竹中平蔵パソナ会長が派遣法と同様に高度プロフェッショナル制度を小さく産んで大きく育てる必要性力説 | すくらむ

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 昨夜(5月30日)放送されたNHKクローズアップ現代「議論白熱! 働き方改革法案~最大の焦点“高プロ制度”の行方~」で竹中平蔵パソナ会長が経団連と安倍政権の代弁者として奮闘していました。(※竹中平蔵パソナ会長は、現在の安倍政権において、産業競争力会議議員と国家戦略特区会議有識者議員もつとめています)

 竹中平蔵パソナ会長は、番組内で「高度プロフェッショナル制度を入れないと日本経済の明日はない」、「高度プロフェッショナル制度を適用する人が1%ではなくて、もっともっと増えていかないと日本経済は強くなっていかない」と明言しました。

 この竹中平蔵パソナ会長の発言は、経団連が十数年来主張してきたことと全く同じです。経団連は今から13年前の2005年6月21日に「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表しています。(※ホワイトカラーエグゼンプションというのは今の高度プロフェッショナル制度のことです)

 この提言の中で経団連は、「賃金要件」を「当該年における年収の額が400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること。」と明記しています。

 また、2015年4月6日、経団連の榊原定征会長は記者会見で、高度プロフェッショナル制度は「年収要件の緩和や職種を広げる形にしないといけない」と述べ、対象拡大を求めています。

 そして、この経団連・榊原会長の発言について、2015年4月20日、当時厚生労働大臣だった塩崎恭久氏が、日本経済研究センターの会員会社・社長約100人が集まった朝食会において、「経団連が早速1,075万円を下げるんだと言ったもんだから、まああれでまた質問がむちゃくちゃきましたよ」、「それはちょっとぐっと我慢していただいてですね、まあとりあえず通すことだといって、合意をしてくれると大変ありがたい」、「小さく産んで大きく育てる」ことが必要だと発言しているのです。

 経団連も安倍政権も高度プロフェッショナル制度を「小さく産んで大きく育てる」ことをずっと狙ってきていて、それを昨夜、竹中平蔵パソナ会長があらためて代弁したということです。とてもわかりやすい話です。

 それから、竹中平蔵パソナ会長は昨夜の番組内で、「『全ての規制をはずす』という議論が横行していますけど、企業にすごい厳しい規制が課される。これだけ休みを取りなさいと休みを強制する」、「労働時間で規制するのではなく、休日をしっかり取るという規制をし、義務付ける」、「年間104日、4週間で4日以上の休日は企業にとって非常に厳しい規制だ」などと述べました。

 そして、高度プロフェッショナル制度に反対する立場から、全国過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さんの「高度プロフェッショナル制度は、定額働かせ放題で過労死になっても使用者が責任も取らないひどい状態になってしまう。これ以上、過労死を増やさないでください。死人を増やさないでください。悲しい遺族をつくらないでください」という訴えや、上西充子法政大学教授の「高度プロフェッショナル制度で『柔軟な働き方ができる』というのは間違ったうたい文句です。労働時間の規制というのは使用者を縛るものなので、それをはずしてしまう高度プロフェッショナル制度は、使用者側が『柔軟な働かせ方ができる』ことになり、労働者からすると労働時間が自由になるわけでは全くなくて、使用者からの『この時間働け』という命令だけが残って、労働者は『柔軟な働き方ができず』、むしろ裁量労働制よりも厳しい働き方を強いられることになります」「事後的なチェックをすればいいという話がありますが、これは命と健康の問題で、労働時間の規制をはずせば歯止めがなくなります。高度プロフェッショナル制度で労働者から『これは違法だ』と言えなくなるし、労働基準監督署も入れなくなります」との指摘、棗一郎弁護士の「健康確保措置は極めて不十分で労働者の健康を守れない。4週で4日休ませるということだが、固めて4日休ませれば、後は24時間24日働けというのも合法になり、ブラック企業も利用しかねません。労働者に裁量はなく自分で時間を決めて帰れる権限も付与されていない。どうやって労働者の健康を守れるのか? この高度プロフェッショナル制度は根本的に間違っている」などの指摘がありました。

 高度プロフェッショナル制度法案で「1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること」としているのですが、これでは4週間の最初にまとめて4日の休日を与えれば、残りの24日間は休日も休憩も与えずに1日24時間働かせることが可能です。さらに続く4週間について最後にまとめて4日の休日を与えれば48日間連続して1日24時間働かせることが可能になり、連続1,152時間の労働を強制することも合法になります。



 「こんな極端な働かせ方をする企業はない」などと指摘してくる方がいらっしゃいますが、根本的な問題は「こんな極端な働かせ方が合法になってしまう高度プロフェッショナル制度など存在してはいけない」ということです。そして、「365日24時間、死ぬまで働け」とするワタミ渡邉美樹氏の存在からわかる高プロ地獄絵図の現実性という以前の記事で紹介した通り、「365日24時間、死ぬまで働け」とするブラック企業が今でも存在するのにこれが合法になってしまったら今よりもっとブラック企業が増えることは明らかでしょう。

 高度プロフェッショナル制度で「24時間、死ぬまで働け」が現実のものとなろうとするなか、昨夜の番組内で竹中平蔵パソナ会長は、「あれをやっても不安、これをやっても不安では、日本が沈んでしまう」などと述べました。「高度プロフェッショナル制度には過労死の危険がある」と声を上げること自体をやみくもに不安をあおっているかのように批判するもので、過労死の問題などはなから軽視していることがよくわかる発言だと思いました。そして、高度プロフェッショナル制度の導入によって「過労死も労働者の自己責任」とされる前から、過労死の問題で声をあげること自体を封殺するような竹中平蔵パソナ会長の態度も今回の高度プロフェッショナル制度の本質をあらわすものだと思いました。

 今回の「働き方改革一括法案」は、安倍首相が「1年余り前、入社1年目の女性が、長時間労働による過酷な状況の中、自ら命を絶ちました。御冥福を改めてお祈りするとともに、二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で、長時間労働の是正に取り組みます。」(2017年1月20日施政方針演説)として、過労死をなくすために必要だと言っていました。しかし、昨夜の竹中平蔵パソナ会長の発言で、過労死をなくすどころか過労死を増やすことについても問題視すらせず、高度プロフェッショナル制度を「小さく産んで大きく育てる」ために「働き方改革一括法案」を成立させて、高度プロフェッショナル制度で働く労働者をもっともっと増やしていくことに狙いがあることが、あらためてよくわかりました。

 竹中平蔵パソナ会長は、小渕内閣の経済戦略会議委員のとき労働者派遣の原則自由化を提唱し、小泉内閣の経済財政担当相だった2003年には製造業にまで派遣対象業種を拡大した改正派遣法を成立させ、パソナはじめ人材派遣業界の収益を拡大させました。こうした雇用破壊は、2008年12月31日から2009年1月5日まで年越し派遣村が取り組まれることなどによって、貧困と格差の拡大が可視化されることにも至りました。それにもかかわらず、竹中平蔵パソナ会長は、2012年11月30日に東洋経済ONLINEで、若者には「貧しくなる自由がある」、「貧しさをエンジョイしたらいい」などと言ってのけています。今回の高度プロフェッショナル制度を入れて拡大しないと日本が沈むなどと言う竹中平蔵パソナ会長は、労働者に対して「高度プロフェッショナル制度で過労死になる自由もあるし、高度プロフェッショナル制度がイヤなら貧しくなる自由もある」と滅茶苦茶なことを言っているようなものだと私は思います。


参考
◆派遣労働者の生き血吸う竹中平蔵氏の「朝まで生テレビ!」発言に垣間見る本音=トリクルダウン(一種の所得再分配効果)は「人のもの強奪する」「集団的たかり」だからあり得ない、格差社会で「貧しさエンジョイしたらいい」
 

◆「世界で一番派遣会社パソナが活躍しやすい国」へ竹中平蔵氏肝いり派遣法改悪-若者は「貧しさをエンジョイしたらいい」(竹中氏)、皆フリーターにし「オーディション型雇用」で「人材派遣が日本の基幹産業に」(南部パソナ代表)
 

◆派遣労働者から強奪し「改革利権」「究極の天下り」「学商の独り勝ち」の竹中平蔵パソナ会長言説=辛い思いする人、痛みこうむる人がいる格差社会こそ経済にプラス、社会保障は集団的なたかり
 

(井上伸)