(劇評)「ロマンを愛する人たちのショートショート」小峯太郎 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
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#劇評講座2021
この文章は、2021年11月27日(土)19:00開演の劇団浪漫好-Romance-『ポケット芝居』についての劇評です。

 フランス語には小説を表す言葉としてコント/ヌーヴェル/ロマンの3つの区別があるという。ロマンが壮大な歴史=物語を記した長編小説とすれば、ひとまずヌーヴェルは短編・中編小説、コントは掌編小説、いわゆるショートショートと呼ばれるジャンルとなる(ヌーヴェルとコントの違いには諸説ある)。
 演劇にもコントと呼ばれるジャンルがある。お笑い芸人の漫才やテレビ番組でもお馴染みだが、シチュエーションやキャラクターのアイディアが面白く、笑いや社会風刺の要素があり、印象的な結末を迎える短いお芝居のことだ。
 劇団浪漫好-Romance-はそんなコントを自分流に「まるでポケットの中に入る様なスケールが小さく、でも何処か身近に感じるお話達」と定義し、「ポケット芝居」と名付けた3つの小品から成るオムニバス公演を金沢市民芸術村ドラマ工房で上演した。
 穿った見方だが、劇団名が「浪漫好」なので、浪漫=ロマン=長編小説好きの人たちが敢えて短いお芝居に挑んだとも読めてしまうのが面白い。やはり得意とするジャンルではないからか、ショートショートとしてはアイディアの点でも、印象的な結末という点でも鋭い切れ味はあまり感じられなかった。
 第1話目の「冬にはね 数学よりも 物理だね」は、高校生が詠んだ同俳句がドラッグクーン風の俳諧師に激勝されて賞にノミネートされるというコメディ。なぜこの俳句が褒められるのか、その奥に潜むウラが明かされることもなく、特に印象的なオチもないまま終わる。第3話目の「野口と樋口と諭吉」は、消費税が今後30%、50%、80%に上がっていく暗黒の未来を、嫌がる諭吉についてまわる3人の野口英世と1人の樋口一葉による掛け合いとダンスで描くブラックなエンターテインメント。消費税への批判や消費社会への風刺ということは理解できるが、もっと他に表現の仕様があったのではないだろうか。
 その中では、第2話「小さな嘘からコツコツと」は笑いの要素はないが、短編として独特の風合いを残す作品だった。仕事もなく、実母にオレオレ詐欺をはたらくまで零落してしまった杉田飛鳥(西村優太朗)。ベンチで一人たたずむ彼に暇人と名乗る若い女性(山崎真優)が声をかける。自嘲気味についつい身の上話をしてしまう飛鳥に対して、暇人は「小さな嘘をこつこつついていけばいい。それが本当になるからから。」と励ます。その言葉を胸に飛鳥は就職も決まり、彼女もできる。そして「友達」である暇人に彼女ができたことを晴れて報告に行く。しかし、なぜかその場は微妙な空気に……飛鳥は自分が本当に好きなのは暇人であると気づくのだが、運命のいたずらか、正体不明だった暇人に警察の手が伸びる……。
 社会から一度ドロップアウトした者が、就職して彼女を持つというかつて当たり前だった社会的ステータスを獲得することが当世いかに難しいかということにもしみじみ感涙するのだが、テンポ良い展開の中で、飛鳥と暇人の関係性の微妙な変化が役者の身体を通して感じられたのがとても良かった。特に明るさと絶望が同居する暇人のどこか浮遊感のある姿が印象深いラストシーンを作り出した。
 オムニバス公演のラストは全ての登場人物が舞台上に出てきて、星野源の“SUN”をフルコーラスに合わせて踊る(振付:吉田莉芭)というハッピーな大団円となった。第1話と第3話にもう少しショートショートしての切れ味があれば、客席で一緒になって踊る人たちの後塵を拝することもできたかもしれない。パラレルワールドにいるような不思議な感覚の中で、ただただ暇人を演じた女優さんの満面の笑顔から目が離せないのだった。

小峯太郎(劇評講座受講生)