「QUITTING やめる力」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「QUITTING やめる力」(ジュリア・ケラー)
 
 
書いてある内容・主旨はもっともなことばかりなのだが、着眼点がいい。思考や判断の幅が広がったような気がしている。
 
何事も、続けること、諦めないことが美徳とされ、続かない人、諦めの早い人はダメ人間の烙印を押されがちである。
 
しかし、惰性で続ける、現状にしがみつく、というのはある意味思考停止状態と言える。
 
やめることは、新しいことへの挑戦だ。
 
 
自分自身、何回か転職をしたが、経験、知識、視点、人脈、等の幅が広がった。後悔は全くない。
 
 
自己啓発本の定番『諦めずに努力しよう』に反旗をひるがえす本書は、やはり自己啓発本の定番である『前向きに頑張ろう』に疑問を投げかけた「ネガティブ思考こそ最高のスキル」に通じるアプローチ。
 
自由主義社会の競争環境に疲れ、ライフワークバランス重視、ゆるく生きよう的発想が台頭する世の中の変化を反映した一冊。
 
 
 
以下、備忘
 
 
 
忍耐には、これ以上耐えられなくなる地点がある ――― ベンジャミン・ウッド(英国の作家)


野生動物は、栄養を得る、外敵から身を守るなど、生存に関わる行動について無駄だと判断したことは迷わずやめる。

野生動物に根性など関係ない。一番の目的は生き延びることであり、「結果は得られなかったけど頑張ったからそれでいい」という考えは通用しない。食べ物を得るための唯一の効果的な戦略は、結果が出ない行動をやめて次に進むこと。

人間社会では、「自制心」や「根性」、「忍耐力」が重んじられている。目標を変えることを「弱さ」や「失敗」と見なすよう教えられている。自分に何か問題がある、努力が足りない、自分を信じていない、と。




「努力すれば成功できる」と謳えば、社会の不平等を正当化できる ――― アダム・グラント(心理学者)


スマイルズの『自助論』は、忍耐力は何より大切であり、それなしでは幸せで豊かな人生は送れないという考えを世間に広めた。

スマイルズは絶好のタイミングで自己啓発本の市場を開拓した。
当時の英国は産業革命によって社会が激変し、ひと握りの人が莫大な富を築く一方で、大半の人々は極度の貧困にあえいでいた。
スマイルズは勤勉と忍耐が価値ある人生をもたらすと主張した(運や家柄は成功とは無関係)。スマイルズは成功者の人生を感動的な物語にした。人々にとって『誰かにできるなら自分にもできる、頑張れば成功できる』というメッセージは魅力的だった。

『自助論』は、“やめること”を単なる選択肢からモラルに反する行動に変えた。成功するかどうかは、様々な要因が絡み合った結果(家柄や生まれ持った才能など)ではなく、努力するかどうかで決まるという考えが常識になった。


『思考は現実化する』(ナポレオン・ヒル)、『積極的考え方の力』(ノーマン・ヴィンセント・ピール)、この2冊に通底しているのは「欲しいものを心に思い描けば、必ず手に入る」というメッセージ。

「現実的な夢を描く者はあきらめない!」(ナポレオン・ヒル)



人生はバカバカしいほど予測不可能で、腹立たしいほど理不尽。立派な人が失敗することも、卑劣な人がトップに立つこともある。人生は不公平だ。

人生はギャンブルみたいなもの。心の底ではみんなわかっている。しかし、自己啓発書はそれとは正反対の、「人生は自分の手でコントロールできる」というメッセージを伝えている。 

私たちは「自分は人生の主導権を握っている」と思いこもうとしている。
 
自分の人生は自分の力で思うようになると信じようとしている。

人生は偶然によって大きく左右されているという、あまり認めたくない事実から目を背けている。

「私たちは、自分がどれだけ物事を理解しているかを過大評価し、人間が遭遇する出来事における偶然性の役割を過小評価しがちである」(『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン)



私たちは、様々な出来事や不測の事態に振り回されながら、頑張り続けている。私たちは、この不安定で不確実な混沌とした現実の世界そのものを自分の力で動かせない。だが、できることはある。

それは、必要に応じてやめること。




「努力次第で必ず成功できる」→やめない
「自己変革は可能だ」→やめる

「やめること」は問題ではない。それは、解決策である。



「サンクコストの誤謬」
思い入れのある事業に時間やお金、努力、希望をたっぷり注ぎ込んでいれば、簡単に途中でやめにくくなる。



『やめる』ではなく『方向転換(ピボット)』

やめることは終わりではない。それは成功の始まりにもなり得る。



やめるかやめないか判断するときの問い。

「やめて、何をする?」
「自分自身の考えに基づいて判断しようとしているのか? やめたら周りから白い目で見られるかもしれないことを恐れているだけじゃないのか? 自分が本当に望んでいることを選んでいるのか? それとも誰かの考えに従おうとしているだけなのか?」
「もし、誰かに根性なしと呼ばれたとして、それで何か不都合はあるんだろうか?」

このように自問することで、「やめる」判断が気まぐれでなく熟考を重ねた判断であること、感情的に判断しているわけではないこと、を確認。
 
簡単にやめていい、ということではない。