フランス政府は317日昼12時から、全国民の外出を制限する措置に踏み切った。



これは31日に引っ越しを終えたばかりで、

まだ装備も整いきっていない15平米のアパートに引きこもりを余儀なくされた外国人、つまり私の、ほぼリアルタイムで綴られる戦いの記録、


となる予定です。(なにせ、続く予定です。)



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3月17日、引きこもりチャレンジ1日目。

私は朝から街をふらついていた。



この日の昼12時を回ると、この先15日間、外出する度に政府の定めた「外出証明書」をサイトからダウンロードし、空欄を埋めて携帯しなければいけない。のだが


(氏名、生年月日、住所を書き、外出理由のチェックボックスにチェックを入れ、サインをする。

外出の理由になり得るのは、どうしてもの仕事や、必要最低限の買い出しなど。)





家にプリンター無い人間どうしますの





いや、手書きでも良いとのことなのだが、引っ越したばかりの人間はこれを書けるような裏紙すら持っていない。

持っている紙といえば、重要書類の裏とか楽譜の裏になってしまう。万が一にも没収されたくない。



もちろん学校は閉鎖されているので、学校のプリンターも使えない。



更に言えば、紙を印刷しなくてもいいように、スマホの中だけでPDFにサインできる、という触込みのフォーマットもあったのだが私はこれがイマイチ信用できなかった。



いざという時に警察官にスマホの画面を見せても通用しないってことがありうる気がするこの国


(実際、このスマホでサインして証明書とするフォーマットはすぐに「認められない」と言う正式な声明がでた。国が方針を変えたのである。ほらぁ!!




そしてこの証明書がダウンロードできるようになったのは17日朝、外出制限がはじまる数時間前だった。



そういう訳で、褒められた事では無いというのは重々承知の上だが、私は、ギリギリまでプリンターを求めて街をうろつくことになったのである。



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フランスには日本のようにコンビニが沢山あるわけではない。

コンビニのプリンターの代わりに、コピー屋という業種がある。



これらの店が空いていれば話は早かったのだが「生活に最低限必要な業種ではない」ということで、すでに数日前から閉まっていた。


郵便局にもコピー機が有ったことを思い出して行ってみたが、もう営業していないという。

郵便局、必要最低限ではないらしい。




私はタバコ店を攻めることにした。タバコ店はそれこそ日本のコンビニのように歩けばあたる、という頻度で存在している業種だ。


タバコ以外にも色々置いてあり「生活に必要」と認められているので、この非常事態にも営業している。

そしてそして、プリンターあったりしませんかと聞くと、置いてある確率はまぁまぁ高い。




よし、まず家から近い1軒目、行ってみよう。





私「すみませんプリンターありますか」

カウンターのマダム「ノン




瞬殺である。

幸先が非常に悪い。



すると幸先の悪さをカバーするかのように、親切な他のお客さんがわざわざ「プリンターあるとこ知ってるよ!ついてきな!」と声をかけてくれたではないか。



「ありがとうございますムッシュ。外出証明書を印刷したくて…」

「あぁ〜、なるほどね、そうだよね〜」



私は彼に着いて行った。

ちゃんと1メートル以上の間を空けながら縦並びで5分以上は歩いただろうか。

(感染予防のため人との距離はそれくらい離れることを推奨されている。ちょっと奇妙な行進だった。)




しかし残念ながら、ムッシュが連れて行ってくれたお店は閉まっていた。

2軒目もまた惨敗である。


ただ親切にしてもらったことが嬉しかったので、ムッシュには心からお礼を言って別れた。




3軒目のお店には、入って

「プリンター

と言おうとした瞬間

「外で待っててくださーい!」

と遮られた。

なんでもお店の中の人口密度が上がらないよう、入場制限を設けているとのことだった。


これはその前日に撮った別の店の写真だが、ちゃんと1メートル以上間を空けながら人が入場待ちの長い列を作っている。



前のお客さんが1人出たら、1人入れる。

日本人らしく、大人しく出口で待ってから正しく入場し、私は聞いた。



「プリンターあります?」

「コピーはできるけどダウンロードしてからの印刷はやってないのよ〜」



このプリンターの性能が発達した現代において、コピーとプリントにそこまで労力の差が存在するだろうか?



いや、郷に行っては郷に従え、である。

できないものはできない。





私が礼を言って帰ろうとすると、今度は店員さんが「ちょっと行ったあそこのお店はプリンターあるかも!」と教えてくれた。


「あそこのお店?」

「えっとあのあの食料品屋さんの隣の食料品屋さんはえ〜っと、なんかむにゃむにゃって名前あぁごめんね、私ほんと思い出すのが苦手で!」



ストラスブールの人達は、困っている人に優しいと私は思う。

外国人の私だが、この町のこういう所がすごく好きだ。



しかし教えて貰ったお店に行ってみると、そこもまた閉まっていた。はい、4軒目



もちろん仕方ない、非常事態である。地元民だって今どのお店が閉まっているかを正確に把握しきれる訳がない。






などとほのぼのハプニングをたっぷり経験したのち、5軒目のタバコ店で私は証明書のコピーをゲットした。



カウンターのムッシュは私が

「プリンターありますか」

と聞いた途端に

「外出証明書でしょ」

と食い気味にこちらの要望を当ててきた。

外出証明書を求めて来る客が朝から絶えないとのこと。



この店にプリンターがあると分かっている客は、最初からここに来るのだ。

私もこの日にしっかりと、優しい店員さんのいるお店とプリンターのあるお店を把握した。



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許可証ゲット後、すこしだけ贅沢をしようと、私は甘いパンを買って、今月最後となる自由な外出を終えた。


買ったものがこちら。


ホットチョコレート、

ホワイトチョコレートのエクレア、

パン・オ・ショコラ。



……………すっごいチョコまみれ。

買い物が下手くそである。



5件もお店を回って漸く目当てのものを手に入れる要領の悪さと、欲望のまま考えなしにチョコばかり買ってしまう要領の悪さ。



思わず我が身を振り返る、外出制限1日目とは思えない盛り沢山の午前中だった。







⇩フランスに外出制限が発令されてからの、15平米引きこもり生活のまとめ⇩


1週目はこちら「プリンターありませんか」

2週目はこちら「豆腐は大事だからとっとく」

3週目はこちら「植物に話しかけてはいない」

4週目はこちら「頼んでない楽譜が来た」

5週目はこちら「激闘、カスタマーサービス」