「サイコロジー・オブ・マネー」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「サイコロジー・オブ・マネー」(モーガン・ハウセル)

 
お金についての考え方は、これまで読んだ本でほぼほぼ出尽くしているだろう(他の本と結論も内容も同じようなものだろう)と思いつつ、評判が良い本なので読んでみた。
 
読んでみて、(他の本との類似性は予想通りあったものの)他の本とはちょっと違った視点・思想なども少なくなく、評判の高さを納得。
 
新たな気づきがあったり、忘れていた大事なことの再確認ができたり、読んで非常にタメになった。

 
 
最も印象に残った言葉を挙げるとしたら、「何事も、見かけほど良くも悪くもない」だろうか。
 
著者がベンチャーキャピタリストということもあって、運とリスクに対してとても冷静なスタンスをとっていて、これは絶対に見習うべきだと思った。
 
具体的には、(ベンチャー投資の世界に限らず)世の中全般において、ごく少数の事象が結果の大部分をもたらすということ、そして備えようのない未知のリスクが存在すること、この2つを理解しておくことが大切。
 
うまくいかないことが続いてもどっしり構える、たまたまうまくいったときにも浮かれない、そして不測の事態に対する余裕をできるだけ確保しておく、これらはお金のことに限らず、人生のあらゆる場面において大切な考え方だ。



以下、備忘
 


第二次世界大戦前まで、アメリカ人は基本的に死ぬまで働いていた。
アメリカで初めて月払いの社会保障の小切手を受け取ったのは1940年。
401kができたのは1978年。インデックスファンドの歴史は50年に満たない。
尊厳ある老後生活を送ろう、と自ら資産をつくり投資をすべきと考えるようになったのは1980年代。

私たちは、お金に対しておかしなことをする。それは、誰もがこのゲームにまだ慣れていないから。



リスクと運は区別するのが難しい

・数えきれないほどの幸運(失敗)がレバレッジによってもたらされた
・最高(最悪)の経営者は従業員を全力で駆り立てる
・「顧客は常に正しい」と「顧客は自分の欲しいものを知らない」はどちらもビジネスの常識
・「感動的なほどの大胆さ」と「愚かなほどの無謀さ」の差は紙一重(しかも後になって初めてわかる)

成功と失敗には、運とリスクが大きく影響している。
だから、“何事も、見かけほど良くも悪くもない”。




お金を「得ること」と「維持すること」はまったく別物

お金を得るためには、リスクをとる必要がある(楽観的になり、大胆な行動を起こす)。

お金を維持するためには、謙虚にならなければならない。築いた資産があっという間になくなるかもしれないという緊張感を忘れず、倹約に努める。稼いだお金の一部は運によるものであり、過去の成功が繰り返されるとは限らないことを受け入れる。



未来に楽観的であれ

賢明な楽観主義とは、「たとえ途中で不運に見舞われたとしても、長期的に見れば物事は自分が望む方向に進むと信じること」



テールイベントの絶大な力(5割の確率で失敗しても、富は築ける)

優れた美術商は、インデックスファンドのような仕組みでビジネスをしている。さまざまなアーティストのめぼしい作品をポートフォリオとしてまとめて購入し、そのうちの数点が高く評価される日をじっと待つ。99%が価値のないものであっても、残りの1%がピカソのような芸術家の作品であるなら、すべての失敗を帳消しにできる。

ビジネス、投資、多くのことがこの仕組みで動いている。テール(最後尾の部分)、つまり少数の事象が結果の大部分を占めることがある。
ex:ベンチャーキャピタル(なお上場企業の成功分布も大差はない)、ディズニーを成功に導いた「400分の1」の作品

「5割の確率で間違っていても、トータルで大儲けできる」。これは簡単に理解しずらい。物事の多くが失敗することが当たり前であることを見逃しているため(そして、失敗に対して過剰に反応してしまう)。

ビジネス、投資、金融の世界では、テールがすべてを動かしている。その事実を受け入れれば、物事がうまくいかないことは多いし、失敗するのも当然だと理解できるようになる。



お金が人生にもたらす最大の価値は「自由」

人間に幸福感をもたらすのは「人生を自分でコントロールしている」という感覚。

高い給料よりも、「好きなときに、好きな人と、好きなことができる」生活を送れることのほうが人を幸せにする。

蓄えが増えるごとに、人はまわりの都合に左右されることなく、自律的に生きられるようになる。
ex:病気で休んでも心配ない、解雇されても慌てなくてよい、仕事を選べる、好きなときに退職できる


豊かになったのに幸福感がないのは、自分の時間をコントロールできなくなったから(豊かさと引き換えに、時間を手放した)。

1950年代の製造業の労働者は、仕事が終われば道具を置いて工場を出るしかない。だがマーケティングの仕事なら、道具は自分の頭脳であり、会社を出ても完全に仕事が頭から離れることはない。

コンピュータの時代(ノートPCやスマホを携帯する知識労働者の時代)の到来により、生産性向上のための道具がオフィスから解放された。現代の「工場」は場所ではなく、1日という時間そのもの。



特定の目的がなくても貯金はすべき

私たちの世界は、すべてが予測可能な世界ではない。最悪のタイミングで予期せぬ出来事が起こり得る。貯蓄はそのリスクに対する備え。

目的のない貯蓄をすれば、選択肢と柔軟性が手に入る。

私たちは少額の貯蓄をするたびに、誰かに所有されていた自分の未来を少しずつ奪い返す。


私たちが、驚くべき出来事から学ぶ教訓は「世界にはサプライズが潜んでいる」ということ。過去の驚きは、将来に起こり得る出来事の上限値の指針ではなく、「将来、何が起こるかわからない」という心理を忘れないための教訓にすべき。


95%の勝率で勝てるものは、5%の確率で負ける可能性があるということ。長い目で見れば、人生のいずれかの時点でほぼ確実に悪いことが起きることになる。その悪いことが起きたときのコストが人生を破滅させるようなものならば、残りの95%の良いことは、どれほど魅力的に見えてもリスクに見合わない。


未知のリスクを回避するのは、実質的に不可能。想定できない出来事には、備えようがない。

貯蓄に特別な理由は必要ない。車や家を買うためも貯蓄、老後のためも貯蓄もいいことだ。しかし、予測も理解もできないもののための貯蓄も大切。

あらゆる計画について最も重要なのは、計画通りに進まないことを想定して計画を立てること。



サンクコストは、未来の自分を、過去の自分の囚人にしてしまう。

今の自分から見れば別人のような過去の自分が立てた経済的な目標を、生命維持装置をつけて延命させようとしてはいけない。必要な場合は、思い切って捨て去るべき。



スタートアップ企業の創業者は、成功の8割以上は自分の行動によるものだと答える。しかしそれは間違っている。スタートアップ企業が成功するかどうかは、その会社がどれくらい努力するかと同じくらい、競合他社の業績や市場の変化に左右される。



■お金の真理

物事がうまくいっているときには慎重に、
うまくいかないときには寛容に

※「何事も、見かけほど良くも悪くもない」(運とリスクの存在を認める)

エゴを減らせば、豊かになれる
※収入 ー エゴ = 貯蓄

「夜、安心して眠れること」を優先してお金の管理をすべし
※「この方法で安心して眠れるだろうか?」と自問すること。これが判断における最高の指針。

投資で結果を出すための最大の秘訣は、時間軸を長くすること
※複利を享受

うまくいかないことがあっても問題ないと考える。
半分は間違っていても、資産は増やせる

※結果の大部分をもたらすのはごく少数の投資。うまくいかないことが多くても構わない。それが世の中なのだから。

自分の時間をコントロールするためにお金を貯め、使う
※お金が人生にもたらす最大の価値は「自由」

他人に富を見せびらかさず、誠実に人と接しよう
※高級車や腕時計よりも、優しさや謙虚さのほうが効果的

貯金をする。ただ貯金をする。貯めるのに特別な理由は必要ない
※誰の人生も予期せぬ出来事に満ちている

成功のために必要な代償を見極め、それを支払う準備をする
※タダで成功は手に入らない。不確実性、疑念、後悔、これらは罰金ではなく手数料(支払う価値のある代償で、代わりにすばらしいものが得られるもの)と見なす

「誤りの余地」を何よりも大切にする
※将来は望み通りになるとは限らない、何が起こるかわからない、と想定することで、予想外の出来事に耐えやすくなる

極端な経済的判断は避ける

リスクを好きになること。リスクは、時間の経過とともに利益を生む

自分がしているゲームを明確にする
※自分とは別のゲームをしている人に影響されないこと

多様な意見を認める
※唯一の正解はない(自分にとって有効な答えがあるだけ)