「ブランディングの科学」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

 

 

「ブランディングの科学」(バイロン・シャープ)

 

 
 
「バイロン・シャープ氏のマーケティング理論は、一貫してエビデンスに基づいて科学的である」とのこと(序文より)。
 
 
理想と現実が違うことはままあることだが、感性や理論で勝負するタイプのマーケターにとっては不都合な事実も少なくないのではないだろうか。

なんとなく正しいと思っていた通説を覆すデータが次々出てきて、なかなか面白かった(しかし、よくよく考えてみればそうだよね、というデータだったりした)。



消費者はブランドに対してそんなに思い入れはないよ、というのがひとつの結論。
 
企業努力にもかかわらず、消費者のロイヤルティが案外あっさりしているというのは、「おもてなし幻想」に通じるものがある。
 

しかし、本書はブランディングの必要性を否定してはいない。ポイントは差別化ではなく独自性。差別化ではなく、想いや理念を届けること。消費者は「味」や「機能」より、「見た目」や「印象」で選んでいる。
 
いかに差別化するか、セグメント化するか、ターゲットを絞るか、とあれこれ考えるより、ブランドの想いを色・形・言葉・エピソードなどにしてマスに訴える、とにかくたくさんの消費者にリーチする、一貫性を持って繰り返し届ける、ということだ。




以下、備忘



■11のマーケティングの法則


①ダブルジョパディの法則
マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。

※シェアが低くてもロイヤルティが高くて購買頻度が高い、というようなブランドは現実にはめったになく、むしろシェアの低いブランドは顧客数が少ない上に、1人当たりの購買頻度も低い傾向にある


②リテンションダブルジョパディの法則
顧客を失わないブランドはない。その損失はマーケットシェアと比例する。大きいブランドほど多くの顧客を失うが、その損失は顧客基盤全体と比較すると小さい。

※シェアの大小を問わず顧客を失うことは避けられない、そしてシェアの大きいブランドのほうが(失う絶対数は大きいものの)既存シェアに対する比率でみれば相対的に損失は小さい


③パレートの法則(60/20)
ブランドの売り上げの半分強がそのブランドの上位20%の顧客によってもたらされ、残りの売り上げが下位80%の顧客によってもたらされる(通常のパレートの法則の 80/20にはならない)。

※ライトユーザーの売上貢献度は思ったより高く、シェアの大きいブランドほど高い(80ページのデータでは上位20%の顧客で売上の39〜50%を占めるにとどまる)


④購買行動適正化の法則
ある一定期間中にヘビーバイヤーだった消費者の購買量は、その後減少する。またライトバイヤーの購買量は増え、ノンバイヤーがバイヤーになることもある。この平均への回帰現象は、購買客の行動が実際に変化しなくても生じる。

※ヘビーユーザーを過大評価してはいけないし、ライトユーザーやノンユーザーを過小評価してはいけない


⑤自然独占の法則
マーケットシェアが大きいブランドほど、そのカテゴリー内の多くのライトバイヤーを引きつける。

※購買頻度の高くないライトユーザーは大きいブランドを好む(ユーザーはブランドのことをあまり深く考えていない)


⑥顧客基盤が類似する
競合ブランドの顧客基盤と自社ブランドの顧客基盤は非常に類似している。

※フォードとシボレー、ナイキとアディダス、ビール各ブランド、クレジットカード各ブランド、などなど顧客プロファイルは非常に似通っている


⑦ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される
消費者は、自分が使用しているブランドほど知識が豊富で多くを語るが、使用しないブランドについては考えることも語ることも非常に少ない。従って、ブランドに対する態度を評価する調査を実施すると、大きいブランドはロイヤルティの高いユーザーを多く含むので常にスコアが高い。

※消費者は、(そのブランドが好きだから購入するというよりも)購入したブランドを好きになる


⑧ブランド使用体験が消費者の態度に影響を与える(私もママが好きあなたもママが好き現象)
ブランドは異なっても、それぞれの購買客がブランドに対して示す態度と認識は非常に類似している。

※ブランドAの購入者がブランドAを思う気持ちは、ブランドBの購入者がブランドBを思う気持ちと同じ


⑨プロトタイプの法則
製品カテゴリーを的確に説明するイメージ属性は、そうでない属性と比較して、評価が高い(ブランドとの関連性が高い)。

※意味を感じられる差別化より、意味は感じられなくても独自性を求めるべき
※消費者はブランドの差別化にほとんど気づいていない(競合と類似しているので)
※独自性のある要素の例
色:コカ・コーラの赤
ロゴ:マクドナルドの金色のアーチ
キャッチフレーズ:ナイキのJust do it.
シンボル/キャラクター:ミッキーマウスの耳
セレブリティ:ナイキのタイガー・ウッズ
広告手法:マスターカードのプライスレスキャンペーン



⑩購買重複の法則
ブランドの顧客基盤は、マーケットシェアに応じて競合ブランドの顧客基盤と重複する(大規模ブランドとの顧客共有率は高く、小規模ブランドとの顧客共有率は低い)。もし、一定期間内にあるブランドの購買客の30%がブランドAも購入するとすれば、どの競合ブランドもその購買客の30%がブランドAを購入する。


⑪NBDディリクレ
カテゴリー内の購買客の購買頻度や購入ブランドについて、その傾向にどのような差異が生じているかを明らかにする数理モデル。このモデルが前述の法則の多くを正しく解説し説明してくれる。ディリクレはマーケティングの数少ない本物の科学的理論の1つ。

※アレンバーグ・バス研究所のウェブサイト www.MarketingScience. info


 
 
◇その他
 
価格販促(値下げ)もロイヤルティプログラムも、効果なし。
 
時間のない消費者は、「最適の製品」ではなく、「必要最小限の製品(そこそこ満足できる製品)」を選んで購入している。
 
消費者は自分が知っている限られたブランドの中から買い物をする。
 
 
 
BMWはベンツやアウディと競合しているが、例えばフランスにおいては市場シェアの大きいルノーやプジョーから顧客を奪っている(結局、BMWであってもマスに向けた戦略が必要)。
 
 
 
マーケットシェアを含めてすべてのマーケティング指標がある1つのことを反映していると示唆される。それはブランドの人気度。この人気度こそすべての原点。
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

※シェアの大きいブランドほど顧客離反率は低い(シェアの小さいブランドほど他ブランドの選択肢が増えるので当たり前といえば当たり前?)

※しかしながら、同じブランドの車を再購入する比率が30-50%というのは驚き(の高さ)

 

 


※実はライトユーザーが売り上げを支えている

 

 

 

 


※企業が思っているほど消費者はブランドにこだわりがない

 

 

 

 


※シェアの大きいブランドほど、そのブランドしか買ったことがないユーザー(≒100%ロイヤルな顧客)の割合は大きくなる(当たり前といえば当たり前)

 

 

 

 


※消費者はブランドの差について、たいして認知していない

 

 

 


※独自OSのアップルでさえ、ユニーク性を認めるユーザーは4人に1人だけ

 

 

 

 

 

※10%値引きしたら1.5倍、20%値引きしたら3倍たくさん売らないと埋め合わせできない(限界利益率もしくは粗利益率30%の商品の場合)

 
 
 
 

 

 

 

 

 
 
 

 

 

 

 

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