過日、ある大企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進された経営者の方の話を聞く機会があった。
ご自身が取り組まれた具体的な考え方などの経緯を説明いただいたのだが、結論ではすべてデジタルにすればいいというのではなく、人間がやるべき仕事の重要さも語られていたのがとても印象的だった。
話の中で、デジタル化で淘汰されることの多い「ハンコ」についての話をされた内容が共感を含め心に残った。
その方は大企業の経営者なので、以前は大量の書類に承認したり確認したことを示すためのハンコを押していた、と。
コロナ禍もあって、会社もデジタル承認のシステムを導入して今はその作業がなくなったそうだが、一つひとつの書類に込めた思いをしっかり確認してハンコを押すことも大切なことだと、今さらながら思えてきたのだそうだ。
私の勝手な解釈もあるかもしれないが、そのような話であった。
デジタルとアナログの違いの中に、気持ちの部分は大きいと思う。
文書の中身を検討もしないで承認の印を押すことを「めくら判」と呼ぶが、デジタル化しても同じく検討もせずに印を押す(というのかな?)のではなく、しっかり中身を精査して押すということにポイントを置くべきと考えるのが重要ではないか。
いや、そもそもデジタルにするならば、承認する方法自体を大幅に変えて精査しやすくすることが出来るように思う。
以前安全工学の専門家の先生から聞いた話を思い出す。
シャチハタ等の認印にはハンコの「上側」を示すマークや窪み(アタリ)があるが、「実印」には基本的にそれを付けない。
契約等重要な書類に押す「実印」は、必ずその印鑑が自分のものであることをきちんと確認したほうがいいから、とのことである。
つまり、あえてアタリをつけずに簡単に押せなくすることで版面の上下を確認することになり、さらに「確かにこの契約をしていいのか」と再度判断するようにしむけているのだ。
このような考え方、あるべきと思う。
なんでもかんでも効率を優先したり手間を減らせばいいということではない、ということである。
確認すべき箇所は、こうしたやり方で安易に決済出来ないようにするというのもエラー防止の観点からは効果は大きい。
デジタルの中の有効なアナログ活用、という視点も重要であろう。