郷隼人さんの著作、『LONESOME隼人』と『LONESOME隼人 獄中からの手紙』を読んだ。
郷隼人さんは、アメリカで罪を犯し、1984年に終身刑で収監されて現在も服役中の囚人である。
24歳で収監されてから40年、今年は64歳になる。
1996年に朝日歌壇に入選以来、常連歌人として知られ、ファンも多い。
一時期、環境の変化により投稿が途絶えていたが、昨年の12月に久々に掲載されて話題になった。
多くの読者から、郷隼人さんのことを思う歌が寄せられた。
2冊の著書は、短歌と刑務所での生活を綴った随筆で構成されている。
その歌はどれも極限状況におかれた人間の心の底から搾り出されたもので、わたしの心に強い衝撃と感動を与えてくれる。
一瞬に人を殺めし罪の手とうたを詠むペンを持つ手は同じ
加害者の己れ以上に何倍も苦渋味わう双方の家族
手も足も縛られバスに座す我に重く冷たき鎖の音色
郷隼人さんは服役中に御両親を亡くしている。
再開を果たせなかった母親を詠んだ歌も多く、どの歌からも痛切な悲しみが伝わってくる。
母さんに「直ぐ帰るから待ってて」と告げて渡米し三十年経ちぬ
「生きとればいつか逢える」とわが出所信ずる母が不憫でならぬ
これらの心の叫びとでもいうべき歌を読むと、自分の薄っぺらで軽薄な歌が恥ずかしくなる。
刑務所で毎日自分の命と罪と向き合いながら生きている郷隼人さんの姿を知ると、無為に毎日を過ごしている自分が情けなくなる。
読むのがつらくなることが多いが、何度も読み返している。
この本に描かれている獄中生活は、暗い重苦しいものばかりではない。
郷隼人さんのユーモアと前向きな人間性、鋭い洞察と深い思考、巧みな文章によって、獄舎での日々が生き生きと描かれており、アメリカの刑務所生活を知る読み物としても、わたしの好奇心を満たしてくれる。
最近読んだ本の中では際立ってわたしの心を掴んだ、名著である。
異国の刑務所で身を削るようにして書いた郷隼人さんの思いが、ひしひしと伝わってくる。
叶わぬこととは思いながら、郷隼人さんがもう一度故郷の土を踏める日が来ることを、願わずにいられない。