「第4の波」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「第4の波」(大前研一)
 
久しぶりに大前研一氏の本を読んだ。今年で80才になる方なのだが、最新の社会変化、ビジネストレンド、への感度・分析力は健在だ。
 
むしろ、経済・社会の様々な過去の変化を実体験として知っている点が強みであろう。それでいて過去の常識にとらわれることなく、逆に新しい常識を見出そうとする姿勢は相変わらずだ。
 
ドラッカー氏やバフェット氏のように、90才を過ぎても、社会に影響を与え続けてほしい。
 
 
今回の本では、産業革命の「波」の入り口で新たな雇用が拡大し、「波」の後半で拡大した雇用が削減される、という現象への着眼点が興味深かった。
 
また、子どもには大いにスマホを使わせていい、という考え方に共感したのだが、デジタル世代の若いリーダーの言葉ではなく、大前氏の言葉だからこそ、心強く感じた。
 
 
以下、備忘
 
 
■第1の波
農業革命/農業社会

■第2の波 18世紀後半
産業革命/工業化社会

■第3の波 20世紀後半
情報革命/IT社会

■第4の波 21世紀初頭
AI・スマホ革命/サイバー社会
※波のピークは2035-45年



波の入り口では人がいっぱい雇用され、波の後半では雇用した人をクビにする。そして次の波に乗せる。これが産業革命のリズム。

農業革命で農民がすごい勢いで増加

農業の生産性向上(大規模化・省人化・機械化など)で農業人口減少

産業革命で工業化へ労働力がシフト
ex:日本では農業人口が就業人口の50%を占めていたが今は3.5%、アメリカは1.3%

工業化社会の前半は、工場に大量の人を集めた
ex:富岡製糸場

工業化社会の後半は、半導体工場にしても自動車工場にしても人がほとんどいない

情報革命では、サービス業・ホワイトカラー業務に労働力がシフト
ex:コールセンターやデータ入力などで大量雇用

情報革命の後半では、業務の標準化・IT化、RPAによる代替、などで人員合理化

「第4の波」AI・スマホ革命の入り口では、アマゾンの倉庫、ウーバー、などで雇用拡大

AI・スマホ革命の後半では、倉庫内の作業自動化や自動運転によって雇用削減か(それを見越して、アマゾンやウーバーは倉庫作業員や配達員を正社員にしない)。



工業化社会では、多数の均質な人材を生み出すことが求められた。学習指導要領に基づいた答えのある教育。

サイバー社会は「考える教育」(自分で考えて見つける)が求められる。これから必要になるのは、構想力を持つ人材。

ジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジャック・ドーシー、、、などは複数の事業を立ち上げている。先人がいない世界では、発想できる人は次から次にビジネスを立ち上げられる。




「波」をいち早くとらえた者が勝つ。これが「第4の波」ではもっと極端になる。サイバー社会で通用する構想力を持つ人が非常に限られるため。そういう人に、世界規模で課税をして、地道に社会を支えるエッセンシャルワーカーのような人たちにお金を分配する。これが世界政府の役割。
AIに勝つのは40人に1人くらいで十分。あとの39人はAIに勝った天才が納めた税金で生活する(仕事は介護や看護などエッセンシャルワーカーとして社会的な役割を担う)。


IT社会では国や地域によって標準が異なっていたが、AI・スマホ社会ではOSがアンドロイドとiOSしかなく世界の誰もが同じサービスを利用可能で「国境がない」。第3の波では「時間」から解放されたが、第4の波では「場所」からも解放される。これが、第3の波と第4の波が劇的に異なるところ。




日本社会の欲望水準イメージ

1960年代初頭~1980年代
「高欲望社会」/答えのある時代 

1990年代~2010年代前半
「低欲望社会」/答えのない時代

2010年代後半~
「無欲望社会」/答えのない時代



日本では、コロナ対策の特別給付金がほとんど消費につながらなかった。一方、同じようなことをアメリカでやるとすぐに消費が伸びる(低金利だったこともあり建設ブームが起きた)。

アメリカ人はお金に余裕があると住宅を買う。若い時はまず職場の近くにローンを組んで家を買う。そして、ファミリーバケーションで旅行の機会などに定年後の住まいを探し、気に入った物件があればセカンドハウスとして購入、人に貸して賃料をローンの返済に充てる。退職したら、今まで住んでいた家を売り、ローンの返済が終わっているセカンドハウスに移り住んで、金融資産を取り崩しながら悠々自適の生活を送る。


日本人はリタイア後活発に動かない。犬の散歩、ガーデニング、ハイキングなどお金のかからないことしかしない(しかも、日本のシニアはどんどん無趣味になっている)。一方、イタリア人は「死ぬ時に貯金がゼロだったら人生は大成功だ」とリタイア後はバケーション三昧の日々を送る。




世界的に活躍している日本人の優秀な人材――とりわけ芸術家、スポーツ選手、漫画家、アニメーター、ゲームクリエイター、料理人など――には、文科省教育の埒外で育った人が非常に多い(文科省の縛りがない分野では、世界に引けを取らない能力を発揮)。AI・スマホの分野でも、文科省の範から離れれば、「第4の波」に乗っていく人材が出てくるのではないか。


子どもからスマホを取り上げるべきという意見もあるが、むしろ大いに使わせたほうがいい(健康被害、有害情報、暇つぶしの長時間利用、などには対策を)。今の子どもたちはスマホが染色体に入り込んでいるので、スマホを取り上げるのではなく、スマホを使って何かを創造・創作するクリエイティブな能力を育てるという方向に考えを転換しなければならない。


とっくにゲームソフトは子どもたちが自分で制作できる時代。
ex:プレステのクリエイター発掘オーディション「ゲームやろうぜ!」では10代前半の子どもも参加、多くの優秀なゲームクリエイターと人気ゲームソフトが誕生

スマホを使って小説やエッセイを書いたり、漫画やアニメを制作したり、作詞・作曲したりすることもできる。

これからは「スマホでお金が稼げる」「スマホを使ってなんぼの世の中」ということを親が理解し、AI・スマホベースの「第4の波」に対する“武装”を、できるだけ早くさせることが極めて重要。