政府自ら憲法違反・不当労働行為に手を染めた国家公務員給与削減法案の閣議決定 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

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 上の表は、先進主要国で近年におこなわれた公務員労働者のストライキの事例です。「日本の常識は世界の非常識」という言葉は、日本の公務員労働者の基本的人権=労働基本権の侵害をこの62年間続けていることにもあてはまります。日本以外の先進主要国の公務員労働者には、労働基本権がきちんと保障されていて、民間労働者と同様にストライキを打つのが当たり前なのです。


 そもそも公務員労働者も民間労働者と同様、ストライキをすることも当然であることは、日本の憲法に明記されています。憲法28条には、「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とあります。


 憲法28条にある「勤労者の団結する権利」というのは、労働組合を結成する権利である「団結権」のことです。「勤労者の団体交渉をする権利」というのは、労働者が使用者と交渉する権利である「団体交渉権」のことです。そして、「勤労者の団体行動をする権利」というのは「団体行動権」で、具体的には、「争議権(ストライキ権)」を含むさまざまな労働組合の活動をする権利があるということです。


 この「団結権」「団体交渉権」「争議権」の3つを「労働基本権」(「労働三権」)と呼んでいます。この労働者の「労働基本権」を、使用者が侵害すると「不当労働行為」(労働組合法7条)という法律違反となります。


 労働基準法の2条1項には、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と明記されています。また、労働契約法の3条1項にも「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする」と明記されています。


 企業(公務員労働者の場合は国と自治体)の出す労働条件に従わないのなら企業を辞めるしかないと思っている人がいるかも知れません。しかし法律では、労働条件は企業が一方的に決めるものではなく、「労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」のです。この「労働条件対等決定の原則」は「労働法」の基本です。


 労働者の「団体交渉権」に対して、使用者には団体交渉に応じる「義務」があり、使用者が団体交渉の申し入れを拒否することは違法行為となります。労働者の「団体交渉権」に対して、使用者には「誠実交渉義務」があるのです。これは、使用者は、ただ団体交渉のテーブルにつけばいいというのではなく、労働条件の合意をめざして誠意を持って交渉する義務があるということです。


 裁判例では、「使用者は、自己の主張を相手側が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、合意達成の可能性を模索する義務がある」(「カール・ツァイス事件」、東京地裁、1989年9月22日)とされています。


 使用者が誠意を持って交渉にあたったとは認められない場合は団交拒否とみなされ、不当労働行為となるのです。


 誠意のある団体交渉かどうかは、まずは交渉し決定する権限を持っている者の出席が前提となり、さらに使用者が自らの主張の説明に終始し、労働組合の主張や対案に耳を傾けないケース、回答の根拠についての説明や資料の提示をおこなわないケースなども不誠実団交となります。


 たとえば、賃金切り下げが団体交渉の議題になっている場合、使用者は少なくとも、①賃金切り下げをしなければならない経営上の必要性の説明、②その必要性を裏付ける経営資料の開示、③経過措置、代償措置を設ける、などを示さなければなりません。


 昨日、政府が閣議決定した国家公務員給与削減法案 片山総務大臣は、国公労連との交渉の席で、労働基本権制約下の人事院勧告制度のもと「今回の交渉は国家公務員の労組に限定して、交渉による(給与)決定をいわば先取りする形でやっているもの」と発言しました。 片山総務大臣自らが主張する団体交渉による給与決定を先取りしているというならば、政府側には「誠実交渉義務」があります。それにもかかわらず、国の財政運営上の賃下げの根拠を示す資料や、賃下げが日本の財政・経済・景気にどう波及するかを示す資料など、賃下げの必要性を裏付ける資料の開示も明確な根拠を示すこともなく、6月2日に「議論を続けても平行線の可能性が強い」と国公労連との交渉を一方的に打ち切り、一部労働組合との合意を根拠に閣議決定を強行しました。


 このことは、明らかに政府による一方的な「団交拒否」であり、「不誠実団交」であり、「不当労働行為」です。


 この60年以上に渡って人事院勧告制度は、公務員労働者の基本的人権である労働基本権を侵害し続けてきました。ところが、日本政府は一貫して人事院勧告制度が労働基本権の代償措置であるから労働基本権侵害にはあたらないと主張し続けてきたわけです。政府自ら主張してきた労働基本権の代償措置である人事院勧告制度さえ踏みにじり、加えて「先取りする」とした「団体交渉権」も踏みにじり、「団交拒否」「不誠実団交」「不当労働行為」という違法行為を政府がやってのけたのです。この「不当労働行為」の前日には、菅首相が「退陣表明」をおこないました。首相が「退陣表明」した「死に体内閣」によって、憲法違反の不当労働行為というブラックな政策が閣議決定されるというとんでもない状況が生み出されていますが、国公一般は国公労連に結集して、「たたかいの舞台は国会段階に移ったが、引き続きいっそう広範な労働者・国民のみなさんと手を携え、すべての労働者の賃金底上げ、雇用の安定確保などをめざす課題と一体で、賃金引き下げ法案の廃案と公務員制度改革関連法案の抜本修正を求め、全力で奮闘」 したいと思います。


 最後に、朝日新聞のWEBRONZA で、森永卓郎さんと榊原英資さんがこの問題について論じています。それぞれ一部分ですが以下紹介しておきます。


 ▼公務員給与削減は正しいか(森永卓郎氏、朝日新聞WEBRONZA、2011年5月30日
  「政府自ら脱法行為をするに等しい」


 私は今回の国家公務員人件費削減は2つの点で、大きな問題があると思う。


 1つは、いまのタイミングでよいのかということだ。


 東日本大震災で、日本経済は大きく傷ついた。3月の実質家計消費は、前年同月比で8.5%も減少した。その後も、緊縮ムードは続いており、再びデフレが悪化する可能性が高まっている。こんなときに、給与削減をしたら、ますますひどいデフレになってしまうだろう。また、政府は今回の給与引き下げを地方公務員には適用しないと言っているが、すでに追随の意向を示している自治体もあり、今後引き下げが広がっていく可能性もある。さらに、震災で経営が悪化した民間企業にも、賃金引き下げの絶好の口実を与えてしまうだろう。


 もう1つの問題は、今回の給与引き下げには法的根拠がないということだ。


 公務員に労働協約締結権を与え、労使交渉で給与を決められるようにする公務員制度改革法案は、6月3日に国会に提出される。ねじれ国会のなかで、法案が成立する見通しは立っていない。もちろん、政府は給与削減のための特別法案を提出する予定だが、成立もしていない公務員制度改革法案の中身を先食いして、給与削減を決めてしまうというのは、政府自ら脱法行為をするに等しい。



 ▼公務員給与削減のナンセンス(榊原英資氏、朝日新聞WEBRONZA、2011年5月28日)


 菅政権は復興財源捻出のために今後3年間にわたっての国家公務員給与の削減の方針を決め、連合系組合はこれに合意していると伝えられています。しかしこの提案は二重の意味でナンセンスだと筆者には思われます。


 まず日本の国家公務員数は人口千人あたり12.6人(国防・公社公団、政府系企業を含む)とイギリスやフランスの4分の1。連邦国家であるアメリカの9.9人より若干多いですが、ドイツの22.3人のほぼ半分です。それゆえ公務員の人件費も対GDP比でOECD諸国中、最低の6%とアメリカやイギリスに比べて2分の1から3分の1になっています。


 このうえ公務員の人件費を削減する必要が本当にあるのでしょうか。公務員の数だけでなく、財政の規模でも日本はGDPの37%とデータのあるOECD諸国28カ国のうち24番目、さらに人口5千万人以上の先進国では最も小さな政府を維持しています。


 また経済復興という観点からすれば、財源は国債の発行によって捻出すべきです。給与削減や増税は他方で消費削減につながる可能性が高いので、日本全体としての消費やGDPは増加しないことになってしまいます。


 確かに被災地の復興になるでしょうが、他の地域では経済の縮小が起こり、マクロでの効果は無くなってしまうのです。こういうときに必要なのはケインジアン・ポリシー。公債でファイナンスして歳出の増大によって、GDP全体の押し上げを図るのが常識です。1930年代の世界恐慌のとき、ケインズが主張したのがまさにこのことです。


 これはケインズ以来のマクロ経済学の常識だということができるのでしょう。どうも現在の菅政権には経済をマクロで見て、これを運営するという視点が欠けているように思えます。


(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)