桃象コラム

桃象コラム

音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

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早いもので、スケート年度の大晦日です。今年もいろいろありました。
 
私としてもいろいろと忙しかった年で、ブログのほうもすっかり放置気味(ツイッター廃人になっているという噂も)。シーズン終わりになって、数年間辛かった痛みに別れを告げるべく、明日、膝の手術を受けるために現在入院中です。したがって消灯までにこれをアップしなければいけません。残り1時間15分、手短に今シーズンを振り返りたいと思います。さあ、順不同に思いついた順でまいりましょう。
 
ルール改正
 
何と言っても今季はこれ。GOEが最大3から5になって、ジャンプの基礎点が変わり、回転数によって係数がかけられました。さらに男子はフリーが4分になりました。これは大きな変化でした。GOEが5になったことより、基礎点と係数は思ったより影響が大きいんじゃないかと思いました。ただいずれにしろ、ジャッジの間でばらつきがあるように感じました。これが徐々に収斂していって北京五輪を迎えるのでしょう。というよりそうでないと困ります。正直言って、ルールを細かくいじるよりも、ジャッジのプロ化のほうが現実的で実効性が高いように思えます。
 
アイスコープはガジェット、AI判定の道程は遠い
 
フジテレビが全日本から導入したアイスコープなるガジェットが一部で話題になりました。まさか世界選手権にまで採用されるとは思いもしませんでした。いったいどういう仕組みなのだろうと思っていましたが、フジテレビのどこかの番組とサイトで詳しい説明が出ていました。アイスコープはジャンプの高さ、飛距離、着氷速度を計測するとの触れ込みですが、私にはどうも意味がないとしか思えませんでした。
  •  ジャンプの軌道は直線じゃなくて弧なのに直線で飛距離を測る意味があるのか
  •  氷面からブレードまでを「高さ」として計測しているけれど、ブレードの厚み(高さ?)や靴の高さにはメーカーごとに差がある。空中姿勢の違いもある。それで数センチはあっという間に変わるはず。たとえばタックアクセルなんかどうしたらいいんだ?という話です。本気で高さを測るのなら、選手の肩の位置や腰骨の位置などで測るしかないのではないでしょうか。
  •  着氷速度といわゆる「流れのあるジャンプ」とは違うのではないか。
というわけで、私はアイスコープの数字は余興だと思っています。
 
アイスコープの登場やサッカーのVR判定などで、フィギュアスケートにも機械判定を求める声を多く聞くようになりました。しかし私は実現までの道のりは厳しいと思っています。テニスやサッカーでは、基本的には「ボールが線を越えたかどうか」が分かれば良いのです。それは非常に単純な基準です。フィギュアスケートで最も求められると思われる判定は、回転不足とエッジエラーだろうと思うのですが、この判定は1本の線を越えたか越えないかという単純なものではありません。また、AIがまるでなんでも可能にする魔法であるかのように期待を寄せるむきもありますが、AIは人工知能です。知能には学習が必要です。そのためには膨大なデータを読み込ませて経験を積ませなくてはなりません。翻って現在、例えば4回転ルッツを跳べる選手が何人いるでしょう。日本には1人しかいません。世界中を見渡しても、どんなに頑張っても10人余でしょうか。サンプル数がこれだけしかないと、AIは学習できません。
 
 
宇野昌磨くんの大決断
 
いや~、大きな決断を下したなと思いました。3月の世界選手権が終わった時、このあと昌磨くんはどうするのだろうと思いました。本人の勝ちたい、成長したい、という気持ちを、コーチ陣は叶えられないのではないかと思っていたからです。一方で、地元を離れるようには見えませんでした。しかしついにコーチを変えることを決断。現在はエテリ組のところで合宿中で、ジャンプの改造に励んでいるようにも見えます。来季はこのままエテリ組に落ち着くのでしょうか。振り付けはシェイ・リン・ボーンとデイビッド・ウィルソンのカナダ組ですし、これまでとはガラっと変わった昌磨くんが見られそうで、とても楽しみにしています。
 

羽生結弦の第3章
 
平昌五輪の後、これからは自分のために滑ると語っていた羽生さん。ショートが「オトナル」フリーが「オリジン」と、子供の頃の自分の「原点」に帰る、リスペクトに満ちた2つを用意したわけで。しかし開幕してみれば、負けが悔しくてメラメラと燃えて勝ちにこだわってきました。シーズン最後にネイサンに負けて、「ルッツ跳ぼう、フリップも跳ぼう」と勝たなきゃ意味がないと息巻いた。あらためて羽生結弦の「原点」は、勝つことなんだなと思いました。確かにネイサンは強い。だけど、正直言ってネイサンと互角に戦えるのは羽生さんしかいません。この2人がどんな火花を散らしてくれるのか、そこにヴィンスや昌磨はどう絡んでくるのか。とても楽しみです。ソチで優勝するまでを第1章、ソチから平昌までを第2章とすると、今季からは羽生結弦の第3章。これが北京五輪まで続くのか、そうでないのか、きっと本人も分かっていないのでしょう。ただひとえに健康を願うとともに、残りの限られているであろう試合をしっかり見て応援していこうという決意を新たにしました。
 
 
町田樹の引退
 
引き際お見事。カーニバル・オン・アイスでの最後の演技、マーラーの交響曲第5番第4楽章「アダージェット」は、現地で見ました。とてもいいプログラムでした。これが最後だからではなく、これまでのスケート人生すべてをつぎ込んでいるのがよく分かったからです。これからは実演で得た知見を学究会に注ぎ込んでくれるのでしょう。その成果がどのように表れるのか、楽しみにしています。
 

さて、そろそろ時間切れなのですが、その他、いろんなことがありました。紀平梨花さんの活躍、メドベージェワのカナダ移籍後初シーズン、金メダル後のザギトワの頑張り、本田真凜絶賛改造中、ネイサンのイェールわくわくフレッシュマン生活、ロシアの驚き女子ジュニア軍団、クラウドファンディングによる資金集め、川畑和愛の活躍、映画「ジョン・カリー」公開、ジョニー2022年に引退発表などなど。オリンピックの翌年とは思えないほど賑やかなシーズンでした。北京五輪までにはまだまだいろいろあると思います。じっくり見守っていきましょう。
 
来シーズンもどうぞよろしくお願いいたします。
 
桃象

2か月近い沈黙を破って記事を掲載しようと、パソコンに向かっております。

 

競技のシーズンが終わり、アイスショーのシーズンとなりました。近年、日本ではかなり多くのアイスショーが開かれていますが、私は今年いろいろと事情がありまして、アイスショーはFantasy on Iceの幕張初日の1回のみです。というわけで、524日に幕張の初日を観て、そしてすでにFaOIロスです(笑)ああ、追いFaOIしたい、でもできない(どうせチケットもない)

 

なにしろ今年のFaOIはすごい。毎年、幕張の初日を狙う理由は、まだ誰も見ていないものを見たいからです。初物を味わう楽しみもあると同時に、正直言ってまだショーとしてこなれていないなと思うこともあります。それはスケーターだけではなくて、ゲストアーティストについてもそう思うことがあります。

 

しかし今年は初日からなんという完成度!オープニングからフィナーレまで、目をつぶるところはありません。これからいらっしゃる方は覚悟のほどを。今年のFaOI3つの点で満足度が高いです。

 

1. いつも通り楽しい

例年のことですが、FaOIに出演するスケーターの顔ぶれが豪華。五輪、ワールドのメダリストがわらわら。この顔ぶれで、それぞれのプログラムを見ているだけで楽しいです。今年になって改めて感じているのは、この顔ぶれでFaOIを見られるのも、もう何年もないだろうということ。ジョニーが2022年での引退をすでに表明していますし、プルシェンコとランビエールも徐々にコーチ業にシフトしています。ショーから引退するのもそう遠い日のことではないと思われます。人は日々、歳をとっていきます。どんなに優れたスケーターでも、その技術や体力を永遠に維持できるわけではないので、いつの日か完全に引退する日がやってきます。だからこそ、プル様やジョニーやランビ様の滑る姿を目に焼き付けておきたいと思うのです。プル様の「アダージョ」、ランビ様のシューベルトの即興曲Op.90-4、ジョニーの「Fuego」(すごい衣装でした)。どれも三者三様に楽しみました。

 

そしてまだ引退して欲しくはないけれど、織田くんだって関大の監督を務める身なので、ショーからの引退もあり得ないわけではないです。解説やテレビ出演と非常に多忙な身でありながら、キュートなプログラム2本を見せてくれました。「Ghost」は、その振り付けだけで、ああ、これはあの映画のGhostだと分かる、愛情あふれるプログラムでしたし、後半の「Mission Impossible」は面白かった!途中で姿が消える、とてもカッコイイプログラムでした。

ひとつひとつのプログラムが本当に愛おしかった。前半が終わっただけでも、もうかなり満足しました。

 

2. フラメンコ・オン・アイスがすごい

後半の幕開けには、スペイン国立バレエ団の芸術監督アントニオ・ナハーロさん率いるフラメンコ軍団(つまりカンテ=歌、ギタリスト、ダンサー)とハビエル・フェルナンデス&スペインスケーターによる「フラメンコ・オン・アイス」が上演されました。これがなんと素晴らしい!! 私はスペインにこそ行ったことはありませんが、年に12回、都内のタブラオにフラメンコを観に行くぐらいにはフラメンコ好きです。都内のタブラオはたいてい狭く、小さいステージにダンサーと歌手、ギタリストがひしめき合って、熱く繰り広げられるショーが(そしてそれをカウンターで飲みながら観るのが)たまらなく楽しいのですが、今回はなんといってもアイスリンク。ショー用の小さいリンクとはいえ、タブラオに比べればかなりの広さです。しかしあの広い空間にカンテが朗々と響き渡り、ナハーロさんとハビが舞台上で踊り、それからハビが氷に降りて、フラメンコのリズムを刻んでいく。なんと贅沢なことか。

 

フラメンコはフィギュアスケートでよく用いられます。これまでにも数多くのスケーターがフラメンコの曲を使ったプログラムを滑ってきました。しかしこれを見てしまうと、これまでのフラメンコプロは何だったのだろうと思ってしまいます。フラメンコの何たるかもよく分からずに、やれ僕ってラテン系の顔だからフラメンコ似合うよねなどと言っている日本人のなんて多いことか(チコちゃんに叱られる森田美由紀アナのような口ぶりになってしまいました)。これまでにフラメンコを使ったプログラムを使ったスケーターは、ちょっと立つ瀬がないというか…(それはそれでちょっとかわいそうではあるけれど)

「フラメンコ・オン・アイス」は、FaOIの一部として上演するにはもったいないコンテンツですが、来年、本格的なショーとして上演する計画があるようです。それまで楽しみにしていましょう。私はフラメンコダンサーの友人と、フラメンコ好きの友人を連れて行きたいと思っています。

 

3.「としくん」がすごい

今年のゲストアーティスト、メインは何と言ってもX JapanToshlさん(ファンの方によると、Toshlさんは、「としくん」と呼んで欲しいそうですので、私もそう呼びます)。最初に発表されたとき、いい目の付け所だなと思ったのですが、まさかこれほどとは…私はX Japanの皆さんとほぼ同世代なので、彼らの活躍もリアルタイムで眺めていたのですが、ライブで聴いたことはありません。なので、今回初めて、としくんの歌を生で聴きました。

 

圧倒されました。あの声、オーラ、会場を一瞬にしてつかむ力。恐れ入りました。

オープニングで「真夏の夜の夢」、ジョニーと「赤いスイートピー」、ステファンと「I Love You」、そして、羽生結弦×としくん「マスカレイド」「クリスタル・メモリーズ」ですよ!このオープニングとコラボレーション4曲で1つのショーにしてもいいぐらいです。

 

私が観た初日は「マスカレイド」だったのですが、参りました。ものすごい迫力でした。「オペラ座の怪人」の続編?という話もありましたが、そういう印象はうけませんでした。この曲の歌詞で、「運命の仮面かぶり 素顔 忘れてく」「淋しさも悲しみも 誰にも見えない」「血の涙 銀色に光る 仮面に突き刺さる」「孤独のマスカレイド」「戻りたい ありのままでいい 素顔の自分に」などの言葉が突き刺さりました。人生では誰もがある程度仮面をかぶっている(「ペルソナ」ですね)。しかし、としくんも、そして羽生さんも、平凡な一般人とは違って巨大なペルソナをかぶる運命となってしまった。それを脱ぎ捨てて、叩き壊すのだなと思ったのです。左手には、ほぼ白色で、一部が黒の手袋をはめていたのですが、これが演技中に仮面のメタファーとなって、仮面をつけたりはずしたり。そして最後には手袋をとって氷にばこーんと投げつける振り付け。手袋を投げつけることが、仮面を壊すこと。素晴らしい振り付けです。誰の振り付けなのか、明言はされていないのですが、どうやらジェフの振り付けに、羽生さん自らのアレンジのようです。動作ひとつひとつがたくましく力強く、2か月前に観た「春ちゃん」と同じ人とは…

 

としくんの歌は、もちろんその音域も、音量も、ダイナミックレンジの広さも素晴らしいのですが、もうひとつ、歌詞がよく聞こえるのも素晴らしいと思いました。歌なのだから、歌詞の意味が伝わらないといい歌とは言えないと、私はいつも思うのですが、これがなかなか難しい。としくんの歌は、歌詞がきちんと言葉として聞こえる、だからこそその意味を感じ取って心が揺さぶられました。本当に素晴らしい歌い手です。

 

スケーターの皆さんそれぞれが、コラボレーションしたい曲をお選びになったようです。「赤いスイートピー」と「I Love You」は、としさんのカバーアルバムに収録されていて、見ると他にも聴きたい曲が入っていたので、CDで購入しました(まだ届いていない)。「マスカレイド」と、羽生さんがコラボレーションしたもう1曲「クリスタル・メモリーズ」は、iTunesでダウンロードしました。そして今、としくんの「洗脳」を読んでいます。当時はワイドショーで伝えられる情報を垣間見ていただけだから、本人の言葉で当時のことを知りたいと思ったので。

 

あー、それにしても「マスカレイド」は素晴らしい。ものすごい才能のぶつかり合いです。私は普段はアイスショーも静かに観るほうで、拍手は一生懸命しますが、声はほぼ出しません。しかし「マスカレイド」の後は、両隣の女性二人と妙に盛り上がって、「ひ~~ カッコイイ~~」と叫んでいました(笑)中毒性のあるプログラムで、見終わったと同時に、また見たくなりました。としくんを呼んでくれた真壁さんに感謝。そして、コラボレーションしてくれた各スケーターにも感謝です。

 

というわけで、1粒で3度おいしい今年のFaOIです。いよいよ明日から仙台、そして神戸、富山と続きます。今年は幕張にデイビッド・ウィルソンが来ていてもう帰っちゃったし、としくんは富山まで全会場に出演するし、もしかして例年のような神戸での演出切り替えはないのかな?なんて想像しているのですが、いずれにしろあと9回の公演、テレビ放映と皆様からのご報告を楽しみに待っていましょう。現地組のみなさんは、心の準備を。仙台がほとんど「フェス」のようで、ちょっとうらやましい。

 

桃象

この辺境ブログを訪問してくださる数少ない皆様、ご無沙汰しております。
 
ご無沙汰しているうちに、シーズンが終わりました。いえ、正確にはまだ国別対抗戦が残っていますが、すでにシーズンは終わった気分です。
 
前記事は全日本について、大阪からアップしたのでした。それからあっという間に3か月余りが過ぎ、いろいろなことがありました。
 
全日本男子フリー(現地観戦)
昌磨くんの本気を見た。拍を無視した無理やりな編曲も気にならないぐらい、魂の月光でした。大ちゃんは後半かなりばてているように見えたけど、音楽を表現する力はさすがだった。刑事くんと友野くんもがんばったけれど、今季のルールでは高難度ジャンプをミスすると減点が大きくて厳しいなとあらためて思いました。
 
メダリスト・オン・アイス(現地観戦)
ニチレイさんがスポンサーなのはどうしてなのだろうとずっと思っていたのだけれど、そうか、「氷」つながりなのか、と初めて気づいた日でした。昌磨くん足の怪我のためおやすみ。大ちゃんのマンボを観られたのは、ちょっとお得な気分でした。
 
ロシア・ナショナル
女子の戦いが激しすぎてもう…
 
全米
ネイサン342.22とは。「ねいさん、事件です」再び。
 
四大陸選手権
昌磨くん、ISU Championships 初タイトルおめでとう!
 
そのほか、能登さんの写真展を観に行ったり、羽生さんのKOSE雪肌精のCMに度肝を抜かれたりといろいろありましたが、とにかく世界選手権in さいたまです。
 
さいたまスーパーアリーナで行われた世界選手権、5日間のうち、21日のペア・フリーと男子ショート、23日のアイスダンス・フリーと男子フリー、24日のエキシビションの3日間を現地で観戦してきました。
 
あまりにも濃い3日間で、正直、「ワールドロス」です(笑) 特に男子フリーの日、羽生さんの「オリジン」に魂持っていかれました。ショートで約12点のビハインド。ひっくり返すにはノーミスが前提であるにもかかわらず、冒頭の4ループがなかなか思うように決まらない。そんな状況で始まったオリジン。4分間のプログラムはあっという間でしたが、場内のボルテージはどんどん高まっていって、フィニッシュの瞬間には紛いもない総立ち。たまアリの天井が突き抜けるような興奮の渦でした。
 
そしてエキシビションでの「春よ、来い」。テレビ放映ではどうしても羽生さんの全身を比較的アップで撮るので分かりませんが、現地では、照明で氷に満月や桜を映し出す演出が秀逸で、桜の花びらが舞い散るなかを春ちゃんが舞う姿が、それはそれは美しくて。
 
もちろん羽生さん以外の選手のみなさんひとりひとりの演技にもとても感動したし、エキシビも楽しかった。その感動と興奮の総量があまりにもすごくて、なかなか現実の世界に戻れない感じです。
 
ワールドをきちんと消化したら感想を書き留めておきたいし、今季のルール改正に対する思いもいろいろあるので、ボチボチ書ければいいなと思っています。
 
いましばらくは、レコーダーにたまったワールド関連の大量の録画を整理しながら、あの感動と興奮を咀嚼したいと思います。
 
桃象
どうも。ブログ放置してました。忘れていたのではなく、ネタや気力がなかったのでもなく、ひたすら時間がありませんでした。公私ともにいろいろとありまして、やることありすぎました。年末になって、この連休は年賀状の準備も大掃除も放棄してがっつり遊んでいます。なにしろ夏休みもろくに取れなかったんで。
 
この間にグランプリシリーズが終わり、またその間にいろいろあって、早くも全日本真っ盛りです。女子の戦い、すごかったですね。いいものを見せてもらいましたよ。本当にレベルの高い戦いでした。220点を超えても表彰台に乗れないなんて、日本女子もすごい時代になったものです。トップ選手は全員がパーフェクトパッケージ型で、苦手なエレメンツのない選手ばかり。本当に進化しました。こんな時代が来るなんて、昔は想像もしていませんでした。
 
明日の男子はどうなるでしょう。昌磨くんが怪我をしているという情報もあって心配ですが、全選手が持てる力をすべて出し切ってくれるといいなと思っています。一方で、スケート連盟の皆さんはいろいろと頭を悩ませていることでしょう。なんといっても全日本は来年のさいたまワールドと四大陸の代表選考を兼ねていますから。
 
羽生さんが右足首の靭帯損傷により欠場を発表して、またダークサイドの皆さん方があれこれかまびすしいのですが、そんなものは華麗にスルーしておけばよろし。連盟の規定を読んで理解する能力の欠如は痛々しいばかりです。分かっているのにあえて騒いでいるみなさまご苦労様です。
 
そもそも全日本の第一義的な目的は代表選考じゃない。代表、という意味は、国際大会で好成績を収める可能性の高い選手ということであり、その分かりやすい指標として全日本があるに過ぎません。したがって、本来は、すでに目に見える実績を挙げている選手に選考会は不要です。実力の拮抗した選手の数が代表の枠の数を上回っている時に、一発勝負の選考会が必要なのです。
 
今の日本女子はまさにこの状態です。世界選手権に出られるのは3人。それに対して、ワールドでメダルを狙える選手が何人いますか? 宮原さん、樋口さん、坂本さん、三原さん、紀平さん、さらに広げれば本郷さん、本田さん、白岩さん、山下さんあたり、全日本女子の結果を見れば、細田さんや横井さんだって、国内だけでおいておくにはあまりにも惜しい存在です。こうなると、「これまでの実績」では甲乙付け難くなります。よって、全日本を必須にして一発勝負で決めよう、ということになります。
 
一方、男子は、羽生さんと宇野くんの力が抜きん出ています。今季を含むこれまでの実績を見ても、この2名と3位以下との間には大きなギャップがあります。だから、少々乱暴な言い方ですが、羽生さんと宇野くんは代表確定でいいんです。問題は「第三の男」をどうやって選ぶかなんです。だから、その第三の男を選ぶために全日本があると考えていいんじゃないかと思っています。仮に宇野くんもインフルエンザか何かでフリーを欠場したとしても、代表は羽生さんと宇野くんでいいんです。それはフェアじゃない?そんなことありません。好成績を収められる可能性の高い選手を一時的な理由で選出しないほうがよっぽどフェアじゃありません。
 
現行の選考規定では全日本出場を必須としています。これは、現在の女子のように「誰が出てもかなりいい成績が期待できる」という贅沢な状況では妥当な方法です。しかし現在の男子のように、1-2名の成績が抜きんでている場合は、これらの選手に不測の事態が発生した場合の救済措置を考えておかないとなりません。それが、全日本を怪我などの理由で欠場した場合に代表選出を可能にする「例外規程」です。ここ2年間の羽生さんの場合は、この例外規程を適用したわけです(決して「特例」ではないのです)。昌磨くんが足を痛めつつも100点越えの首位と立派に滑りましたが、仮に、負傷の状態が深刻でフリーに影響が出て不本意な成績に終わる、もしくは欠場するようなことがあった場合でも、彼は世界選手権に選出されるべきです。
 
ちなみに、高橋大輔さんは仮に全日本で優勝しても、そのままでは世界選手権にも四大陸にも出られません。ソチ後の4年間のブランクで、国際スケート連盟のミニマムスコアをクリアしていないからです。もし国際試合に出ようとするならば、トルン杯にでもでてミニマムスコアをクリアする必要がありますが、どうするかはご本人次第だと思います。仮に、ミニマムスコアをクリアしなくても四大陸やワールドに出てもよい、とISUが決めたなら、それは立派な「特例」です。
 
それでもスケート連盟の皆さんが頭を悩ませているだろうことは想像に難くありません。それはやはり、羽生さんの怪我をどう評価するかです。どの時点で競技に復帰できるまで痛みや制限が取れるかは本人にもわからないでしょう。ゆっくりじっくりリハビリを続けていく中で、どこかの時点でやっと分かってくることだからです。医師の言う「全治」という期間もあてにはなりません。医師が「全治3か月」と言ったら3か月後には元通りの活動ができると思っている方もいるかもしれませんが、それは違います。医師の言う「全治」は、「医師が治療としてやることがなくなる時期」を指しているのであって、元通りに動けるわけじゃないんです。羽生さんのことだから、きちんと状況を判断してリハビリを続けていると思いますが、さすがに五輪2連覇の後のリハビリにはモチベーション上がらないのではないかと思ったりもします。いやいや、こと羽生さんに関しては、自分の基準で考えてはならんのです。今回もきっと、凡人の想像のつかないビジョンでリハビリに臨んでいるのでしょう。落ち着いて、静かにリハビリを続けていけるように、そして競技に復帰して思うような演技ができるように、心から願っています。羽生さんがいるはずだったのにいない試合を見るのはあまりにも淋しいのです。
 
ところで、昨日、京都の護王神社にお詣りしてきました。足腰にご利益のあるといわれるこの神社では、羽生さんの脚の回復と高橋さんの脚の無事を祈る絵馬がたくさん供えられていました。世界中で数多くの人が祈っています。ほかにも現在、痛みを抱える選手がきっとたくさんいることでしょう。彼ら彼女らの痛みが取れ、新たな痛みがどの選手にも生まれませんように願うばかりです。
 
さて、全日本残る男子フリーも楽しみです(現地です)。
桃象
早いものであっという間に夏も終わり、夏の間のいろいろなイベントも終わり、先週末のロンバルディア杯、USクラシックあたりからシニアのシーズンが始まっています。ジュニアはもうちょっと早くから始まっています。いったんグランプリシリーズが始まると、毎週の試合を追いかけているうちに、あっという間に年末になっているのでしょうね。怖いことです(笑)
 
さて、各スケーターの今季のプログラムが徐々にその全貌を現すなか、羽生さんのプログラムは今週末のオータムクラシックまで待たなければなりません。これまでのところ、フィギュアスケートTVやNHKニュースなどで明らかになっているのは一部だけで、それがどのようにつながるのか、みなさんいろいろと想像や妄想を繰り広げておいでです。使用する曲は、ショートがジョニー・ウィア―の「秋に寄せて」、フリーがエフゲニー・プルシェンコの「ニジンスキーに捧ぐ」、それぞれの使用曲(OtonalとArt on Ice)を使うということ。それも平昌オリンピックが終わってからいろいろ考えて、Continues with Wingsの時にお二方から許可を頂いたと。そうすると、ファンタジー・オン・アイスでプル様がニジンスキーを滑ってくれたのも、「よく見ておけ」というつもりもあったのかなと思います。このあたりもContinuesで胸熱。
 
私は羽生さんのプログラムはニジンスキーを演じるようなものにはならないと思っています。彼が演じるのはニジンスキーではなく、子供の頃から今までずっと持ち続けてきたプル様への憧れや尊敬などの気持ちを表すものになるんじゃないかと思っています。そんな曲を引っ提げて試合用のプログラムを作っているのだから、そりゃ楽しいに決まっています。おそらく今から十数年前のアイスリンク仙台で、練習は5分?10分?で飽きちゃっても、「ねぇねぇ昨日のプルシェンコ見た?」とか言いながらスピンやステップの真似をして都築先生に怒られていたのかな、なんて想像します。その後の想像もつかないほどの努力で五輪二連覇を達成した今、好きなようにプログラムを組む楽しさは想像に難くありません。チラチラと明らかになっている部分だけでもつなぎが盛り盛りで、そもそもオープニングからあっというまに4ループが入るみたいですけれど、いくらなんでも助走が短すぎるような気がするし、つなげられるだけいろんなステップや動きをつないでいるように見えるのですが、それはいったいステップシークエンスなのかコレオシークエンスなのか今の段階ではまったく分かりません。もはやエレメンツを単独で行うなんていうことはこの人にはないのだと。
 
どこかでそんなことを語っていたなと思って、荒川さんの「フレンズプラス」に羽生さんが2015-16シーズンに出演した時のビデオを見返してみたら、いかにもこれからジャンプ跳ぶぞ、というのはいやです、ジャンプもスピンもすべて流れの中でやりたいと語っていました。荒川さんも同じ考え方なんですね。その理由は、これからジャンプを跳ぶ、という「ため」があると、そこで見ている人の集中が途切れる。せっかくプログラムで何かを表現しようとしているのに、その流れから離れて「ジャンプ」に意識が集中してしまう、ということでした。確かに私も、助走の長い選手を見ていると、助走に入った瞬間に演技の流れがふと途切れることは珍しくないです。競技ならまだしも、ショーのプログラムでこれがあるとちょっと残念に思います。ミスがあるともっと顕著です。他の選手の話では、ジャンプの助走に入ったら音楽のことはいったん忘れないと跳べないと聞いたこともあるので、ジャンプの音ハメは、実はものすごく高度な技術なのだろうなと想像します。
 
そういえば、平昌で金メダルを取ったら引退するのではないかと思われていたきっかけになったのは、4年ぐらい前のインタビューだったかと。たぶんどこかに録画が残っているとは思うのだけど家探しする時間がないので記憶をたどれば、確か、平昌を最後に競技からは引退して、まだ技術や体力がピークにある間に好きなプログラムを滑りたいというような趣旨だったかと。競技用のプログラムはいろいろなルールの制約を受けざるを得ず、やりたいこともできないという考え方もあるだろうけれど、逆に、技術や体力がまだあるからこそ、究極に難しい競技プログラムを滑ることを勝ち負けよりも優先できるのは、チャンピオンだけに許された、ものすごい贅沢とも言えるのじゃないかと思います。
 
しかも、そこに4回転アクセルを組み込もうと。それも、NHKのインタビューで語ったとおり、迷いなく「跳びます」と。彼がこのように明言するのは勝算のある時。きっとどこかで入れてくるでしょう。平昌でブライアン・オーサーも、結弦は4A を跳べると思うかと聞かれて、「Yes, it’s doable」とあっさり答えていましたからね。夏の間(つまり去年の夏)、ハーネスをつけた練習では、実質的にハーネスの力を借りなくとも跳べていたと。そういう意味でも見逃せない今季。とにかく怪我だけはしないように。二連覇を成し遂げてのボーナスステージ(なによりご本人が「ご褒美」と呼んでいるぐらい)、楽しみにしています。オータムクラシックまであとわずか。もう少しでプログラムの全貌が分かります。ホントにワクワクします。衣装を楽しみにしている声も多数聞きますが、私はこれにはほとんど関心ありません。透けようが透けまいが、黒だろうが紫だろうが、極端な話どうでもいいです。むしろ、羽生さんには一度はフリルでもビジューでもレースでもない、「それ衣装なの?練習着じゃないの?ユニクロで買ってきたの?」というぐらいシンプルな着衣で滑ってもらいたいような気もします。今季から男子にも認められたタイツ着用の第1号が誰で、どんな衣装かは、ちょっと気になるけど。
 
週末のオータムクラシックとオンドレイ・ネペラが終わると、概ね今季のプログラムが出そろいます。一度この辺りで情報を整理しておかないと、来るGPSについていけず、あれよあれよという間にファイナルがやってきてしまいます。連休はお勉強しましょう。
 
桃象