カルビー松本会長、ZOZO田端氏「高プロ(残業代ゼロ)が残業なくす」という #呪いの言葉の解き方 | すくらむ

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 上西充子法政大学教授が「逃げ恥」百合さんに学ぼう!「呪いの言葉」に「思考の枠組み」を支配されないための切り返し方( #呪いの言葉の解き方 )を拡散する必要があるのではないかと指摘しています。いま問題になっている高度プロフェッショナル制度をめぐる呪いの言葉の一つに「残業代ゼロが残業なくす」というのがあるなと思い、少し検証してみました。

 ITmedeiaビジネスオンラインのインタビュー「残業手当はすぐになくしたほうがいい」の中で、カルビーの松本晃会長兼CEOは次のように語っています。

 

 日本の働き方において何が一番悪いかといえば、言うまでもなく残業ですよ。残業手当てという制度がある限り、問題は解消されません。
 働き方改革に関しては、あながち政府が言ってることも間違ってるとは思いません。裁量労働制にしたらいい。特にオフィスで働いている人たちは、「時間」ではなく「成果」で働いているのですから。
 ところが、そうした人たちに残業代を払うとなれば、そんなのするに決まっているじゃないですか。
 例えば、「伏見さん、明日から残業手当を払うよ。1時間100万円」。しますか?

――します。

 当たり前でしょ。「松本さん、あなたカルビーの会長だけど残業代払うよ。1時間10万円」。やるに決まってますよ。
 もらっている給与に対して、残業手当は高いです。あんな悪しき制度を作っているから社員は使うんです。いま残業を月に数十時間している人がいたとして、明日から残業手当を1時間30円にすれば、きっと誰もやらないですよ。(残業手当はすぐになくしたほうがいい カルビー・松本会長



 それから、zozoの田端信太郎氏(zozoを展開する株式会社スタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長)も同じようなことをツイートしています。(※「▼」にツイートのリンクを貼っています)

 



 さて、「呪いの言葉」です。「残業手当を払うよ。1時間100万円。しますか?」「します」、「もらっている給与に対して、残業手当は高いです。あんな悪しき制度を作っているから社員は使うんです」――ここには高い残業手当を目当てに労働者は残業をすることを「残業手当1時間100万円」などというあり得ない例え話を持ち出して労働者に「呪い」をかけようとしています。

 客観的事実は、日本は先進主要国に比べて、残業手当がわずか半分と低過ぎるから残業が蔓延する上に、その低い残業手当も踏み倒す企業が多いから――いわば今現在は「残業代ゼロ」は違法なのに「残業代ゼロ」を横行させている企業が多いから、長時間残業が蔓延しているということです。(※正確には残業に対する割増賃金ですがカルビー松本会長に合わせて残業手当と表現しています)

 日本の残業に対する割増賃金率は25%。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国の割増賃金率は50%と日本の2倍です。(※ドイツは1日の最初の2時間は25%でそれ以降は50%。フランスは1週間の法定労働時間43時間以内は25%でそれを超えると50%です)

 



 新しく労働者を雇うより、今いる労働者に残業させた方が人件費を抑制できることになってしまうのが日本の低い残業手当です。日本以外の国の高い残業手当だと、今いる労働者に残業させるより、新しく労働者を雇った方が人件費を抑制できるのです。高い残業手当は、一人ひとりの労働者の残業をなくすだけでなくワークシェアリングにとっても必須なのです。

 そして、日本の問題は、他国に比べて半分という異常に低い残業手当であるにもかかわらず、さらに残業代不払い、サービス残業を企業が横行させていることです。企業が労働基準法を違反してでも「残業代ゼロ」で「働かせ放題」にしたいことは、労働基準監督署が毎年発表している「監督指導による賃金不払残業の是正結果」を見れば明らかです。直近の2016年度で、労働基準法違反による賃金不払残業の是正企業数は1,349企業、支払われた割増賃金合計額127億2,327万円にも上っているのです。(※すでに残業代ゼロの高プロで働かされているような状況にある国家公務員や教員に長時間残業が横行していることを見れば、一目瞭然でもあります。※参考→#高度プロフェッショナル制度 の近未来は霞が関不夜城=過労死・うつ病と隣り合わせの国家公務員

 それから、厚生労働省の2017年版「過労死等防止対策白書」には、次の指摘があります。

 

 「残業手当の支給の有無が与える影響度」をみると、把握されている『残業手当が支給されていない者』に比べて、『全額支給されている者』の方が「週の残業時間」は短く、「年間の年休取得日数」は多くなり、また、「メンタルヘルス状況」が良好になる傾向が見られた。
 本分析結果から、『労働時間を正確に把握すること』及び『残業手当を全額支給すること』が、「残業時間の減少」、「年休取得日数の増加」、「メンタルヘルスの状態の良好化」に資することが示唆される。


 また、アメリカには高度プロフェッショナル制度と同じホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法)がありますが、アメリカにおいても残業代ゼロ労働者の方が、残業代支払労働者より長時間残業を強いられています。(※以下のグラフは日弁連のパンフレット「働くあなたや家族の大問題!! 高度プロフェッショナル制度[過労死促進・残業代ゼロ制度]より)

 




 以上のことから導かれる、「残業代ゼロが残業なくす」という呪いの言葉の解き方の結論です。

 

 ▼「残業手当が高いから労働者はダラダラ残業する」という呪いの言葉の解き方

 

「残業手当が他国の半分と異常に低いからこそ日本では残業が蔓延する」

「残業手当が他国の半分と異常に低いからこそ企業は長時間残業に頼って過労死を頻発させている」


「労働者の残業手当目的のダラダラ残業が問題ではなく、低い残業手当、サービス残業に頼る企業が長時間残業を蔓延させている」

 

▼ 「残業代ゼロが残業なくす」という呪いの言葉の解き方


残業代ゼロ法がなくても残業代不払いを横行させている企業が残業代を全額支給するだけでも残業時間は減少する(厚生労働省の指摘)」
 

残業代ゼロでなく、残業代不払い・サービス残業をゼロにすれば残業は改善される」


「アメリカでも残業代ゼロが長時間残業を増加させている」
 

「日本は残業代ゼロでなく、残業手当を今の2倍(諸外国と同じ)にすれば長時間残業は改善される」


残業代ゼロ(高プロ)こそが残業をさらに増やす」

 

(井上伸)