わたしの教室は、古い木造2階建てで、虫が多い。
夏が近づくと、どこからともなく入ってくる。
どこかの隙間から侵入するのか、人間の出入りの際に紛れ込むのか、とにかく多い。
圧倒的に多いのは、蚊よりちょっと小さい、体長2mmくらいの黒い飛ぶ虫である。
見つけ次第叩きつぶしているが、一向に減らない。
PCで作業している周りを飛び回ったり、ディスプレイの上を歩いていたりするのは、うっとうしい。
枕草子に、そのような虫に関する記述があったような気がして、探してみた。
「虫は~」(角川文庫40段)の一節である。
夏虫、いとをかしう、らうたげなり。火近う取り寄せて物語など見るに、草子の上などに飛びありく、いとをかし。
〔訳〕夏の虫は、とても素敵でかわいい。火を近づけて物語などを見ていると、書物の上などを飛び回るのは、とても素敵だ。
清少納言は、火に集まってくる夏の虫を、「いとをかしう、らうたげなり」と言っている。
「らうたげ」とは、主観的にかわいくいとおしく感じる気持ちである。
この感覚は、わたしには理解できない。
当時の一般的な美意識なのか、清少納言独自の感覚なのか。
この章段、冒頭で虫を列挙している。
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。きりぎりす。はたおり。われから。ひをむし。蛍。
鈴虫、ひぐらし、きりぎりす、はたおりなどの、鳴き声の美しい虫を愛でる気持ちは理解できる。
蝶は、見た目の美しさが格別である。
われからは、歌に詠まれる虫である。
伊勢物語58段に、有名な歌がある。
恋ひわびぬ海人の刈る藻にやどるてふわれから身をもくだきつるかな
海に住む節足動物で、見た目は感じの良いものではない。
殻を割って脱皮するところから「割れ殻」と呼ばれ、和歌では「我から(自分自身のせいで)」と掛詞にして詠まれる。
ひをむしは、蜻蛉のことで、はかないものとして歌に詠まれる。
真っ先に挙がりそうな蛍が、下位に登場するのは意外である。
わたしの好きなカブトムシ、クワガタなどの甲虫は登場しない。
平安貴族の嗜好に合わなかったのだろうか。
わたしの教室では、ときどきダンゴムシも見かける。
昔は何と呼ばれていたのか、古典の作品の中では見たことがない。
梅雨時には、ナメクジも見かける。
いったいどこからどうやって入ってくるのか、謎である。
昨日は裏庭でトカゲを見つけた。
ど田舎の、大自然の中のような教室である。