※「連合通信・隔日版」(2010年10月16日付No.8382)からの転載です。「〈連載企画〉消費税引き上げはなぜダメか」の2回目です。連載1回目は、みどりさんがブログ「労働組合ってなにするところ?」 で紹介しています。(※私の方は論評抜きのまるまる転載で申し訳ないのですが、連合通信社の方から「すくらむブログに、連合通信のどの記事が転載されるか楽しみにしていますよ」と先日言われたので、調子に乗って転載させていただきます!? byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)
〈連載企画〉消費税引き上げはなぜダメか(2)
失業や自殺者が増加 ワーキングプアの温床に
10月初旬に都内で開かれた消費税をテーマにしたシンポジウムの席で、ジャーナリストの斎藤貴男さんはこう予言した。
「消費税を増税すれば、失業率は簡単に2ケタに乗る。年間の自殺者数も軽く5万人を超えるでしょう」
総務省の労働力調査によると、今年8月の完全失業率は5.1%。警察庁の統計では2009年の自殺者は12年連続で3万人を上回った。もし予言通りになれば、日本社会は由々しき事態に立ち入ることになる。予言の根底には、今や労働者の3割を超える非正規社員の増加に、消費税が深く関与していることがある。その構造を説明しよう。
●給料が物品費になる
企業が国に消費税を納める際には「仕入税額控除」が使われる。商品やサービスで得た売上高に消費税を単純に課税すると、仕入れや事務作業の過程で支払った消費税との「二重課税」になるケースを防ぐために設けられている(▼下図参照)。
機械や事務用品の購入といった物品費など多くの経費は控除対象だが、直接雇用している社員への給料の支払い分は除かれている。なぜなら消費税の課税対象は「事業者の事業取引」なので、個人の手元に入る給料は当てはまらないとの考えだ。何としても経費を削りたい企業にとっては悪い材料だ。
そこで、企業が編み出した方法が労働力の外注化、すなわち社員の非正規化だった。派遣社員の給料は人材会社を経由して渡るので「事業取引」とみなされ、晴れて仕入税額控除の対象に入る。派遣の人件費を「物品費」扱いにしたうえで、派遣を使えば使うほどコストを削減できるという仕組みだ。実際に、非正規の労働者数は消費税の導入直前だった89年2月の817万人から着実に増加。今年6月には1,743万人に達している。
●労働市場は荒廃へ
本企画の1回目では、消費税引き上げで中小零細、下請け業者の廃業や倒産が増える恐れを指摘した。仕事を失った事業者やそこで働いていた従業員は新たな職を求めていく。こうした働き手が多く流れ込む結果、労働市場は完全に企業の買い手市場となり、不利な条件で働かざるを得ない人が増えるだろう。ワーキングプアも多発するに違いない。
08年のリーマンショック以降、大量の派遣切りが起きたが、非正規社員は不況や業績悪化を理由に職を奪われるリスクが必ず付きまとう。失業は人間の心までも荒廃させる。将来を悲観した人が相次いで自殺に追い込まれかねない。
菅首相は9月の民主党代表選の演説で「失業は収入を失うだけでなく社会からも孤立する」と語ったが、自ら提案する消費税引き上げが悲しい結末を生む危険を認識しているのだろうか。