「NORA」一番街、隠れ家のようにある服と雑貨のお店 | 「小江戸川越STYLE」

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「時が人を結ぶまち川越」
川越の人、もの、こと。地元に密着した地元人が地元人に向けて川越物語を伝えるメディア。
川越は暮らしてこそ楽しい街。
川越の様々なまちづくり活動に従事しています。
「小江戸川越STYLE」代表:石川真

あの町並みの中に、あんな小さいお家のような場所が潜んでいたなんて。

きっと辿り着いた人はみんな驚きとともに、発見した喜びに溢れるでしょうね。







蔵造りの町並みの川越の一番街を歩いていると、

通りに面した大きなガラス張りが特徴の三階建て建物に出会います。

一番街の風景を「見る」という点では、この建物は貴重な視点を提供している。
一階がミリオン電機さん、その横に上へ上がっていく細い階段があることに気付く。
所々に置かれた雑貨に導かれるように階段を上がった二階が、イタリアンのセサミキッチンさん。
セサミの通りに面した窓際の席からは川越の蔵の街並みが一望でき、

ここから見る風景が川越で一番好き、という方も多い人気の席。

階段はセサミキッチンで終わらず、その先にも一直線に続いています。
見上げた視線の先に、そっと見える服や雑貨。
「この先には何があるんだろう」
誘われるようにまた一段上がり、
「可愛らしい雑貨が見える」
上がるごとにくっきりした様子が見えてくる。
脇を見ると、階段の途中の窓際にもちょこんと置いてある雑貨が、上にあがる足を軽やかにする。


辿り着いた三階は、真っ白でした。
壁は一面珪藻土が施され、自然な風合いの仕上げ。
ふらっと辿り着いた方に、ここも蔵なんですか?そう言われることがあるのも頷いてしまう優しさ。


一番街の喧騒は遠くなり、ざわめきは遠くかすかなものに。
落ち着いた白壁が視界に広がるそこは、

川越を代表する観光地の真っ只中でありながら、静かな時間が流れていました。

三階にあったのはお店、いや、小さなお家。
小さな家がすっぽりそこにちょうど収まっているような、お店でした。
ドアを開けてお邪魔するような、親しいお家に遊びにきたように迎えてくれる場所が、
服と雑貨の「NORA」です。
















お店はこの7月で5周年。お店には暮らしを彩るインテリア&生活雑貨、質感を大事にした紙物雑貨、

オリジナリティ溢れる手作りの品。

季節に合った、天然素材の洋服に、それに合わせたファッション小物にアクセサリーなどが並びます。
優しいものが詰まったお家は、隠れ家にそっと探しに行くような感覚があり、
一番街というと場所柄観光客が多いのかと思いきや、
「地元の方も多いんですよ」。


NORAさんのことは、今から一年前、

一番街のイベント「宵の市」に合わせて制作していたチラシに、

一番街のお店紹介の記事も載せることになって取材しました。
あれから一年経って見たNORAは、

新たに扱うようになった作家さんが増え、雑貨も少し変わり、雰囲気も変わっていました。

変わらないのは、お店はこういう場所、という一点のコンセプトを定めるよりも
「自分が好きなものたちが自然と集まってでき上がったような空間で、

お客さんそれぞれのイメージのNORAでありたい」ということ。


NORAで扱う手作り雑貨の作家さんは10人ほど。

扱う作家さんそれぞれにファンがいて、
それはファンを超えたマニアというほどで

「この作家さんのものを集めたい」と語る熱狂ぶりなんだそう。
そこには、NORAには他のお店で扱っていない作家さんが多い、という秘密があるのです。

だから遠方からわざわざ来るお客さんが多いのも特長。





ハンドメイド作家というと、

いろんなお店で扱われていたりイベントに出店したりというのがよくありますが、
NORAにはここでしか出会えないものばかりが集まっている。
というのは、ここの作家さんたちは、

制作したものをNORAにしか出していない方が多いんです。
作家さんとしたら、いろんなお店に置いてもらいたいものじゃないのか??そう思うのが普通。
ここの作家さんは、

『NORAに置いて欲しい、この雰囲気じゃないとダメ』とこの空間にこだわる方が多いのだという。

自分が大事に作って置かれたものが、そのお家で居心地が良さそうにしている、

その様を見るのが好きなのかもしれません。


「うちに集まる手仕事の作家さんはみんな無欲というか、

積極的にイベントに出店する人もいないし、静かな方が多いかもしれません。

でも手仕事が好きで、それなしの生活は考えられないような方々」


NORAさんも、積極的に作家さんと知り合おうとするより、

自然体でいるうちに緩やかに知り合い、縁が繋がっていった方々ばかりと話す。


物が何かを語りかけてくるものがあるとするならば、
NORAの雑貨からは、

「ものを作るのが好き」という作り手の気持ちが伝わってくるよう。
楽しんで作っているのが伝わって、

見ていると、その方が楽しんだ時間を追体験できるよう。

足していった強さはないけれど、引いて、引いて、小さな優しさだけ残りましたというような、
掌の中で大事にしたい可憐さ。
既製品にはないどこか脱力したような風合いで、
ずっとそこにあったようで、これから先もずっとそこにあるような佇まい。

「うちの作家さんは、一見不必要なものや意味不明なものでも、

なんだかこれ面白い!と楽しめる人が多いんですよ。心に余裕があるんですね」と。

必要、不必要、二者択一よりもっと寛容な世界であって欲しい、
無駄と思うものの中に大事な宝物があるかもしれない。
お店の世界観をこんな風に考えるようになったのは、

これまでの4年半の道のりがあったからこそなんでしょうね。
時間と気持ちが積み重なって、深みが増している空間。


お店ではまた、

服は綿や麻の天然素材のものが中心にあり、日常着として気兼ねなく着られるものが並んでいる。

服もNORAの大事なアイテムなのです。
「不思議なんですけど、うちのお店に服を求める人は服だけだったり、

雑貨目当ての人は雑貨だけだったりで、

NORAを雑貨のお店と考える人と、服のお店と考える人、二つに分かれるのが面白いです」と語ります。


今回もやはり、一際目を引くリースがありました。
お店でずっと人気だというリースのysys(ワイズワイズ)さん。
オープンから扱っているNORAを象徴する作家さんの一人で、

新作ができればすぐに買いに来るというリピーターの方が本当に多いのだそう。



シンプルで上品、
つい足して盛っていってしまいたくなるリースを、抑制し、止め際を見極めているのが伝わります。

そこには引き算の美があるようで、それは禅ともいいたい佇まい。
聞くと、ysysさんは華道を20年やっていた方で、おそらくその感性がリースに生かされている。


かっちり綺麗に整ったものに美しさはある、
力が抜けたものは一見、『自分でも作れそう』と思わせるけれど、
力を抜いて作るって本当は難しい境地。
ysysさんのリースは見れば見るほど、簡単には作れないと分かります。

派手や豪華とは真逆で、お客さんが口にするのは

「どこの部屋に置いてもしっくりきて違和感がない」と。

リビングでも玄関でも階段でもトイレでも和室でもいい。
強いものは場所を選ぶけれど、さりげなさはどの場所にも合って、空間にそっと彩りを与えてくれる。





「ysysさんの凄いところは、

同じものを作ってきたことがないんです。同じ素材でも毎回違うリースを作っているんです」

このリースたちもまた、ysysさんはこの場所だけに置きたい、と

NORAさんにしか置いていません。


古本コーナーは紙飛行さんがセレクトした本が並んで、

絵本を中心に、また、違った角度の本も紛れていたりして、一冊一冊注意深く見ていくのが楽しい。

紙飛行さんは宵の市で古本出品していたこともある方。


お店で本を扱うことで、親子連れの方がやって来た時に

子どもが本を見ている間にママが雑貨や服を選ぶという光景も多いそう。

(絵本の中に、おや?と思わせる本もひっそり忍ばせている)


多才な紙飛行さんは、ポストカードやバッジ、箱などの作品が並んでいます。
外に置いてあるNORAの看板を制作したのも紙飛行さん。



さらには5周年記念のバックは、紙飛行さんデザイン、NORAの永谷さんが刺繍をしているものでした。


あれから時間の経過とともにお店の雰囲気は少しだけ変わり、
でも手作り作家さんのテイストは、

みんなどこか根底で繋がってるような優しい糸を感じるのは変わらない。







静かな時間、

一番街に居るはずだけど、一番街ではないような感覚がなんだかくすぐったい。
一番街で一番高い場所にあるお店は?という問いには、

実はNORAがその答えなのです。

2階までにあるお店はいくつかありますが、
階段から上がって3階というのは、一番街で最も高い場所にあるお店で、

時の鐘の頂上、鐘楼部分と同じくらいの高さにある唯一のお店。


今の一番街は、大通りの蔵造りの町並みは一番の魅力ですが、
ふらっと足を踏み入れる脇道にいろんな発見があることが、新しい一番街を感じさせる。
もともと脇道の先々にお寺に行き当たる町割りになっていますが、

そこに至るまでの道沿いに新しくできた個人店が増えていて、

うらかわならぬ「うらいち」といえるエリアを形成している。

例えば埼玉りそな銀行向かいの路地を入っていけば、

着物の右左にベトナム小粋雑貨のサニーサイドテラス、

CAFE&BARのMieCoco、飲食店のMimiDINER、

カゴ&帽子・雑貨のKIKONO、と一つの通りだけでこれだけの個人店が軒を連ねる。

「KIKONO http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12011070379.html


また別の脇道を歩けば雑貨のはるりKINUMO、

札の辻交差点から市役所方面に歩いて行けばカフェBANONがあり、と
昔ながらの老舗が多い印象のある一番街ですが、実は個人店が増えているのが近年の一番街の動き。
「カフェBANON http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-11997590488.html


その中でNORAさんは、脇道ではありませんが、いや、

上に上がっていく脇道のような階段という意味ではうらいちであるし、

「うえいち」という他にはない個性が光っています。


一番街で雑貨屋さん巡りやカフェ巡りができるなんて、一昔前は考えられなかったことで、

NORAの永谷さんはKIKONOで帽子を作ってもらったと笑顔で話していました。
また、新しい個人店といってもやはり一番街の影響はあって、
落ち着いて品のある、質の高いものを扱うお店が多いのうらいち、うえいちの特長。


永谷さんは、川越の一番街生まれ一番街育ち。
「昔は今のような観光地ではなく、

普通の商店街で地元の人しかいないような場所だったんですよ」と振り返る。
小さい頃、はじめてのおつかいは、時の鐘はす向かいの近長商店さんへ買い物に行ったことだった。
今はお豆腐やお豆腐料理を扱う近長商店さんは、

昔は八百屋で、地域の人が生鮮品を買いに来る普段使いのお店だったのです。


(現在の近長商店。ここは八百屋、肉屋、魚屋が並んでいました)

「近長商店 http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-11930262422.html


NORAをオープンしたのが2010年、暑いさなかの夏のことだった。
この建物の三階がずっと空いていて、

「ここで何かできるんじゃないか」と思っていた。
雑貨屋。。。

しかし、人通りは多い場所だけれど気付かれにくい三階、
でもここなら自分の世界を作れそうな気がした。
三階だからこそできることもあるんじゃないかと考え、

落ち着いた小さなおうちのような雑貨屋を開こうと思った。

ちなみに二階にあるイタリアンのセサミキッチンは、お姉さんがやっているお店で、

もう12年になるお店です。
この2015年2月には、二階のセサミキッチンと三階のNORAとの合同イベント

「小さなマーケット」は、今年で5回目の開催となりました。


この時に出品されていた人形がNORAに置かれています。


この地で生き、ずっと見続けているからこそ、

今の一番街の繁栄に逆に不安を覚えることもあると話す永谷さん。
これだけ多くの観光客で栄えている様子は、喜び半分、そして不安も実はあるのだという。

いつまで一番街の発展は続くんだろう、と。
いやしかし、一時的に廃れる時があったとしても(実際少し前まではそうだったのだから)

また繁栄する時期はやって来るはず、そのような栄枯盛衰を何度も繰り返して

今の一番街があるんじゃないですかという話しにお互い落ち着いた。
蔵造りの町並みは瞬間的な枯や衰はあっても、また栄える力があるはず。
大切に保存していけば、川越は何周でも栄枯盛衰はぐるぐる回って残り続けるのではないかと。。。


NORAさんはこの秋には、昨年から引き続き、

紙飛行さんセレクトの古本をたくさん展示するイベントを開催するそう。
その時には「本にまつわる雑貨を揃えて盛り上げたい」と話しています。


一番街だけど、一番街じゃないみたいで、どこか家に遊びに来たような居心地。
でも窓から見える埼玉りそな銀行に、

やっぱりここは一番街なんだ、と引き戻されるという循環を繰り返す。


永谷さんが嬉しそうに話していたことがありました。

ある時、小さい女の子が一人で三階まで上がってきてお店にやって来たことがあった。

何を買うのかな?と見ていたら、その子は悩んだ挙句一つのものを選んでレジに持ってきた。

「お母さんへのプレゼントなんです」とひそひそ声でこっそり教えてくれた。

お母さんに内緒のうちにお店に来て、お母さんが好きなものを選んで贈るのだ、と。

その子の様子が微笑ましくて、ついおまけしてしまったと笑顔で振り返っていました。

きっとその子にとっては、

NORAがお母さんへ贈るプレゼントのはじめてのお店だったかもしれない。

自身がはじめてのおつかいで一番街のお店へドキドキしながら行ったように、

今、小さい子がはじめてのプレゼントを一番街のお店へ買いに来る。

時代は変わっても、一番街にある人の営みは変わらない。


隠れ家のようなお家から、街を見続けています。


「NORA」

川越市幸町6-7ミリオンビル3F

11:30~18:00(17:30閉店の日もあり)

049-226-2577

不定休(お休み情報はサイトから)





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