「風の歌を聴け」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「風の歌を聴け」(村上春樹)
 
村上春樹さんデビュー作品で群像新人賞受賞作品。
 
率直な感想としては、いまひとつ味わえなかった。登場人物の雰囲気とか、さりげなくておしゃれでウィットの効いた会話とか、間違いなく村上春樹さんの世界観は充満していて、(うまく表現できないけれど)いい感じで、好きな感じではあるものの、この作品のよさがいまひとつわからない(よかったといえばよかったのだがモヤモヤが残る)、というのが正直なところ。
 
ただ、ストーリーやテーマではなく「文章」に強くこだわって書いた小説なのかなと思う(「職業としての小説家」でデビュー作ではかなりご苦労されたエピソードを読んだ)。そして、この作品の「文章」を堪能できたのも確かではある。
 
たとえば、村上作品全般に言えることではあるが、この本の登場人物にも、(どこか陰がありながらも)あこがれる要素があり、こんな風に(目立つわけではないけれどさりげなく)個性的な生き方、自分の価値観をちゃんともった流されない生き方、をしてみたいなと感じるところがあった。
 
そして、自分が登場人物になったような錯覚に軽く陥るときがあって、そういう錯覚にとらわれながら街を歩いていたりするときに、なにか心地よさのような不思議なものに包まれて、勝手にいい気持ちになっていることが、今回もあった。
 
ということで、読んで後悔していないし(むしろ、いつかまた読み返してみてもいいのかなとも思う)、今後も引き続きまた別の村上作品を読むことになるだろう、と思っている。
 
 
 
以下、備忘
 
 
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
 
 
僕は文章についての多くを、デレク・ハートフィールドに学んだ。(中略)文章は読み辛く、ストーリーは出鱈目であり、テーマは稚拙だった。しかしそれにもかかわらず、彼は文章を武器として闘うことができる数少ない非凡な作家のひとりでもあった。
 
 
 
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
ぼくたちはそんな風にして生きている。