「ローマ人の物語 24,25,26 賢帝の世紀 上・中・下」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

 

 

「ローマ人の物語 24,25,26 賢帝の世紀 上・中・下」(塩野七生)

 

 

ネルヴァ、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウス、を「5賢帝の時代」と呼び、なかでもトライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、をローマ人たちは高く評価した。トライアヌスには「至高の皇帝」、ハドリアヌスには「ローマの平和と帝国の永遠」、アントニヌス・ピウスには「秩序の支配する平穏」という評句を捧げている。

国家が平和を維持するうえで重要なのは、安全保障、つまり防衛力(言い換えれば軍事力)、そして食、さらにはそれらを支える物流インフラ(ローマ街道が兵站や貿易にとても機能した)、そして、さらにもっと重要なのがリーダー、ということか。



以下、備忘



トライアヌス(皇帝在位98-117年)

属州出身初の皇帝。ローマ人ではない属州出身者だからこそ、(ローマ人じゃないとやっぱりダメだよねと言われないように)人並み以上にがんばっちゃったのではないかというのが塩野氏の見立て。ダキア戦役に勝利し、アラビアも併合し、帝国の領地はトライアヌス時代に最大になる。公共工事もガンガンやった。元老院の評価はすこぶる高く、それまでの皇帝の誰一人受けたことのない称号「最高の第一人者」意訳すれば「至高の皇帝」が贈られる。美しい若者たちを夕食の席にはべらせるのを好んだ。酒飲み。でも私生活は健全そのもの。



ハドリアヌス(皇帝在位117-138年)

属州出身。頭脳明晰、武術は一級の達人、人望も厚い。「浴場(テルマエ)」に最も多く通った皇帝。治世21年のうちイタリアにいたのは通算7年のみ。精力的に属州を視察巡行し、防衛体制、インフラ、社会のルール(ローマ法など)、を自分の目でチェックして再構築。性格は複雑。厳格であるかと思えば愛想がよく、親切であるかと思うと気難しく、残酷に見えるほど容赦しないときがあるかと思うと、一変して穏やかさに満ちた寛容性を発揮する、といった具合で、一貫していないということでは一貫していた。美しいギリシア少年を愛した同性愛者。



アントニヌス・ピウス(皇帝在位138-161年)

ピウスは「慈悲深い」という意味。公正で透明。スキャンダルも、ゴシップ話もない。非の打ちどころのない為政者。東方の専制君主からも好感を得ていて、ハドリアヌス時代にはローマ訪問を拒否していた豪族の長もローマを訪れ恭順を示した。トライアヌスとハドリアヌスが整備しつくしたので目に見える実績は残していないが、ハドリアヌスが再構築したものを「定着」させ、「秩序の支配する平穏」をもたらした。





ローマ軍の強さについて

「ローマ軍は、つるはしで勝つ」(名将コルブロ)というくらい、土木工事のエキスパート集団。

ローマ以外の軍は、不便でもすでにある道を進軍するのに対し、ローマ軍は便利な道をつくりながら進軍する。

軍事訓練の激烈さは実践とまったく変わらない。演習でさえ実際に戦闘を行っているときと同じ気迫と厳しさでやる。それゆえ、実際の戦闘の場でも平静を失わず、肉体の疲労に音をあげず、戦闘隊形を崩すこともない。

一夜の宿泊でも堅固な宿営地を築く。いざというときに逃げ帰れるところがあったほうが敢闘でき、たとえ戦闘で敗北を喫しても、逃げ帰った宿営地で恐怖から解放された状態で心の平静をとり戻し、次の戦闘での失地挽回も容易になる。

戦闘でも何ひとつとして無計画には行わない。思わぬ幸運で成功するより、状況の厳密な調査をしたうえでの失敗のほうを良しとする。計画なしの成功は調査の重要性を忘れさせる危険があるが、調査を完璧にした後での失敗は、再び失敗をくり返さないための有効な訓練になる。

まずは可能な限り情報を集め、それをもとに状況判断をし、それにもとづいて立てた戦略に従って行動を開始するのが、ローマ民族。しかも、決定したことを実行に移した後での効率性の高さは、決定までの周到さと双璧を成す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※トライアヌスの時代、ローマ帝国の領土は最大に