私たちを乗せたバスはフリーダルスユーヴェの展望台を後にして次なる目的地へとひた走ります。
「トロールの梯子」を登りつめた後は比較的なだらかな山岳地帯。
標高は決して高くないのですが、車窓から望むのは亜高山帯の風景。
やがてバスが停まったところは Gudbrandsjuvet という地名の景勝地でした。
雪解け水を集めた急流を見降ろすようにして遊歩道が廻らされています。
高いところが苦手な私は手摺に近づくことができなかったので一部の写真はノルウェー大使館のPR用の画像から拝借。
前日までのフィンランドと比べると多少なりとも緊張感を伴うノルウェーの旅であります。
Gudbrandsjuvet のゲストハウスもほぼ金属とガラスだけを要素としたモダンな建築。
シンプルでモダンな意匠は自然に手を加えるのではなく、あくまでも自然の一部を借りて建築しているのだという考えに徹しているように見えました。
ここから長閑な田舎道を歩いて次なる建築物に向かいます。
周囲の景色は高く見上げる山ばかり。
しかし人が生活する高さを水平に見渡せばヨーロッパのどこにも見ることができる田園地帯が広がっています。
きれいに整備された畑が目に止まったので、何を栽培しているのかと近づいて腰を下ろしてみました。
なんと作物はイチゴだったのです。
ハウス栽培、しかも専用の棚をしつらえて栽培する日本ではお目にかかれない光景です。
過保護にも感じる日本の栽培法から見ればいかにも野性的な作り方。
ノルウェーの人が日本を訪れたなら、覚え切れぬほど存在するブランド品種名に呆れてしまうことでしょう。
「イチゴはイチゴ」、これから実をつけるはずの白い花たちはそう主張しているように見えました。
ほどなくして目的地の建物を表す看板を発見。
この先にいま注目を集めるホテルが建っているなどという印象が感じられません。
それほどまでに小さい標識ひとつ。
さらに田舎道を歩くこと5分。
その間に急に雨が降ってきました。
山の天候は急変するからと予め防寒着を準備するようにお達しを受けていたのですが、ここから先は登山用のウィンドブレーカーが大変重宝いたしました。
気温は16℃から18℃、日本の4月中旬の天候に似ていました。
なかなか日本でも見られない大きなアスチルベの花。
やはりここは高山では無いのです。
目的地のユーヴェ(Juvet)は水量が豊富な渓谷美。
夜中に酔って足を踏み外したら大変なことになりそうです。
目的地の建物はその渓谷沿いにひっそりと佇んでいました。
ユーヴェ・ランドスケープ・ホテル(Juvet Landscape Hotel)。
設計はJensen & Skodvin Architects の Jan Olav Jensen、フリーダルスユーヴェの展望台も彼らの手によるものだそうです。
確かにその意匠の統一感が滲み出ていますね。
何棟かの独立した建物が森の中にひっそりと建築されている、と云うよりもまるで森に棲息する生き物のように、植物や苔の上に置かれているとイメージです。
いまこのホテルは自然共生する宿泊施設として世界的にも注目を集めていて容易には宿泊することができないのだそうです。
勿論、私たちもここに停泊することを試みたのですがその願望は叶いませんでした。
この日も全棟満室、ホテルのオーナーは日本から来た変わり者たちを外部から案内してくれました。
ガラス越しに建物内に宿泊客が寛ぐ姿が見えてしまいました。
きっと彼らからも珍客の姿が見渡せていることでしょう。
残念ながら内部からのビューを見ることができなかったので、またしてもノルウェー大使館のPR画像を使わせていただきました。
彼の眼にはこういう光景が映っていたことでしょう。
いつか生きている間にここでのんびりと過ぎゆく時間を過ごしたいもの。
願わくは秋深い紅葉のころであってほしいと神様にオネダリしてみました。
それにしても森の大地から浮いているようにして建てられた宿泊施設。
地震大国日本では考えられないような構造であります。
ホテルのオーナーは地中にも地上にも、自然には手をつけないままに建築されていると説明していましたが、まんざら大袈裟なお話ではなさそうです。
ヨーロッパを訪ねる度に「再びこの地を訪れたい」という光景にばかり出会ってしまうもの。
森に生えたホテルの余韻に浸る私たちを乗せたバスはこの日の宿泊地へと最後の移動。
本日2度目のフィヨルド(Norddals fjorden)が私たちを迎えてくれました。
それにしてもまだこれが「海」には見えないのです。
Eidsdal という地名の小さな港からバスごと渡し船(フェリー)に乗船して向こう岸へ移動。
こうして大きなフェリーに乗り込むと、ここはやはり海の上なのだと実感ができるもの。
フィヨルドというのはいかにも未体験なゾーンです。
そしてさらにバスに揺られて辿り着いたところがオーネルスヴィンゲン展望台。
遠くに本日の宿泊の地ガイランゲル(Geiranger)の町(村)が見渡せます。
眼下に見える大河のようなフィヨルドがガイランゲル・フィヨルド。
明日はこの港からフェリーでフィヨルド・ツアーに向かう計画です。
しかし・・・。
写真の左隅の展望台をご覧ください。
こういう「名所」がフィヨルド周辺には沢山あるのです。
皆さん怖くないのでしょうか?
上の写真を撮影したところがここ↓です。
眼下に見えるフィヨルドまでどのくらいの高さがあるのでしょう。
外海へと向かう大型船が写真についた小さなゴミのように見えます。
ノルウェーというところは怖いところです。
高いところがお好きな人には天国のようなところかもしれません。
高いところと深い水が苦手な私には肝試しのような一日でした。
今回の北欧旅行で二番目に長かった一日が終わろうとしています。
次回はガイランゲル・フィヨルドのレポート。
あまり期待せずにお待ちくださいませ。