「嫌われた監督」★★★★☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「嫌われた監督」(鈴木忠平)

 

 

とてもよい本だった。小説よりもドラマチックで、最初の川崎憲次郎のエピソードから、ぐいぐい引き込まれた。

 

「采配」(落合博満)を読んだのは、実はこの本を読みたいと思ったから。思惑通り、「采配」を読んだことで、この本の面白さは3倍くらいになったと思うし、深く鑑賞できた。

 

 

選手に対してすごくドライなようにみえて、実はどの監督よりも選手のことを想っていた監督だったのではないか。

 

 

 

以下、備忘

 

 

 

 

星野は時に勝敗を超え、球団の未来を語った。人が希望を託すことのできるスターを自らプロデュースした。球団の一部となり、ある意味でそのものになった。だから勝ち続けなくても愛された。
だが、落合は今しか語らなかった。意図的にスターをつくろうとはせず、集団の象徴として振る舞おうともせず、あくまで契約に基づいた一人のプロ監督であることを貫いた。だから、敗れれば孤立した。

 

 

 

 

(完全試合目前の山井を後退させ試合に勝利し日本一になった夜)

「監督っていうのはな、選手もスタッフもその家族も、全員が乗っている船を目指す港に到着させなけりゃならないんだ。誰か一人のために、その船を沈めるわけにはいかないんだ。そう言えば、わかるだろ?」
・・・
一歩ドームを出れば、無数の非難が待っているだろう。落合の手に残されたのは、ただ勝ったという事実だけだった。
闇の中にひとり去っていく落合は、果てたように空虚で、パサパサに乾いていて、そして、美しかった。




荒木にも他のどの選手に対しても、落合は「頑張れ」とも「期待している」とも言わなかった。怒鳴ることも手を上げることもなかった。怪我をした選手に「大丈夫か?」とも言わなかった。技術的に認めた者をグラウンドに送り出し、認めていない者のユニフォームを脱がせる、それだけだった。

「心配するな。俺はお前が好きだから使っているわけじゃない。俺は好き嫌いで選手を見ていない」
「でもな・・・・・・この世界、そうじゃない人間の方が多いんだ」
「だからお前は、監督から嫌われても、使わざるを得ないような選手になれよ―――」




「(監督に就任した際)球団のため、監督のため、そんなことのために野球をやるな。自分のために野球をやれって、そう言ったんだ。勝敗の責任は俺が取る。お前らは自分の仕事の責任を取れってな」