(劇評・12/7更新)「人を信じるまっすぐさ生かして」原力雄 | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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本ブログは金沢市民芸術村ドラマ工房が2015年度より開催している「かなざわリージョナルシアター」の劇評を掲載しています。
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この文章は、2021年11月27日(土)19:00開演の劇団浪漫好 -Romance- 『ポケット芝居』についての劇評です。

粗削りだが、不思議な魅力がある。11月27、28日に金沢市民芸術村ドラマ工房で上演された劇団浪漫好 -Romance- 『ポケット芝居』(脚本・演出:高田滉己)は、「冬にはね 数学よりも 物理だね」「小さな嘘からコツコツと」「野口と樋口と諭吉」の3本からなるオムニバス作品だ。いずれもコメディー風を装ってはいるが、笑いを本気で狙っているとは思えなかった。もしかしたら、戯曲の弱さを自覚しているが故に、表面的なドタバタでごまかそうとしたのだろうか。どこか中途半端だった。それにもかかわらず、おそらくこんなことを言いたいんだろうなという作り手の気持ちは何となく伝わって来た。特にシリアスなドラマに挑戦した2本目の「小さな嘘からコツコツと」は、切なさがあり、人を信じるまっすぐさがうかがえた。こんな持ち味をもっと生かしてほしいと願う。

1本目は俳句をテーマにしたコント的な作品。生徒(岡島大輝)の作った俳句があまりにも適当過ぎるので、国語の先生(横川正枝)が呼び出して注意していたところへ、俳句界のスーパースターと呼ばれる男(アレックス秋山)が登場。問題の作品は俳句コンクールの最終選考に残っているが、念のために意図を聞きに来たという。生徒が適当に作ったことを正直に白状すると、男は気に入った様子で最優秀賞に選ぶと宣言する。俳句をもっと崇高な芸術だと信じていた教師はいい加減さに怒りを覚え、そこら中にあった俳句カードを彼に向かって投げつける。男はその中の一枚にふと目を止め、これこそ最優秀賞にしたいと言い出す。それは教師が夏休みに一か月間かけて練った作品だった。状況の変化に当惑しつつも嬉しさを隠せない教師。とは言え、男が去った後、教師は何となくどうでもいいような感じになる。体を張ったドタバタ喜劇でありながら、曖昧な評価基準に頼らざるを得ない芸術文化に対する素朴な不信感をしのばせていた。

2本目はややシリアスなドラマだった。公園のベンチに座ってうなだれる飛鳥(西村優太朗)のそばへ、自ら暇人と名乗る奇妙な女性(山崎真優)が現れた。彼女によれば、言葉には言霊(ことだま)があり、口に出して言ったことは実現するという。したがって、幸福になりたければ、誰かに前向きな嘘をついてみろとけしかける。半信半疑だった男だが、母親に電話をかけて勤め口が見つかりそうだと報告してみると、不思議なことにスーパー店員として就職できた。その調子で彼女ができたら女に紹介するなどと笑っていたが、実際に彼女もできた。しかし、飛鳥が彼女を連れて公園のベンチを通りかかった時、女の姿はもはや見当たらないのだった。

面白い作品だと思った。しかし、最初に通りすがりの男女がいきなり話し始めるのがいかにもご都合主義的で、落ち着かない気持ちにさせられた。暗い顔でベンチにうずくまっているダメ男に進んで声をかけて来る若い女性は、私の経験では新興宗教の伝道以外には考えられない。また、いくら気が滅入っていたとしても、正体不明な女にいきなり話しかけられて、自分の苦境を率直に打ち明ける男がいるだろうか。自然な会話を成り立たせるにはそれなりに準備が必要だ。十分な手続きを踏まず、物語を強引に進めようとすると、見る者に戸惑いと気恥ずかしさを感じさせてしまう。役者陣の演技が素晴らしかっただけに、導入部がもっとリアルで説得力があったなら、スムーズに話の中身へ入って行けただろうにと残念だった。

例えば、こんな始まり方はどうだろうか。最近流行のマッチングアプリに登録し、チャットで適当なことを書き込んでいたら気が合いそうなのでオフラインでも会うことになった男と女。しかし、二人とも恋愛などとは程遠い状態だった。女はもともと詐欺師なのであくまでも暇潰しのつもり。一方の男は無職で母親に嘘をついてまで生活費を騙し取った罪悪感から自暴自棄に陥っている。彼がアポを取ったのは、素敵な女性から振られることでさらに自分を惨めにしたかったからに過ぎず、当日も相手が本当に来るとは思っていなかった。公園で、女はベンチに座っている男を先に発見する。髪はボサボサでシャツも薄汚れ、5mも先から酒の臭いがプンプン漂ってくる。こりゃダメだと帰りかけるが、意外にイケメンな若い男じゃないかと気付き、少しだけからかってやろうと声をかける……。こんな設定なら、二人の間で自然な会話が生まれるのではないだろうか。

3本目は2019年10月から10%になった消費税という(やや遅い)時事ネタに基づいた風刺劇。お札の肖像画になっているお馴染みの人物が登場し、税率がアップしていく様子を擬人化してみせた。最初に出て来たのは一万円札の福沢諭吉(平田渉一郎)と千円札の野口英世(杉山佑介)。福沢は茶系統の和服を着込み、野口はグレーのスーツ姿で鼻の下にはトレードマークのチョビ髭を生やしている。消費税10%ということで、これから二人で一緒に働く機会が多くなるからよろしくみたいなノリで挨拶する。次の場面ではチョビ髭の野口が三人(杉山、岡島大輝、秋山アレックス)に増え、税率が30%に上がったことを表現した。続いて五千円札の樋口一葉(横川正枝)が登場。税率50%だから仕方ないが、福沢はどうも樋口の無遠慮な性格が苦手のようだ。次は再び三人の野口が姿を見せ、税率もようやく30%に下がったのかと福沢はしばしホッとするが、その後から樋口が押し出して来て、税率80%を告げるのだった。消費税の必要性に理解を示すセリフもあったので、単純な政治批判ではなさそうだが、重税がのしかかる庶民の不安を代弁しているようだった。

(以下は更新前の文章です。)

粗削りだが、不思議な魅力がある。11月27、28日に金沢市民芸術村ドラマ工房で上演された劇団浪漫好『ポケット芝居』(脚本・演出:高田滉己)は、「冬にはね 数学よりも 物理だね」「小さな嘘からコツコツと」「野口と樋口と諭吉」の3本からなるオムニバス作品だ。いずれもコメディー風を装ってはいるが、笑いを本気で狙っているとは思えなかった。もしかしたら、戯曲の弱さを自覚しているが故に、表面的なドタバタでごまかそうとしたのだろうか。どこか中途半端だった。それにもかかわらず、おそらくこんなことを言いたいんだろうなという作り手の気持ちは何となく伝わって来た。特にシリアスなドラマに挑戦した2本目の「小さな嘘からコツコツと」は、切なさがあり、人を信じるまっすぐさがうかがえた。こんな持ち味をもっと生かしてほしいと願う。

1本目は俳句をテーマにしたコント的な作品。生徒(岡島大輝)の作った俳句があまりにも適当過ぎるので、国語の先生(横川正枝)が呼び出して注意していたところへ、俳句界のスーパースターと呼ばれる男(アレックス秋山)が登場。問題の作品は俳句コンクールの最終選考に残っているが、念のために意図を聞きに来たという。生徒が適当に作ったことを正直に白状すると、男は気に入った様子で最優秀賞に選ぶと宣言する。俳句をもっと崇高な芸術だと信じていた教師はいい加減さに怒りを覚え、そこら中にあった俳句カードを彼に向かって投げつける。男はその中の一枚にふと目を止め、これこそ最優秀賞にしたいと言い出す。それは教師が夏休みに一か月間かけて練った作品だった。状況の変化に戸惑いつつも嬉しさを隠せない教師。とは言え、男が去った後、教師は何となくどうでもいいような感じになる。体を張ったドタバタ喜劇でありながら、曖昧な評価基準に頼らざるを得ない芸術文化に対する素朴な不信をしのばせていた。

2本目はややシリアスなドラマだった。公園のベンチに座ってうなだれる飛鳥(西村優太朗)のそばへ、自ら暇人と名乗る不思議な女性(山崎真優)が現れた。彼女によれば、言葉には言霊(ことだま)があり、口に出して言ったことは実現するという。したがって、幸福になりたければ、誰かに前向きな嘘をついてみろとけしかける。半信半疑だった男だが、母親に電話をかけて就職が決まりそうだと報告してみると、不思議なことにスーパー店員として就職できた。その調子で彼女ができたら女に紹介するなどと笑っていたが、実際に彼女もできた。しかし、飛鳥が彼女を連れて公園のベンチを通りかかった時、女の姿はもはや見当たらないのだった。

面白い作品だと思った。しかし、最初に通りすがりの男女がいきなり話し始めるのがいかにもご都合主義的で、落ち着かない気持ちにさせられた。暗い顔でベンチにうずくまっているダメ男に進んで声をかけて来る若い女性は、私の経験では新興宗教の伝道以外には考えられない。また、いくら気が滅入っていたとしても、正体不明な女にいきなり話しかけられて、自分の苦境を率直に打ち明ける男がいるだろうか。自然な会話を成り立たせるにはそれなりに準備が必要だ。十分な手続きを踏まず、物語を強引に進めようとすると、見る者に戸惑いと気恥ずかしさを感じさせてしまう。役者陣の演技が素晴らしかっただけに、導入部がもっとリアルで説得力があったなら、スムーズに話の中身へ入って行けただろうにと残念だった。

例えば、こんな始まり方はどうだろうか。最近流行のマッチングアプリに登録し、チャットで適当なことを書き込んでいたら気が合いそうなのでオフラインでも会うことになった男と女。しかし、二人とも恋愛などとは程遠い状態だった。女はもともと詐欺師なのであくまでも暇潰しのつもり。一方の男は無職で母親に嘘をついてまで生活費を騙し取った罪悪感から自暴自棄に陥っている。彼がアポを取ったのは、素敵な女性から振られることでさらに自分を惨めにしたかったからに過ぎず、その約束も当日にはすっかり忘れていた。公園で、女はベンチに座っている男を先に発見する。髪はボサボサでシャツも薄汚れ、5mも先から酒の臭いがプンプン漂ってくる。こりゃダメだと帰りかけるが、意外にイケメンな若い男じゃないかと気付き、少しだけからかってやろうと声をかける……。こんな設定なら、二人の間で自然な会話が生まれるのではないだろうか。

3本目は2019年10月から10%になった消費税という(やや遅い)時事ネタに基づいた風刺劇。お札の肖像画になっているお馴染みの人物が登場し、税率がアップしていく様子を擬人化してみせた。最初に出て来たのは一万円札の福沢諭吉(平田渉一郎)と千円札の野口英世(杉山佑介)。福沢は茶系統の和服を着込み、野口はグレーのスーツ姿で鼻の下にはトレードマークのチョビ髭を生やしている。消費税10%ということで、これから二人で一緒に働く機会が多くなるからよろしくみたいなノリで挨拶する。次の場面ではチョビ髭の野口が三人(杉山、岡島大輝、秋山アレックス)に増え、税率が30%に上がったことを表現した。続いて五千円札の樋口一葉(横川正枝)が登場。税率50%だから仕方ないが、福沢はどうも樋口の無遠慮な性格が苦手のようだ。次は再び三人の野口が姿を見せ、税率もようやく30%に下がったのかと福沢はしばしホッとするが、その後から樋口が押し出して来て、税率80%を告げるのだった。消費税の必要性に理解を示すセリフもあったので、単純な政治批判ではなさそうだが、重税がのしかかる庶民の不安を代弁しているようだった。