シーズン最後の日に 2018/2019シーズン振り返り | 桃象コラム

桃象コラム

音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

早いもので、スケート年度の大晦日です。今年もいろいろありました。
 
私としてもいろいろと忙しかった年で、ブログのほうもすっかり放置気味(ツイッター廃人になっているという噂も)。シーズン終わりになって、数年間辛かった痛みに別れを告げるべく、明日、膝の手術を受けるために現在入院中です。したがって消灯までにこれをアップしなければいけません。残り1時間15分、手短に今シーズンを振り返りたいと思います。さあ、順不同に思いついた順でまいりましょう。
 
ルール改正
 
何と言っても今季はこれ。GOEが最大3から5になって、ジャンプの基礎点が変わり、回転数によって係数がかけられました。さらに男子はフリーが4分になりました。これは大きな変化でした。GOEが5になったことより、基礎点と係数は思ったより影響が大きいんじゃないかと思いました。ただいずれにしろ、ジャッジの間でばらつきがあるように感じました。これが徐々に収斂していって北京五輪を迎えるのでしょう。というよりそうでないと困ります。正直言って、ルールを細かくいじるよりも、ジャッジのプロ化のほうが現実的で実効性が高いように思えます。
 
アイスコープはガジェット、AI判定の道程は遠い
 
フジテレビが全日本から導入したアイスコープなるガジェットが一部で話題になりました。まさか世界選手権にまで採用されるとは思いもしませんでした。いったいどういう仕組みなのだろうと思っていましたが、フジテレビのどこかの番組とサイトで詳しい説明が出ていました。アイスコープはジャンプの高さ、飛距離、着氷速度を計測するとの触れ込みですが、私にはどうも意味がないとしか思えませんでした。
  •  ジャンプの軌道は直線じゃなくて弧なのに直線で飛距離を測る意味があるのか
  •  氷面からブレードまでを「高さ」として計測しているけれど、ブレードの厚み(高さ?)や靴の高さにはメーカーごとに差がある。空中姿勢の違いもある。それで数センチはあっという間に変わるはず。たとえばタックアクセルなんかどうしたらいいんだ?という話です。本気で高さを測るのなら、選手の肩の位置や腰骨の位置などで測るしかないのではないでしょうか。
  •  着氷速度といわゆる「流れのあるジャンプ」とは違うのではないか。
というわけで、私はアイスコープの数字は余興だと思っています。
 
アイスコープの登場やサッカーのVR判定などで、フィギュアスケートにも機械判定を求める声を多く聞くようになりました。しかし私は実現までの道のりは厳しいと思っています。テニスやサッカーでは、基本的には「ボールが線を越えたかどうか」が分かれば良いのです。それは非常に単純な基準です。フィギュアスケートで最も求められると思われる判定は、回転不足とエッジエラーだろうと思うのですが、この判定は1本の線を越えたか越えないかという単純なものではありません。また、AIがまるでなんでも可能にする魔法であるかのように期待を寄せるむきもありますが、AIは人工知能です。知能には学習が必要です。そのためには膨大なデータを読み込ませて経験を積ませなくてはなりません。翻って現在、例えば4回転ルッツを跳べる選手が何人いるでしょう。日本には1人しかいません。世界中を見渡しても、どんなに頑張っても10人余でしょうか。サンプル数がこれだけしかないと、AIは学習できません。
 
 
宇野昌磨くんの大決断
 
いや~、大きな決断を下したなと思いました。3月の世界選手権が終わった時、このあと昌磨くんはどうするのだろうと思いました。本人の勝ちたい、成長したい、という気持ちを、コーチ陣は叶えられないのではないかと思っていたからです。一方で、地元を離れるようには見えませんでした。しかしついにコーチを変えることを決断。現在はエテリ組のところで合宿中で、ジャンプの改造に励んでいるようにも見えます。来季はこのままエテリ組に落ち着くのでしょうか。振り付けはシェイ・リン・ボーンとデイビッド・ウィルソンのカナダ組ですし、これまでとはガラっと変わった昌磨くんが見られそうで、とても楽しみにしています。
 

羽生結弦の第3章
 
平昌五輪の後、これからは自分のために滑ると語っていた羽生さん。ショートが「オトナル」フリーが「オリジン」と、子供の頃の自分の「原点」に帰る、リスペクトに満ちた2つを用意したわけで。しかし開幕してみれば、負けが悔しくてメラメラと燃えて勝ちにこだわってきました。シーズン最後にネイサンに負けて、「ルッツ跳ぼう、フリップも跳ぼう」と勝たなきゃ意味がないと息巻いた。あらためて羽生結弦の「原点」は、勝つことなんだなと思いました。確かにネイサンは強い。だけど、正直言ってネイサンと互角に戦えるのは羽生さんしかいません。この2人がどんな火花を散らしてくれるのか、そこにヴィンスや昌磨はどう絡んでくるのか。とても楽しみです。ソチで優勝するまでを第1章、ソチから平昌までを第2章とすると、今季からは羽生結弦の第3章。これが北京五輪まで続くのか、そうでないのか、きっと本人も分かっていないのでしょう。ただひとえに健康を願うとともに、残りの限られているであろう試合をしっかり見て応援していこうという決意を新たにしました。
 
 
町田樹の引退
 
引き際お見事。カーニバル・オン・アイスでの最後の演技、マーラーの交響曲第5番第4楽章「アダージェット」は、現地で見ました。とてもいいプログラムでした。これが最後だからではなく、これまでのスケート人生すべてをつぎ込んでいるのがよく分かったからです。これからは実演で得た知見を学究会に注ぎ込んでくれるのでしょう。その成果がどのように表れるのか、楽しみにしています。
 

さて、そろそろ時間切れなのですが、その他、いろんなことがありました。紀平梨花さんの活躍、メドベージェワのカナダ移籍後初シーズン、金メダル後のザギトワの頑張り、本田真凜絶賛改造中、ネイサンのイェールわくわくフレッシュマン生活、ロシアの驚き女子ジュニア軍団、クラウドファンディングによる資金集め、川畑和愛の活躍、映画「ジョン・カリー」公開、ジョニー2022年に引退発表などなど。オリンピックの翌年とは思えないほど賑やかなシーズンでした。北京五輪までにはまだまだいろいろあると思います。じっくり見守っていきましょう。
 
来シーズンもどうぞよろしくお願いいたします。
 
桃象