへの対応で疲れ果てた諭吉の前に、樋口一葉(横川正枝)が現れる。そう、消費税が50%になってしまったのだ。

 以上、3作品が上演されたのだが、オムニバスと言われても、何か共通項があるのではと勘ぐってしまった。1作目と2作目にお茶のペットボトルが登場することしか筆者は見つけられなかった。関連はなくともよいのだが、3作を貫く存在があると、個々の物語により強い意味が出せたのではないか。
 3本の上演が終了後、キャストが全員舞台に登場した。終演のご挨拶かと思いきや、鳴り出した音楽は星野源の『SUN』。軽快な曲に合わせ、キャストたちは踊り出す。観客には手拍子を求め、そして振付も一緒にと促される。笑顔で踊るキャストたちを観ながら、これでまとめていい感じに持っていってしまうのは力技が過ぎないかと感じてしまい、手拍子はできても振りはできなかった。
 全体的に素直でストレートな表現がされている芝居だと感じられた。彼らは懸命に演技で語りかけてきていた。自分たちの思いを届けようと全力を尽くしていた。笑ってもらおう。何か感じてもらおう。その気持ちは伝わった。しかし、ラストの大団円で一緒になって踊れるほどの高揚感や没入感を筆者は持てなかった。

 筆者が感情表現に乏しいという事実はあるのだが、さて、そんな観客をも感動させ、芝居に熱中させるにはどうすればよいだろうか。少し引いてみることなのではないかと思う。押しを強く距離を詰め過ぎると、相手は自分のパーソナルスペースを侵されたように感じてしまう。だがここで少し距離を取ってみることで、相手は安心するかもしれない。ちょっと後ろに下がり、少し離れた位置から情報を差し出せば、何がそこにあるのかとより興味を惹かれるのではないか。そのためにもう少し情報や設定がほしい。俳句の偉い人はどんな俳句を詠み、何を面白いの基準にしているのか。暇人さんはなぜいつも公園に来ているのか。消費税増を今取り上げた理由は何か。いろいろな疑問があった。全てを説明すると今度はうるさくなってしまうのでバランスが難しいが、「そういうことか」と観客の気を惹いてほしい。そこから観客が「だからこうかな」と自分なりに想像する余地を与えてほしい。

 ポケットに入るような、小さな物語たちである。しかしそれを表現する俳優たちは、溢れんばかりの熱量を持っていた。その熱を大切にしながら、けれどよりよい状態で観客に届くように。細部に気を配り、小さな物語を濃密にすることはできる。