今年のFaOIは 1粒で3度おいしい | 桃象コラム

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音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

2か月近い沈黙を破って記事を掲載しようと、パソコンに向かっております。

 

競技のシーズンが終わり、アイスショーのシーズンとなりました。近年、日本ではかなり多くのアイスショーが開かれていますが、私は今年いろいろと事情がありまして、アイスショーはFantasy on Iceの幕張初日の1回のみです。というわけで、524日に幕張の初日を観て、そしてすでにFaOIロスです(笑)ああ、追いFaOIしたい、でもできない(どうせチケットもない)

 

なにしろ今年のFaOIはすごい。毎年、幕張の初日を狙う理由は、まだ誰も見ていないものを見たいからです。初物を味わう楽しみもあると同時に、正直言ってまだショーとしてこなれていないなと思うこともあります。それはスケーターだけではなくて、ゲストアーティストについてもそう思うことがあります。

 

しかし今年は初日からなんという完成度!オープニングからフィナーレまで、目をつぶるところはありません。これからいらっしゃる方は覚悟のほどを。今年のFaOI3つの点で満足度が高いです。

 

1. いつも通り楽しい

例年のことですが、FaOIに出演するスケーターの顔ぶれが豪華。五輪、ワールドのメダリストがわらわら。この顔ぶれで、それぞれのプログラムを見ているだけで楽しいです。今年になって改めて感じているのは、この顔ぶれでFaOIを見られるのも、もう何年もないだろうということ。ジョニーが2022年での引退をすでに表明していますし、プルシェンコとランビエールも徐々にコーチ業にシフトしています。ショーから引退するのもそう遠い日のことではないと思われます。人は日々、歳をとっていきます。どんなに優れたスケーターでも、その技術や体力を永遠に維持できるわけではないので、いつの日か完全に引退する日がやってきます。だからこそ、プル様やジョニーやランビ様の滑る姿を目に焼き付けておきたいと思うのです。プル様の「アダージョ」、ランビ様のシューベルトの即興曲Op.90-4、ジョニーの「Fuego」(すごい衣装でした)。どれも三者三様に楽しみました。

 

そしてまだ引退して欲しくはないけれど、織田くんだって関大の監督を務める身なので、ショーからの引退もあり得ないわけではないです。解説やテレビ出演と非常に多忙な身でありながら、キュートなプログラム2本を見せてくれました。「Ghost」は、その振り付けだけで、ああ、これはあの映画のGhostだと分かる、愛情あふれるプログラムでしたし、後半の「Mission Impossible」は面白かった!途中で姿が消える、とてもカッコイイプログラムでした。

ひとつひとつのプログラムが本当に愛おしかった。前半が終わっただけでも、もうかなり満足しました。

 

2. フラメンコ・オン・アイスがすごい

後半の幕開けには、スペイン国立バレエ団の芸術監督アントニオ・ナハーロさん率いるフラメンコ軍団(つまりカンテ=歌、ギタリスト、ダンサー)とハビエル・フェルナンデス&スペインスケーターによる「フラメンコ・オン・アイス」が上演されました。これがなんと素晴らしい!! 私はスペインにこそ行ったことはありませんが、年に12回、都内のタブラオにフラメンコを観に行くぐらいにはフラメンコ好きです。都内のタブラオはたいてい狭く、小さいステージにダンサーと歌手、ギタリストがひしめき合って、熱く繰り広げられるショーが(そしてそれをカウンターで飲みながら観るのが)たまらなく楽しいのですが、今回はなんといってもアイスリンク。ショー用の小さいリンクとはいえ、タブラオに比べればかなりの広さです。しかしあの広い空間にカンテが朗々と響き渡り、ナハーロさんとハビが舞台上で踊り、それからハビが氷に降りて、フラメンコのリズムを刻んでいく。なんと贅沢なことか。

 

フラメンコはフィギュアスケートでよく用いられます。これまでにも数多くのスケーターがフラメンコの曲を使ったプログラムを滑ってきました。しかしこれを見てしまうと、これまでのフラメンコプロは何だったのだろうと思ってしまいます。フラメンコの何たるかもよく分からずに、やれ僕ってラテン系の顔だからフラメンコ似合うよねなどと言っている日本人のなんて多いことか(チコちゃんに叱られる森田美由紀アナのような口ぶりになってしまいました)。これまでにフラメンコを使ったプログラムを使ったスケーターは、ちょっと立つ瀬がないというか…(それはそれでちょっとかわいそうではあるけれど)

「フラメンコ・オン・アイス」は、FaOIの一部として上演するにはもったいないコンテンツですが、来年、本格的なショーとして上演する計画があるようです。それまで楽しみにしていましょう。私はフラメンコダンサーの友人と、フラメンコ好きの友人を連れて行きたいと思っています。

 

3.「としくん」がすごい

今年のゲストアーティスト、メインは何と言ってもX JapanToshlさん(ファンの方によると、Toshlさんは、「としくん」と呼んで欲しいそうですので、私もそう呼びます)。最初に発表されたとき、いい目の付け所だなと思ったのですが、まさかこれほどとは…私はX Japanの皆さんとほぼ同世代なので、彼らの活躍もリアルタイムで眺めていたのですが、ライブで聴いたことはありません。なので、今回初めて、としくんの歌を生で聴きました。

 

圧倒されました。あの声、オーラ、会場を一瞬にしてつかむ力。恐れ入りました。

オープニングで「真夏の夜の夢」、ジョニーと「赤いスイートピー」、ステファンと「I Love You」、そして、羽生結弦×としくん「マスカレイド」「クリスタル・メモリーズ」ですよ!このオープニングとコラボレーション4曲で1つのショーにしてもいいぐらいです。

 

私が観た初日は「マスカレイド」だったのですが、参りました。ものすごい迫力でした。「オペラ座の怪人」の続編?という話もありましたが、そういう印象はうけませんでした。この曲の歌詞で、「運命の仮面かぶり 素顔 忘れてく」「淋しさも悲しみも 誰にも見えない」「血の涙 銀色に光る 仮面に突き刺さる」「孤独のマスカレイド」「戻りたい ありのままでいい 素顔の自分に」などの言葉が突き刺さりました。人生では誰もがある程度仮面をかぶっている(「ペルソナ」ですね)。しかし、としくんも、そして羽生さんも、平凡な一般人とは違って巨大なペルソナをかぶる運命となってしまった。それを脱ぎ捨てて、叩き壊すのだなと思ったのです。左手には、ほぼ白色で、一部が黒の手袋をはめていたのですが、これが演技中に仮面のメタファーとなって、仮面をつけたりはずしたり。そして最後には手袋をとって氷にばこーんと投げつける振り付け。手袋を投げつけることが、仮面を壊すこと。素晴らしい振り付けです。誰の振り付けなのか、明言はされていないのですが、どうやらジェフの振り付けに、羽生さん自らのアレンジのようです。動作ひとつひとつがたくましく力強く、2か月前に観た「春ちゃん」と同じ人とは…

 

としくんの歌は、もちろんその音域も、音量も、ダイナミックレンジの広さも素晴らしいのですが、もうひとつ、歌詞がよく聞こえるのも素晴らしいと思いました。歌なのだから、歌詞の意味が伝わらないといい歌とは言えないと、私はいつも思うのですが、これがなかなか難しい。としくんの歌は、歌詞がきちんと言葉として聞こえる、だからこそその意味を感じ取って心が揺さぶられました。本当に素晴らしい歌い手です。

 

スケーターの皆さんそれぞれが、コラボレーションしたい曲をお選びになったようです。「赤いスイートピー」と「I Love You」は、としさんのカバーアルバムに収録されていて、見ると他にも聴きたい曲が入っていたので、CDで購入しました(まだ届いていない)。「マスカレイド」と、羽生さんがコラボレーションしたもう1曲「クリスタル・メモリーズ」は、iTunesでダウンロードしました。そして今、としくんの「洗脳」を読んでいます。当時はワイドショーで伝えられる情報を垣間見ていただけだから、本人の言葉で当時のことを知りたいと思ったので。

 

あー、それにしても「マスカレイド」は素晴らしい。ものすごい才能のぶつかり合いです。私は普段はアイスショーも静かに観るほうで、拍手は一生懸命しますが、声はほぼ出しません。しかし「マスカレイド」の後は、両隣の女性二人と妙に盛り上がって、「ひ~~ カッコイイ~~」と叫んでいました(笑)中毒性のあるプログラムで、見終わったと同時に、また見たくなりました。としくんを呼んでくれた真壁さんに感謝。そして、コラボレーションしてくれた各スケーターにも感謝です。

 

というわけで、1粒で3度おいしい今年のFaOIです。いよいよ明日から仙台、そして神戸、富山と続きます。今年は幕張にデイビッド・ウィルソンが来ていてもう帰っちゃったし、としくんは富山まで全会場に出演するし、もしかして例年のような神戸での演出切り替えはないのかな?なんて想像しているのですが、いずれにしろあと9回の公演、テレビ放映と皆様からのご報告を楽しみに待っていましょう。現地組のみなさんは、心の準備を。仙台がほとんど「フェス」のようで、ちょっとうらやましい。

 

桃象