「多様性の科学」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

 

「多様性の科学」(マシュー・サイド)

 

 

マシュー・サイド氏の「失敗の科学」がとてもよかったので、こちらも読んでみた。読み終わって、期待を下回らない面白さにとても満足。

 

本書の原題は『 REBEL IDEAS: The Power of Diverse Thinking 』。訳すと「反逆者のアイデア:多様な思考の力」(Google翻訳)。

 

インターネット革命の特徴のひとつとして集合知がもてはやされ、その手の本を当時よく読んだが、集合知が本領を発揮する条件について本書を読んで初めて深く理解できた気がする。また、いままでドリームチームといわれるような企業が成功しなかったことも、今回とてもよく納得できた。昨今、さかんに言われている、女性幹部の比率を高めるべきとか、ダイバーシティを推進すべきとか、そういった多様性の重要性についても、今までは表面的にしかわかっていなかったな、という感想だ。

 

組織の在り方、人材の活用法、人との接し方、多角的な視点で物事を考えること、自分自身の無意識のバイアスに気をつけること、などの点で参考になった。

 

 

ところで、マシュー・サイド氏は、卓球選手として全英チャンピオン4度にオリンピック出場2度、オックスフォード大学哲学政治経済学部を主席卒業、英『タイムズ』紙の第一級コラムニストでライター、BBCではレポーターやコメンテーターなどを務める、とのこと。今回経歴をちゃんと見て、驚異的な多才ぶりにびっくり。さらに別の本を読みたくなった。

 

 

 

 

以下、備忘

 

 

 

画一的集団の「死角」

画一的集団は、全員が同じような知識を持っているが、知らないことは全員が知らない。

 

画一的集団は、互いの意見に同調し合い、潜在的にあった固定観念をより強固にしてしまう。
同じような考え方の仲間に囲まれていると安心し、ものの見方や意見が同じだと自分は正しい・頭がいいと感じていられる(そして、疑問をもたなくなり、広く深く考えなくなる)。



・経済学者チャド・スパーバーの調査
司法業務、保険サービス業務、金融業務において、職員の人種的多様性が平均から1標準偏差上がっただけで25%以上生産性が高まった。

・マッキンゼーの分析
経営陣の多様性が豊かな上位4分の1の企業は、下位4分の1に比べてROEが66%も高い。

・ビジネス・スクールで殺人事件解決の実験
正解率は、1人だと44%、友人4人グループだと54%、友人3人+他人1人の4人グループだと75%だった。
画一的なグループは、似たような視点で同意することが多く気持ちよく話し合いができ解答にも自信があったのに正解率は低く、多様性のあるグループは、多角的な視点で議論がなされ反対意見も出て話し合いは難航し解答にも自信がなかったのに正解率は高かった。




クローン対反逆者

同じような考え方の賢い個人を何人集めても集合知は発揮されない。多様性がないと集合知は発揮されない。

 

・イングランド・サッカー協会メンバー
2016年、イングランド代表を強くするため、マシュー・サイド氏(卓球の専門家)、IT起業家、元ラグビー代表ヘッドコーチ、自転車ロードレースGM、陸軍女性士官、などが招集された。メンバーのうち、サッカー関係者は1名のみ。

・経済予測に関する研究
個人成績トップのエコノミストの正解率は平均より5%以上高かった。しかし、6人のエコノミストによる予測の正解率は個人トップよりさらに15%も高かった。
ただし、同じ学派のエコノミストを集めても効果はなく、マネタリストやケインジアンなど異なる学派を集めた場合に効果あり。

・霊長類学の世界における女性進出の効果
男性科学者が支配していたころは、メスをめぐるオス同士の争いに着目し、「霊長類のメスは受け身で、群れのボスであるオスがすべてのメスに接触する権利を持っている。あるいは、メスが単純に最も強いオスを選ぶ」が考え方の枠組みだった。しかし、女性科学者が進出してきてから、メスは実際にはもっと能動的で、複数のオスと性交する場合もあることが明らかになり、霊長類の行動研究がより深化した。





不均衡なコミュニケーション

航空事故の原因として、副操縦士や従業員が機長に進言できなかったケースが多数あり(医療事故でも同様に上司に進言できなかったケース多数あり)。

人間の頭や心は、序列が定められた集団の中で生きるよう設計されている(狩猟採集時代より、支配的なリーダーがいる集団のほうが勝ち残る確率が高かった)。

集団の支配者が「異議」を自分の地位に対する脅威ととらえる環境では、多様な意見が出にくくなる。

部下はいつでも上司の機嫌をとろうと、意見やアイデアを持ち上げる。

いま指向すべきは、支配型ヒエラルキーより、尊敬型ヒエラルキー(服従を強制しない、自らの行動で尊敬を集める、力を誇示しない・知恵を示す、威圧して抑え込むのではなく自由をもたらす)。

ビジネス・プロジェクトを分析した結果、地位の高いリーダー(シニア・マネジャー)が率いるチームより、それほど高くないリーダー(ジュニア・マネジャー)が率いるチームのほうが成功率が高かった。

「反逆者のアイデア」を、誰もが自由に出し合える環境が重要。




イノベーション

フォーチュン500社の43%が、移民(もしくは移民の子孫)によって創業された。

アメリカ移民が起業家になる確率は、国内生まれの人の2倍。

移民は新天地で新たな文化を経験し、それに順応していく中で、ビジネスのアイデアや何かしらの技術に出くわしても、それを不変のものだとは思わない。変化させたり修正したり、何かと組み合わせたりすることができる。古い慣習や思い込みを、新たな観点から見て疑問を挟むことができる。

・なぜルート128はシリコンバレーになれなかったのか

ルート128(ボストン)は、お堅い(ジャケットにネクタイ)、孤立、独占的、垂直統合、秘密主義(アイデアや知的所有権を保護)、非交流的(フォーラムやカンファレンスは開かれない)。
シリコンバレーは、Tシャツにジーンズ、レストランやカフェで情報交換、ネットワーキング、コラボレーション、開放的。




エコーチェンバー現象

同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象(エコーチェンバー現象)。

検索やSNSのアルゴリズムなどによってネット上で目にする情報が利用者の好みに偏る現象(フィルターバブル)。

これらによって、反対意見を聞く機会は減り、情報の多様性は排除される。

特定の信念が過度に強化されてしまうと、反対意見を聞いても、逆に信念を強めてしまう。




大局を見る

ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人より個人の知能は低かったかもしれないが、集合知は高かった。

天才族はネットワーク族より賢いが、イノベーションを起こす確率は低かった。

人類の繁栄は、個々人の力よりも集団のつながり、そして集合知が軸となってもたらされた。

 

 

 

人類は、多様性という土台の上に築き上げられた。さまざまな知恵やアイデア、経験、幸運な発見、融合のイノベーションが社会的ネットワークの中で生まれ、共有されて、集合知が高まり、自然淘汰の軌道を変えていった。多様性こそが我々の知能を高めたと言っていい。