このところ、家の断熱・燃費性能を
数値で表すことが一般的になってきています。
例えばQ値(熱損失係数)、Ua値(外皮平均熱貫流率)、C値(相当隙間面積)・・・。
簡単に言うとQ値やUa値は、どれくらい熱が逃げにくい(やすい)家なのか、
C値は、どれくらい家にすき間があるのかを数値化したもの。
車は燃費など性能が数値で示されている・・・家でも必要でしょ!って話し。
Q値やUa値は、計算で出すことができるので、
数値をハッキリと示しているビルダーも近年は増えてきました。
ところがC値は、実際に建ててしまってから実測してみないと分かりません。
ウチはこれくらい出せますよ!とビルダーが言っていても、
実際に測定しているビルダーは少ないそうです。
なぜなら、現場の施工精度によっても変わるからです。
ヘタすりゃぁ、施工前の説明と実測が大きく食い違わないとも限らない。
さて、私たちのこの石場建て伝統構法の新築。
Q値やUa値は計算すれば出るので機会があれば計算してみることとして、
じゃぁC値は?!
石場建て伝統構法といえば、床下は素通し、壁は土壁で柱むき出しの真壁。
古民家のイメージからすると、隙間風ヒュ~、寒い!・・・印象。
けれど、これを現代に新築するなら、
省エネ性能はSDGsの観点からも避けて通れません。
新建材でスクラップ&ビルドを前提とした現代の多くの家と違って
地球に負荷をかけないことが伝統構法の強みではあっても、それだけでは、
燃費性能に見るところがなければ、未来の伝統構法を語ることはできないと思うのです。
じゃぁ、この家の場合、どうなのか?
敢えて高気密を意図せずに普通に丁寧に日伸建設が建てた家はどうなのか?
「測ってみたら、結構な数値が出そうやで。」
「いやぁ、昔の家と同じような建て方やし、気密も何も測定不能なん違ゃうん?」
「数値が悪くても、住み心地が良ければええんやん!」
・・・根拠なく想像で言っていても埒があきません。
これからの石場建て伝統構法の新築や改修のためにも、
実際に確かめてみることは無駄ではないと考えました。
というわけで、ビルダー側の視点ではなく、
そこで暮らす住まい手としての独自の取り組みとして、
実際に測ってみることにしました。
といっても、日伸建設はブッチャケ測ったことがありません。
気密測定は、気密測定技能者という資格が必要なんだそうで、
棟梁にも知り合いがなく、誰に頼んでいいか分かりません。
今は便利な時代で、インターネットで検索。
いくつか業者を当たってみたんですが、
伝統構法の家で気密測定?・・・意図をなかなか分かってもらえません。
普通は施工業者が測定を有資格者に依頼し、
隙間風の吹き込む場所を発見して改善するために測定するもんだそうです。
私たちの場合は、数値が悪くても、隙間を埋める気はありません。
C値だけで快適性や暮らしやすさが決まるとは思っていないからです。
現に引渡し後の3日間、比較的あたたかい日が続いた(最高12~14℃)とはいえ、
日中は1階のエアコン1台(20℃設定)でも1~2階とも全館19℃台、湿度50%台で、
寒さを感じることはありません(Tシャツ1枚で過ごすなんて気はないので)。
とはいえ、1999年時点で「次世代省エネ基準」とされていたC値は、
寒冷地以外では5.0※とされており、せめてこの値が出れば!
と考えていました。
※2009年の改正省エネ法によりC値の項目が削除されたため、
現在は基準値が設定されていません。
欧米の基準は1未満ですから、5でもかなり・・・ですが。
※気密測定は5を超えると、測定不能とされます。
高度経済成長期に量産された家は、10などとも言われているようです。
で、ようやく妻が辿り着き快諾いただいたのは、
「左官職人とつくる木と土の住まい」を謳う豊田保之先生。
・・・と妻から聞いて、ビックリ!
なにせ、この家が土壁の家に決まって土壁のことを調べ始めブログの記事にもしてきた、
その情報ソースの半分近くが豊田先生からの情報、お陰さまで勉強させていただきました。
「えっ?そうなん!」・・・
何も知らなかった妻とお互い目をパチクリ。
棟梁にそのことを話すと、「有名な先生やん!」と同様にビックリ。
「でも、測定不能って出るん違ゃうかなぁ・・・。」と不安げ。
以前に高気密住宅に携わったときは、隙間という隙間に気密シートやテープを貼りまくって、
そんな家づくりに疑問を感じたと言います。
もちろんこの家には、とりたてて気密を高める細工はしてありません。
豊田先生は、木と土壁の家でも省エネ性は重要と考えてらっしゃって、
自ら気密測定技能者の資格をとって自社物件をきちんと測定しているのです。
そして今日(12/29)、その測定日。
日伸建設の小西社長が、親しいお友だちを連れてきました。
kaiプランニング代表の開原孝之さん。
木や自然素材にこだわりながらも、高断熱高気密の家を手掛ける方です。
開原さん曰く、
施工が丁寧だし玄関引戸が木製以外は樹脂アルミサッシだし、
そこそこ数値が出るんじゃない?
そこへ豊田先生到着。
パっと見、昔ながらの伝統構法の家なんで、数値が出るか心配そう・・・。
豊田先生曰く、
近ごろは施工業者が言ってる高気密が本当か確かめたいという
施主からの依頼が結構あるとのこと。
5/14稿「理想の家づくりは・・・」でも紹介した、
松尾先生の影響力も大きいようです。
豊田先生は松尾先生と親しい間柄だとか。
こうして施主が住宅の性能にきちんと目を向けるようになってきていることは、
とても大切だしいい傾向だと思います。
一方で私は、そもそも数値ばかりにこだわるのはどうか?と、
ちょっとオタク化してきている風潮には違和感を覚えているのですが・・・。
やっと本題!
デッカイ吸い出し装置が持ち込まれてきました。
小西社長、「ひょっこりはん」してます。
さて、どこに設置しよう・・・。
掃き出し窓より勝手口の方が良さそう・・・。
機器を設置して周りをプラダンで塞いでいきます。
もちろん窓という窓は全て閉めます。
家中の空気がつながるよう、障子も襖も全て開けた上で、
換気扇を全て養生テープで塞ぎます。
この家には、小屋裏に熱気が溜まるような時期の排気用に
棟の両端にも換気扇があります。
あと隙間風が入りそうなところは、玄関の木製引戸。
隙間モヘアシールは施してあるのですが・・・。
もちろんここにはテープを貼ったりしません。ピタッと閉めるだけ。
設置完了!
スイッチON!
徐々に吸出し圧を高めていきます。
予想どおり、コンセントから微かに吹き込みを感じます。
特に1階の床に1か所あるガスコンセントからは、けっこう感じます。
で、3回測定した結果は?!・・・
総相当隙間面積は約145㎠なので、
延べ床面積で割ると、
C値は4.68(㎠/㎡)!
予想どおり、期待どおり、御の字です。
これには豊田先生もビックリ!
丁寧な施工に感心してくださいました。
土壁は全て柱のチリジャクリに食い込ませてあって、隙間風はなさそう。
タイベック(防水シート)を張ってあるのも効いてそう・・・と。
玄関の木製引戸は意外とほとんど隙間風を感じず、精度の高さが実証されました。
ただ、コンセント類は気密コンセントボックスは使わず普通の仕様なんで、
ここを改善すればもっと気密性能は上がりそうです。
一般の家のように大壁で壁の中が中空というけではなく、
この家は壁の中に壁土が詰まっていて空気の流れがほぼ無いというのも、
一役買っているのではないかと私は思います。
いずれにせよ、今回わかった隙間箇所を塞ごうとは思いません。
どうせ冬でも換気小窓は少し開けておく派なので。
ましてや、台所もトイレも必要に応じて換気扇を点けるわけですから。
測定結果を、他所の現場で年末の追い込み中の棟梁に速報。
不安げだっただけに、ちゃんと数字が出たんだ!と喜びの返信。
小西社長も満足の笑顔。
これだけ丁寧な設計施工をしてくれた日伸建設には、本当に感謝です。
家の性能は、C値だけで決まるわけではありません。家の燃費も然り。
特に太平洋側の比較的温暖で晴天率の高い地域(大阪は6地域)では、
日射取得計画も省暖房エネルギーの大きな要素になります。
それよりも天然乾燥無垢材と土壁による快適さの方が、
この家では大きな満足感を得られます。
・・・と、ふと見たYouTube「家づくりの知識」オガスタ新潟の社長チャンネル
『vol.16 UA値より大事?住宅の燃費性能』の最後の弁・・・。
「車は燃費も大事だけど、運転のしやすさや走る喜びも大事・・・。
家に置き換えると、暮らしやすさや生きる喜びを感じられることに価値がある・・・。」
エネルギーだだ洩れの浪費型住宅は論外としても、
C値がせめて5あれば、
石場建て伝統構法の家はまさにコレだと思いました。
今回のC値計測については、考察すべき面白い点はもっとあるかもしれませんが、
次に石場建てを新築するときにこのデータと経験を生かしてもらえれば、
更に快適な伝統構法の家につながっていくんじゃないかと期待・・・。
そして、小数点以下を競うよりもっと大切な家の総合的な性能と価値を、
実際にC値を測定することであらためて思いました。
ここ数日は寒さが緩んでいましたが、明日~大晦日にかけては寒波襲来。
ここ枚方でも最高気温6℃、雪が1cmほど積もるかも・・・との予報。
冬一番の冷え込みの日に、さて過ごし心地はどうでしょうか?!
豊田先生には、年末のお忙しい時期にお時間を割いていただき、
本当にありがとうございました。
そして日伸建設の棟梁をはじめ大工さん左官さん他たくさんの職人さん、
本当に丁寧で緻密な施工、ありがとうございました。