(劇評)「噂の劇団羅針盤を見てきました」なかむらゆきえ | かなざわリージョナルシアター「劇評」ブログ

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この文章は、2017年12月9日(土)20:00開演の劇団羅針盤『聖夜に2度目の鉄槌を』についての劇評です。








今年ほど地元劇団の舞台公演を見た年はなかったと思う。おそらく今回が年内最後の観劇になるだろう。羅針盤『聖夜に2度目の鉄槌を』はリージョナルシアターげきみるの最終公演でもあった。羅針盤公演のチラシは過去に何度も見掛けていたので劇団の名前は知っていた。友人からも何度も名前が出ていた。少し興味がわいていたところで、今回の公演である。開演五分前に会場に入ると、ほぼ満席だった。何とか席を見つけたが、その後最後列と最前列に1列づつ席が追加された。すごいね。と言ったら、人気あるんですよ。と当日偶然会場で出会った友人が答えた。開演前から場内に活気があふれている。期待は高まっていった。

かつて世界中でサンタクロース狩りがあって、多くのサンタクロースが命を落とした。その血を継ぐのがジェド・マロース(平田知大)。正体は隠している。指令を受けサンタクロースの捜索に向かう東條(能沢秀矢)。彼の行く先々で妨害をしてくるドルフィ(矢澤はるな)。この3人が主な登場人物だ。
テンポが良いセリフと、切れのいいアクションで話はどんどん進んでいく。場面場面は理解できるのだがどうしてもまとまったストーリーとして受け取れない。単純にサンタクロースを追うもの、サンタクロースの存在を隠すもの、そしてサンタクロースの復讐をするものという解釈でよかっただろうか。
芝居中に小ネタが散りばめられていて、よく笑いが起こった。小ネタは、台詞のときもあるし動きのときもあった。笑いのツボは年代によってだいぶズレがあると私は思っている。会場の多くの人が笑っていても笑えない場面が何箇所かあった。逆に私のツボに入る場面では、20代の観客に通じているのだろうかと少し心配になったりした。時々、社会派を期待させる言葉が出てくるが、セリフだけ流れていってそのあとそのセリフが生きる場面がないのは物足りなかった。
ああ、これは単純に楽しみたい舞台だなと思った。何も考えずに細かいつじつま合わせなどせずに、人の動きと全体の流れを掴むことだけをして、あとはこのノリを楽しみたいと思った。頭の中を空っぽにする瞬間は現実から一瞬でも切り離してくれる。再び現実に戻ったときに少し元気になれる。そういえばずっとそういう舞台演劇を観てきた。現実から離れる感覚が癖になって観劇がやめられなくなったのだ。しかしいずれそれが刺激ではなくなる。物足りなくなる。別の刺激を求めて次の何かを探しているのが今の私である。ここにずっと私をつなぎ止める何かがあればもっと深く嵌れる気がする。