ハロー、イノセント | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 娘に勧められて、『ハロー、イノセント』(酒井まゆ、りぼんマスコットコミックス)という漫画を読んでいる。

 漫画はあまり得意でないし、10代前半の女子向けの作品なので、ついていけないかもしれないと思ったが、今の中学生がどんなものを読んでいるのか、どんなことを考えているのか、知っておくのは悪くないと思い、読み始めた。

 第1巻を読み終えた。

 

 高校1年生の優等生男子が、不良っぽい訳あり風の女子と偶然知り合い、恋に落ちて成長していく、という話である。

 ストーリーはベタで単純でたいして面白くないが、主人公の心の動きには共感できるところがあった。

 主人公の早瀬雪灯(15歳、高校1年生)は、学業成績優秀(特待生)で、運動もできて(中学時代に剣道で全国大会出場)、親孝行で兄弟思い(父を亡くし、母と祖母を支えながら妹の面倒も見ている)、という、出木杉くんのような少年である。

 思慮深く、常に正しい行動をとる模範的な男子で、クラスの女子にはモテモテ、男子からうらやましがられる、という、いかにも少女漫画の主人公らしいキャラクターである。

 その雪灯が、ゲームセンターで不良にからまれているところを助けてくれた少女(ベタな設定!)が、同じクラスの不登校の美少女、宝生結以に惹かれていく。

 二人の境遇について、第1巻では詳しいことはまだわからない。

 雪灯の父の死について(警察官だったらしい)、結以の家族について(結以はなぜかライブハウスに住み込んでおり、父は外国にいる)、これから明らかになっていくのであろう。

 

 さて、この漫画の共感できたところ、である。

 雪灯は結以の乱れた生活について、問い質して説教めいたことをいうのだが、結以の自分に対する態度から、ほんとうに必要なのは正論や説教ではなくそのままの結以を受け止めてあげることだと気づく。

 このブログで先日紹介した、歌人の永田和宏氏「知の体力」で、永田氏も同じことを書いていた。

 妻の河野裕子氏が癌になったとき、永田氏は癌について書物を読んで勉強し、常に理性を持って妻に教えてきたが、妻が求めていたことは、ただ一緒に悲しんでくれることだったと、妻が亡くなったあとに気付いた、という話であった。

 知性や論理に従って行動することは、必ずしも正しいことではない。

 人間はそれほどきちんした生き物ではない。コンピューターのようにプログラムどおりに行動するのではないのである。

 正しくなくても、自分の悲しみや苦しみを、ありのままに受け止めて欲しいときがあるのである。

 理性的に論理的に正しい考えに基づいて結以や裕子さんに対処した雪灯や永田氏は、間違っていたのである。

 この間違いは、わたしもしょっちゅう犯している。

 

 ほんとうに人と人が分かり合うためには、相手の言葉や行動に耳を傾け真っ直ぐ見つめ、一緒に苦しみ、悲しむことから始めなければならない。

 ついえらそうに正しいことを言いたがるわたしは、深く反省しなければならない。

 少女漫画から大切なことを学んだ。

 

 雪灯と結以の関係がどのようになっていくのか、今後の展開から目が離せない。