【第4回妄想大会】演技と彼女①   | 恋心、お借りします

恋心、お借りします

(自称)水原千鶴を応援する会の会長。
頑張りますので、イイね下さい。

【第4回妄想大会】

演技と彼女①

演技と彼女②

演技と彼女③

演技と彼女④

演技と彼女⑤

 

 

演技と彼女①/甲楽わん  

 

バイト先のカラオケ屋で俺は、仕事そっちのけで悩んでいた。俺の悩みの90%は水原のことだと決まっている。

始まった映画製作。自分から提案した以上、出来なかったじゃ済まされない。問題は山積みだ。映研との打ち合わせとか、機材レンタルの手続きとか、やることは山ほどある。

というか、まだ何をやっていいのか完全に整理できてるわけではない。ExcelファイルのToDoリストには『ToDoリストを完成させる』が残ったままだ。

なのに、昨晩水原が見せた顔で頭がいっぱいなのだ。

「はぁ…『演技』って何なんだろうな。誰か教えてくれ…」

そうつぶやくと、カラオケルームのソファに寝転び、うんうんと悩み始めてしまった。

 

******

 

事の起こりは、数日前、さあこれから映画製作に向けて具体的に映研の田臥先輩と打ち合わせをしようというときだった。

その日俺は、情けないことに風邪をひいていた。これまでの無理が祟ったのかもしれない。頼りないプロデューサーだ。

幸い、映研との打ち合わせは、自宅からLINEで多少はできる。

とりあえず起きてはみたものの、まだ熱が下がりきった訳じゃない。ケホケホと咳が続く。頭痛で作業も進むはずもなく、YouTubeで若き日の『さ〇なクン』が『テレビ〇ャンピオン』に出ている動画を見ていたら、昼過ぎになってしまった。

するとピンポーンとチャイムが鳴る…誰かな。重い身体を持ち上げ玄関にたどり着くと俺は扉を開けた。

「和也くーん!聞きましたよ。風邪大丈夫ですか」

ぴょこぴょこと頭のリボンを揺しながら、瑠夏ちゃんがニカッと白い歯を見せた。デニムのショートパンツから細い脚が伸び、オーバーサイズのシャツが身体の華奢さを際立たせる。

「る、るかちゃん!?」

瑠夏ちゃんには風邪をひいたことを伝えてなかった。心配させるのもアレだし、こうやって家に来ることが簡単に想像できたからだ。

俺は一応『彼氏』と言うことになってはいるが、瑠夏ちゃんとは『お試し』の関係。さすがに看病してもらうような関係でもなければ義理もない。

なにより瑠夏ちゃんに風邪をうつしてしまったら、さすがに申し訳ない…。映画制作にも影響するかもしれないし…。

「るかちゃん、わざわざありがとう。でも、もう熱もだいぶ…」

言いかけたところで、瑠夏ちゃんがせっついてくる。

「和也君!何で昨日教えてくれないんですか!?スタッフさんから聞かされて驚いたじゃないですか!?」

こうなることが分かってたから、言わなかったんだよ…。

「…ごめん。でも、うつしたら悪いから、やっぱり帰ってくれた方が…」

そう願いすると、瑠夏ちゃんがじゃーんとビニル袋を持ち上げた。

「私調べたんですよ!風邪に効く食べ物とか!ショウガとか、卵とか、ネギとか、なんか効きそうでしょ!」

「あ、…ありがとう」

案の定、看病しに来てくれたらしい。俺は扉を開けず、瑠夏ちゃんに向かって右手を伸ばした。『受け取るからそのまま帰ってね』のサイン。

「えええええ!?今から料理するんですよ!彼氏の看病は、彼女の務めじゃないですか!?」

「いや、ほんと、うつしちゃ悪いし」

「ダメです!もう食材買って来ちゃったんですから!」

「いや、それは嬉しいんだけど、そこまでしてもらう訳には…。」

「むっ。いいじゃないですか…彼女なんだからっ!これくらい普通です。…それに私だって和也君のこと心配なんだから…」

ムスッとした顔の瑠夏ちゃん。はぁ、こうなると瑠夏ちゃんは何を言っても止められる気がしない。不機嫌スイッチON。

たしかに、彼氏のために何かしてあげたいという気持ちも分かるし、それは素直に嬉しい。

…このまま帰すのも可哀想な気がしてきた。

「分かったよ。ありがとう」

笑顔で言うと、瑠夏ちゃんはまるでオセロの裏表を入れ替えたみたいに満面の笑みを向けてくる。

「へへっ」

かわっ…。

こんな可愛いコが俺のこと好きだなんて、この世の何が変わっちまったのか。

風邪ひいた彼氏の看病がしたいだなんて…普通にいいコなんだよな。…はぁ、なんでこのコ、俺なんかの彼女やってんだろうな、マジで。

「るかちゃん、ちょっと待ってて」

そう瑠夏ちゃんに断って、いったん部屋に戻ると、俺はデイダラボッチよろしく重たい身体をのらりと動かし、散らかっていたお菓子の袋紙やらペットボトルやらをささっとゴミ袋に入れて掃除を済ます。

あと、『見られちゃいけないもの』とかも片付ける。これだけは押入れの一番奥にしっかりねじ込んでおいた。

風邪でだるいんだ。掃除機は勘弁して欲しい。

あらためて扉を開けると、瑠夏ちゃんがリボンをぴょんぴょんと揺らし、一直線に部屋の中へと駆けこんできた。

「ごめん。それだけ作ったら、すぐに帰ってね」

果たして背中に投げかけた言葉がその耳に届いているかどうか。

瑠夏ちゃんが何か料理作ってくれるのって、お泊りの時からだっけ。…まさか、また『すっぽん』とか持ってきてないよね。

 

瑠夏ちゃんを横目に、俺は再び布団の上にだらーと寝転がった。

映画作ることで頭がいっぱいで、あらためてこんなゆっくりするのは久しぶりだなと思う。目の前の道路を車が通る音とか、時計がカチカチ鳴る音とか、水槽のハイギョがちゃぷんと水を鳴らす音とか、そんな雑音が耳に入ってくるくらいぼーっとできたのはいつぶりだろうか。

俺はふぅと大きなため息をつく。

「水原、どうしてるかな」

今日は、水原の舞台公演の最終日だ。風邪さえ引いていなければ、今頃会場に着いているはずだった。

今回の舞台出演は、ちょうど稽古の開始がクラファン始めるころと重なってしまったので、水原と相談した。忙しくなるのわかっていたんだけれど、30分程度の短編だったし、水原も好きな劇作家さんで急に断るのも事務所に迷惑になるから出させて欲しいって言ってて、結局断らず出演することに決まった。

映画作るって決めて、とにかく忙しかったけど、この日だけは楽しむって決めてた。今度はどんな役で、どんな演技で、どんな姿が見られるんだろうって。またひとつ、知らない水原が見られるんだろうなって、楽しみで仕方がなかった。

会場に着いたら、『一ノ瀬ちづる』の名前で取り置いてもらったチケットをもって、入場しているはずだった。なんだか役者関係者っぽい感じがしてちょっとドキドキしていた。

だけど、直前になってこのざまだ。

結局、水原の舞台は諦めるしかなく、今日1日自宅で過ごすことにした。

「水原…」

俺は一日に何回この名前を呼んでるんだろう。100回は呼んでる気がする。

スマホを取りだすと、画面をスクロールして水原(一ノ瀬)とのLINEを遡る。この前、水原が舞台の案内を送ってくれたんだった。

 

―――しろがねの丘の上で

【キャスト】………、一ノ瀬ちづる、中野海、…

 

俺はLINEに貼られたリンクからWebページ飛ぶと、キャストに『一ノ瀬ちづる』を見つけた。

『中野海』…げっ?あのイケメンと共演ってことか。

そのあと数名のキャストの名前が並ぶ。

どうやらロミオとジュリエットをモチーフにした舞台らしい。

文芸には疎い俺でも『ロミジュリ』ぐらいは知ってる。たしか、ロミオ家とジュリエット家は敵対関係にあって、親の反対とかを受けながら、ロミオとジュリエットのふたりが恋に落ちるって話だ。

そのとき急に背筋に緊張が走った―――。

待てよ…誰がロミオで、誰がジュリエットなんだ…?

水原から詳しい話は聞いてない。でも、立っているだけで『美少女』と『美男子』のオーラ全開の水原と海くんが、ロミオとジュリエットの可能性はあるんじゃないだろうか。

いや、認めたくはないが、あれほどお姫様と王子様が似合いそうな二人を見たことがない。そうか、そうなのか、そうなんだな!?←ただの妄想、ロミオとジュリエットは王子様とお姫様ではない

え?ラ、ラ、ラブシーンとかないよね?あるの、ないの、どっち?

TVドラマみたいに、舞台でも抱き合ったりキスしたりするの?

ってか、初日から最終日まで10回以上公演あるんだけど、毎公演ロミジュリしてるってこと?

え!?待て。10回どころの話じゃない。稽古期間は2週間くらいあったはず。その間、毎日のように水原はあのイケメンと舞台の上で…!?

俺の不安は妄想へと加速しだした。

 

「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?(このセリフだけ知ってる)」

「ジュリエット、君は僕の太陽さ。愛してる、世界中のだれよりも」

「ロミオ様、私も愛しています」

「ああ!ずっと二人で居よう」

 

そう言って、海くんと水原はお互いの身体に腕を伸ばし、見つめ合い、そのまま唇を…

「ああああああああああああああああああ」

俺は頭を掻きむしりながら、布団の上をごろごろと転がりまわる。

水原はロミジュリしてるのか!?海くんとロミジュリしてるのか!?ロミジュリしてるんだな?だって水原がジュリエット、海くんがロミオに決まってるじゃん涙。

いや、まだ舞台で演技してるだけならいい(いや良くないんだけど涙)。俺は血の涙を流しながら、これに耐えよう。

問題は、演技が本物になってしまうことだ。演じているうちに、本気で好きになっちゃうとかないだろうか。

毎年彼女にしたい女優・タレントランキングTOP3にいた堀〇〇希が、舞台の共演がきっかけで入籍なんてニュースが流れたのが記憶に新しい。当時高校生だった俺は実際凹んだ。

GTOだっけ?母さんが、あの反〇〇史と松〇〇子が結婚したのは、人気ドラマで惹かれ合うふたりを演じたのがキッカケだったって言ってた。

手元のスマホに『共演 結婚』と入力してググると、共演をきっかけに恋が始まっただの結婚しただの、たくさんの有名人カップルがヒットする。あの夫婦も、この夫婦も、みんな共演がキッカケじゃねぇか…!

しかもあの水原に『愛してる』だなんて言われて、ドキッとしない男がこの世にいるだろうか。

あり得る。十分あり得る。

 

「僕、いつの間にか、ちづるちゃんのこと…僕のお姫様になってくれないか。」

「はい、よろこんで、私の王子様♡」

「ちづるちゃん!」

「海くん!」

 

俺の妄想の中の水原と海くんは、なぜか布一枚まとっていない、生まれたままの姿だ。アダムとイブだ。ふたりは、抱き合い見つめ合いロミジュリしてる。チュッ、チュッ、チュッ♡アンッ、アンッ、アンッ♡

考えれば考えるほど、ふたりがロミジュリしている妄想が膨らみ続ける。

「水原ああああああああああああ!」

俺はもう気が気じゃなくなってしまった。

落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせる。

でも、もう己の目でロミジュリしてないことを確かめる他に、この妄想をかき消す方法はない気がする。

風邪ひいて劇場に顔なんか出したら、水原にもぜってぇ迷惑なのは分かってるけど…。後ろの方の席に座って、バレねーようにすれば何とか!

俺は風邪で重たい頭を持ち上げると、そのままぬくっと起き上がった。

時間を確認する。公演開始14時まであと30分はある。電車を使えば、まだ間に合う時間だ。

俺は自分の財布を探し始めた。

ところがその瞬間、俺は自分の目を疑った。俺はまだ、妄想の世界から抜け出せていないのかもしれない。

それはとても現実世界の出来事だとは思えなかった…

「へへへっ!和也くん、どうですかぁ?」

「る、るかちゃん…!?」

料理を作ると言っていた瑠夏ちゃんが、ナース姿なのだ!

頭にはいつものリボンではなくナースキャップ。

胸元には、リアルお医者様は使わないだろう、ピンク色の聴診器。

スカート丈は膝よりずっと高くて、すらっと伸びた両脚には白のニーハイ。

足元はナースシューズという凝りよう。

腰に手を当てピースサイン。

ニカッと小悪魔スマイルでこちらを見ている…。

ナース姿というより、明らかにナースのコスプレなんだが!?

かわいいを通り越して、どエロいっ。

つーか、スカート丈が短すぎる!何かの拍子に見えちゃうだろコレ!?

瑠夏ちゃんは両手を広げてくるくると2回転。膨らんだお胸から華奢な背中、白ニーハイから覗くftmm、そしてキュートなお尻まで、彼女(お試し)のナースコスを見てくれと…!?

瑠夏ちゃんはニカッとスマイルを決めると、そのままこちらに近づいて来た。

「はいっ、はいっ、はいっ。病気の患者さんはちゃんと横になっていてくださいね。診察の時間ですよ。」

「ちょ、ちょ、ちょっ!待って、るかちゃん!」

距離を取ろうとするも、壁に行く手を遮られた俺の胸に、瑠夏ちゃんが顔を押し当ててくる。俺の胸元には瑠夏ちゃんのナースキャップ。な…っ?瑠夏ちゃん心音を聞いてる!?

頬と耳の柔らかさが俺のTシャツ越しに伝わってきて、胸元でなんかイイにおいがして…っ。

「あ!!!和也くん、ドキドキしちゃってます!これは、これは、『恋の病』ですよっ」

え?何このプレー!?

ってか近いっ、瑠夏ちゃん近いって…!?こんなの俺の身体が耐えられねぇ。

俺は瑠夏ちゃんの肩を掴むと、自分の身体から引き離す。

「ちょ、ちょっと、るかちゃん!?着替えて!今すぐ着替えて!」

「むっ!?いいじゃないですか。」

「良くないっ」

「いいんです!!!…重い病気で生きることに絶望した男の子と、彼を健気に支えるナースの女の子。いつの間にか二人の間には『永遠の愛♡』が生まれ。病気に悩んでた彼も、『そこにある幸せ』に気づいて行く…。そして彼は言う、『俺、病気で生まれてきて良かった。』と…♡。そういう設定なんですよぉ!!!」

「設定…!???んなこと言われても、全然わけ分かんねーって!」

「和也君が患者さんで、私がナースなんです!」

「俺が患者だとしても、瑠夏ちゃんがナースになる必要ないでしょ!???」

「なんで!?ナースでもイイじゃないですか!」

「ダメだって!今日来てくれたことは嬉しいから、普通に看病して!ね!?」

「なんで!?なんで!?…だって………」

「…?」

急に瑠夏ちゃんがトーンダウン。え?瑠夏ちゃんどうした…?

へたっと姿勢を崩し、俺から視線を外して口ごもる。なんだか恥ずかしそうにチラチラと俺の顔を伺っている。???

「…だって、和也君…ナース…好きですよねぇ…?」

「え?」

「…そういう…DVD…置いてあったし…」

「DV…!?」

思わず声が漏れる。

そういうDVDって何?『救命病棟24時』?それとも『ナースのお仕事』?

んなワケあるか!解釈の余地なんかねぇ。アレだ、アレしかねぇ。俺の誕生日に栗林に無理やり押しつけられたやつだ。『恋の○×▽◇診療室』だ。←ちゃんと楽しんだ

ぬかったのか?!いつ?どこで?

ってか瑠夏ちゃんアレを見たの?どこまで?中身まで見たの?

「あれは、k…」

『あれはクリの趣味で…』そう言いかけて、言い止まった。栗林の性癖を曝す権利が俺にあるわけねぇ。人としてやっていいことを超えている。

だからって『ナースものじゃなくて、女優さんの方が好みなんだ』とでも答えたらいいのか!?もうコレどうすりゃいいんだ!?

考えろ、考えるんだ、男の一番柔らかい部分を守る方法を!?

「るかちゃん、ごめん」

ナースコスの瑠夏ちゃんを見ないように視線をそらしながら、机の上の財布を掴む。

こうなったら、逃げるしかない。

あれこれ言い訳をすれば、女の子には知られたくない秘密を自ら曝すようなものだ。そう、俺は舞台を見に行かなければならないんだ。水原がロミジュリしてるか確かめないといけないんだ。

「その…しばらくここで待っててくれる?」

「え?どっか行くんですか?」

「えっと…ちょっとコンビニに…」

ジト目な瑠夏ちゃんの顔が、『逃げるのはナシですよ』と語っている。

瑠夏ちゃんに『千鶴さん』は爆弾。『水原の舞台を見に行く』なんて言えるはずがねぇ。何かコンビニに行く理由を見繕うしかこの場から離れる方法はない。

「その…いろいろ買いたいものが…。」

「…和也君、分かりました。何か必要なら、私が買って来ますけどっ!」

「…っ。で、でも、ナース姿で外に出るは…、ね?やっぱり俺が…」

「大丈夫です!私、コスプレには慣れてますからっ」

この場から逃げようとしてるコト完全に気づかれてる。どうすりゃイイいんだコレ?

何とか理由を取り繕おうと頭を回転させているのだが…その様子を瑠夏ちゃんが訝し気(いぶかしげ)に見てくる。

るかちゃん、俺マジでコンビニ行くだけだからっ。そう言う事でイイでしょ?ね?そう言うコトにしよっ?

「…和也君…。え!?まさか、千鶴さんの舞台見に行くつもりじゃないですよね!?」

「…っ!」

なんでこうも俺の考えてること分るんだよ!?

NGワード『千鶴さん』投下。

「はぁ!何考えてるんですか!?」

瑠夏ちゃんの不機嫌アクセル全開。俺を外に出させまいと、ナースコスの瑠夏ちゃんが俺の右腕をがっしりと掴んでくる。

「もうっ!まさかと思って聞いてみたら。残念な気持ちは分かりますけど、風邪ひいてるんだから仕方がないじゃないですか。千鶴さんだって迷惑ですよ。今日は一日私と家にいてくださいっ」

「いや、でもっ」

「でもって何ですか!?そんなに千鶴さんの舞台見たいんですか!?私とは最近デートしてくれないのに!?」

「それは、映画のことで忙しいからで!」

「分かってます!だから今日くらい、和也君と一緒にいたいと思ったんです!」

瑠夏ちゃんの不機嫌メータが降り切れてる。

でも水原と海くんがロミジュリしてるのか気になりすぎて、どうしていいか分かんねー。

俺は部屋の時計を見る。開演までもう30分を切った。とにかく、水原とあのイケメンがロミジュリしてないことを確認するまでは、俺の気が休まる気がしねー。

「和也君は、私と居たらいいんです!」瑠夏ちゃんがそう言いながら、俺の腕をグイっと引っ張ると、俺の身体はバランスを崩した。

ドタドタっと両足が転がり、瑠夏ちゃんを巻き沿いに盛大に転げる。

「…!わっ」

「…!なっ」

仰向けに転がった俺の身体に、ナースコスの瑠夏ちゃんが乗っかっている…。

近っ!顔、近っ。俺の目と鼻の先に瑠夏ちゃんの頬が…!髪が俺の顔に当たって、めっちゃサラサラしてイイにおいがっ…。俺の太腿のあたりに、温かくて柔らかい感覚が………瑠夏ちゃんのftmmっ!?

これはいろいろまずい。

瑠夏ちゃんはチャンスとばかりにガシッと抱き着いて来た。

「和也君♡」

「…っ!」

がっちり前ハグ。

覆いかぶさった瑠夏ちゃんの自重で、柔らかい部分がぐにゅっと俺の身体に押し当てられる。接地面積、密着具合ともに過去最大級。瑠夏ちゃんの胸が…!ftmmが…!?

ヤバすぎるっ。これ以上は俺の身体が耐えられねぇ!?

瑠夏ちゃんの身体を引きはがさないとっ。そう思ったとき、部屋の扉がガチャリと開いた。

「師匠!調子どうッスかぁ?」                                     

八重森さんの調子のイイ挨拶が部屋に響いた。

「…!?」

「…!?」

お互いの目が合う。

息が止まった。

「もうっ、和也くんったら♡そんなにギュッとされたら、お注射できませんよ。」

「…っ」

「次は中庭をお散歩しますよー。」

完全に妄想の世界に入ってしまってルンルンな瑠夏ちゃん。

八重森さんはポカンと大きな口を開けたまま、顔面が静止してしまっている。

空気が凍るとはこのことを言うんだろう。なにせ画がヤバい。八重森さんはコレを見てどう思うんだろうか。決して瑠夏ちゃんが俺を看病しているようには見えないだろう。

「こっ、これは、そのっ…違って!」

「…お、お、お疲れ様っス…」

状況を察した八重森さんは、そのまま扉を閉じた。

「フフフ、これで証人ができましたね。私たちがイチャイチャ・ラブラブなカレカノだっていう。」

ぐおおおおおおおお。八重森さんになんて説明すればイイんだこの状況。誰がどう見ても、俺が彼女(お試し)にナースコスさせて楽しくやっていたようにしか見えねー。

八重森さんには事情を話して分かってもらわないとっ。

水原だけには絶対知られたくねー。

『…あなたって、そういう趣味してたのね。普通にヒくわ。瑠夏ちゃんとも順調みたいだし、私たちの関係もそろそろ終わりね。良かったわ。』

頭の中の水原が、俺に侮蔑の目を向けている。

違うんだ、水原。俺は水原がイイんだよ。それにナースコスだって、男はみんなああいうのが好きなんだよ!

俺は必死に言い訳をしてみるが、頭の中の水原は『瑠夏ちゃんとお幸せに』と冷たく吐き捨てた。

…水原に嫌われる未来しか見えねー。まずは八重森さんにちゃんと説明して誤解を解かないと…。

「…あーもうっ」

どうしようもない不安が声になって拡散した。

頭痛がまたひどくなった気がする。またケホケホと咳き込んだ。俺は瑠夏ちゃんをどうにかする気力もなく、そのまま床に寝そべった。

もう瑠夏ちゃんを説き伏せて舞台を見に行くだけの余力は残っていない。

どうか、水原がロミロミジュリジュリしていませんように…そう祈るしかなかった。

 

演技と彼女②につづく)

 

演技と彼女②

演技と彼女③

演技と彼女④

演技と彼女⑤

 

 

 

 

【あとがき】

はいどーも!甲楽わんです。

またひとつ、黒歴史を生み出してしまった…。

かのかりOC(オープンチャット)で妄想大会が開催されたので、小説とか書いたことない私ですが、かのかりガチ勢&ブロガーとしては妄想の一つや二つは書かないわけにはいかない。

そういや舞台に立ってる一ノ瀬ちづると和也の絡みはあまりないんじゃないかなーと思って書き始めました。

今回の妄想ストーリー「演技と彼女」その①では、瑠夏ちゃんに暴れてもらいました。ナースコス瑠夏ちゃんが妄想するだけで強力ですね笑。楽しいことや「和也君大好き」という気持ちにはブレーキの効かないコなので、徹底的にやらせました。ラブコメらしく、ちょっとエッチに、ドキドキするようなことさせたかった笑。

この妄想は完結していません。始まったばかり。まだ千鶴出てきてないですしね。続きは、書く気じゃない、でも書く気じゃなくもない。

とりま楽しかったので、よしっ。

 

■次のお話 【妄想】演技と彼女②