■ 休み時間のひと言から見える“世界の切り取り方”
私「最近、調子はどうだ?」
生徒「先生に関係ありますか?」
一見、挑発的にも聞こえる返答。
ですが、この生徒とは決して仲が悪いわけではありません。
ここにあるのは“反抗”ではなく、その子がもつ世界観です。
■ 悪気ではない——役割で人を定義する認知
自閉スペクトラム(傾向)をもつ子は、人や場面を「役割」で強く切り分けることがあります。
・先生=勉強を教える人
・医師=薬を出す人
この枠組みの中では、「先生が体調を聞く理由」「医師が世間話をする意味」がつながりません。
結果として、「それはあなたの役割外=関係ない」という、ごく自然な(本人にとっては“普通”の)返答になります。
■ “普通の会話”は自然には身につかない
「気持ちのキャッチボール」は、経験と学習で育つスキルです。
待っていればできるようになる、というより、
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なぜその質問をするのか(目的)
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どんな返答が適切か(型)
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返答が相手に与える影響(意味)
■ 声かけを“翻訳”して伝える
実場面では、こちらの意図を“翻訳”してから投げます。
NG例:「最近、調子はどう?」(抽象・広すぎる)
翻訳例:「授業で困っていることがあるか確認したい。勉強のことだけ教えて」
フォロー例:「体調や家のことは今は聞かない。勉強面での困りごとだけでOK」
役割で区切る彼/彼女に合わせ、質問の範囲と目的を明確化するだけで、会話は通りやすくなります。
■ 望ましい会話の型
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目的の明示:「次の小テスト対策のために聞くね」
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範囲の限定:「英語の授業で困っている点だけ」
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選択式で誘導:「単語/文法/長文のどれ?」
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次の一手の合意:「じゃあ単語は今日3個、明日3個で練習しよう」
自由記述ではなく選択肢→具体行動の順に落とすのがコツです。
■ 保護者ができる“3つの手当て”
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ラベルではなく手順で語る:「失礼な言い方」ではなく「この順で答える」と手順提示。
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役割の拡張を:先生=勉強を教える+“学習の困りごと相談”など、役割を一気に広げず段階的に。
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反応は“悪気なし”前提で:語気を上げず、「その言い方だと相手が困る。代わりにこう言ってみよう」と置換提案。
■ 家庭担任としての伴走
私の「家庭担任」では、家庭・学校・本人の“翻訳”を担います。
本人が苦しむのはもちろんですが、実際には保護者が最も消耗します。
外部の第三者が間に入り、役割調整と会話の型づくりを進めると、摩擦がかなり減ります。
■ まとめ——関係ではなく“関係のつくり方”を教える
「関係ありますか?」という返答を矯正するのではなく、「どんな言い方なら相手とつながるか」を手順で教えること。
世界の切り取り方が強い子でお困りのときは、ぜひご相談ください。








