希望のもてる社会へ -全員参加型のワーク・ライフ・ウェルフェア・バランスが必要 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 きょうは「反貧困世直し大集会2010 - いいかげん変えようよ!希望のもてる社会へ」 が開催されます。ネットでの生中継 もあります。ツイッターのハッシュタグは、「 #hanhinkontv 」 です。すくらむブログでも連帯エントリーということで、9月30日にNPO法人アジア太平洋資料センターの「PARC自由学校」で行われた反貧困ネットワーク事務局長・湯浅誠さんの講義の一部を要旨で紹介します。


 ダボス会議で知られ、世界の大企業が参加している世界経済フォーラム(本部ジュネーブ)が10月12日、女性の社会進出ランキング「男女格差報告(2010年版)」を発表しましたが、日本は134カ国中94位で、相変わらず先進国の中で最低です。湯浅さんが講義の中で指摘しているように、「傘」の外に追いやられている女性の問題をはじめ、「全員参加型」の「日本社会のかたち」に変えていかなければ「日本社会はもちません」。(※以下、9月30日に行われた湯浅さんの講義要旨です。by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


         ▼「自分は孤独だ」と感じる子どもの割合

すくらむ-孤独


 上のグラフは、ユニセフ(国際児童基金)が2007年にOECD加盟国を対象に実施した子どもの「幸福度」に関する調査結果です。その中の「自分は孤独だと感じるか」という質問(対象は15歳)に「はい」と答えた割合は、日本が29.8%で、回答のあった24カ国中トップで、その割合は飛び抜けて多く、次に多いアイスランドでも10.3%と日本の3分の1ほどです。


 子どもたちを孤独へと追いやる背景には、日本の異常な長時間労働や子どもの貧困の深刻化、競争的な教育環境などがあると思いますが、世界で飛び抜けて「自分は孤独だ」と子どもたちに感じさせてしまう歪んだ「日本社会のかたち」を変えていかないと、日本社会はもう持たなくなってきているのではないかと私は感じています。


 いま日本が「無縁社会化」しているとの指摘もありますが、社会というのは地縁や血縁とは違うつながりのレベルのものと考えると、私はもともと社会は「無縁社会」なのではないかと思うのです。


 いま問われているのは社会的なレベルでつながっていく「日本社会のかたち」の有り様だと思います。


 私は、「日本社会のかたち」をこんなふうにイメージできると考えています。それは、日本の国民を雨から守っていた「3つの傘」がしぼんできていて、雨に濡れる人が増え続けているというイメージになります。


 「3つの傘」というのは、「国の傘」、「企業の傘」、「正社員の傘」です。この「3つの傘」が重なるように多くの人を雨に濡れないようにしていたのが従来の日本社会だったのではないでしょうか。


 たとえば、「国の傘」と「企業の傘」との関係というのは、高度経済成長期がとりわけそうですが、世界に追いつけ追い越せという掛け声の中で、いわゆる護送船団方式などと呼ばれる国による産業育成支援策が行われ、地方に対しては大型公共事業投資にかなり分厚いお金をさいてきました。一橋大学教授の渡辺治さんや都留文科大学教授の後藤道夫さんなどは、そうした日本を「開発主義国家」だったと規定しています。福祉、社会保障という傘で国民をきちんと雨に濡れないようにするのではなく、大型公共事業投資の「開発主義」が傘になっていたわけです。


 「国の傘」に守られている「企業の傘」の下には、下請け企業や孫請け企業など系列会社があると同時に、そこで働く正社員の人たちがいました。そして、この「企業の傘」と「正社員の傘」の関係もかなり特殊で、企業は正社員の人たちにヨーロッパなどの職務給とは違う生活給を払います。子育ての費用や教育費用、住宅費用、社会保障などが、日本ではヨーロッパなどと違い多くが労働者の自己負担・自己責任にされていましたから、家族が生活していくそうした出費に耐えられる賃金=生活給でないと子どもを育てることができないので日本は生活給になっていました。


 ですから、子どもの育ちにあわせて年功型で上がっていくことになります。この年功型賃金のカーブは、子育てや教育費用などの出費と見事に同じカーブを描いています。


 企業側は男性ひとりだけでなく家族が暮らせる生活給を払ってやっているのだから1.5人分とか2人分働いて当然だとばかり超長時間労働やどんな異動などでも労働者にのませるということでやってきました。正社員は主に男性でしたから、この3番目の「正社員の傘」は男性正社員が主に作っていました。


 この「男性正社員の傘」の下に、妻や子どもがいるという日本型雇用モデルに基づく日本型社会システムがあったのです。


 非正規労働の問題から見ると、妻による労働は主に主婦パートで、子どもによる労働は主にアルバイト労働とされ、これが異常な低賃金と不安定雇用におさえられていたのは、ようするに「男性正社員の傘」「男性正社員の生活給」を前提とした家計補助に過ぎないから、低賃金・不安定雇用でもいいとされてしまっていたからです。つまり、主な稼ぎ手は男性正社員として存在しているのだから、もし主婦パートや子どものアルバイトが低賃金でも仕事を失ったとしても生活は大丈夫というふうにされてしまっていたのです。


 女性が低賃金におさえられてきたのは、女性は男性と結婚すればいい、「男性正社員の傘」の下にいればいいということで、ジェンダー的に役割分担させられてしまっていたのです。それは、「男性正社員の傘」の下に女性が入った方が税金の面などでも有利になる仕組みの中で、多くの女性は「男性正社員の傘」の中に入ることをうながされました。規範的だったのです。規範的だったというのは、いまその「傘」の中からはずれている女性もゆくゆくは「傘」の中に入っていくものだとイメージさせられていたということです。そうした「傘」からはずされていた母子家庭や日雇い労働者たちは、元祖ワーキングプア状態にさらされていたわけで、私はそうした昔の日本型雇用モデルに戻ればいいとか、日本型雇用モデルがバラ色だったと言っているわけではありません。問題は、子育てをして暮らしていく支出カーブが、男性正社員の年功型賃金カーブを前提にしていることです。ヨーロッパのように住居費や教育費、社会保障費を自己負担・自己責任にしない社会に変えていかないのに、男性正社員の年功型賃金だけが切り下げられたり、「男性正社員の傘」の外に追いやられる人たちが増えていっている現状では、さまざまな階層の貧困が増える一方で、問題はますます深刻化してしまうということです。


 ところが、90年代から「3つの傘」がしぼんでいきます。まず、国が護送船団方式はよくないとして「国の傘」をしぼめていきます。そうすると、「企業の傘」も「男性正社員の傘」もしぼんでいきます。そして、派遣労働など非正規労働が大きく広がったり、正社員でも非正規労働と同じような低賃金・不安定雇用に置かれる周辺的正社員が広がるなど、「男性正社員の傘」がしぼんできました。


 「企業の傘」「男性正社員の傘」がしぼんできたというのを数字で見ると、日本の給与所得者は1999年の5,252万人から2009年の5,388万人へ136万人増えていますが、給与所得総額は1999年217兆円、2009年192兆円と25兆円も減少し税収も2兆円減っています。年間を通じて働いたのに年収が200万円以下の労働者=ワーキングプアは、1,099万人(24.5%)で過去最高を記録しているのです。


 1965年から1970年までのいざなぎ景気のとき、大企業の実質企業収益は5年間で約2.3倍も増え、中小企業も3.5倍も増えています。直近の景気拡大期の2002年から2007年には、大企業約2.3倍に対し、中小企業約1.5倍増えています。全体の実質企業収益は、いざなぎ景気のとき約2.8倍に対して、2002年から2007年は約1.7倍増えています。ところが、雇用者所得は、いざなぎ景気のとき約1.8倍増えているのですが、2002年から2007年は1.0倍で、つまり雇用者所得は増えなかったのです。企業収益は増えているのだけど、国民の暮らしを守るという意味での「企業の傘」はしぼんできたのです。


 こうして90年代以降、「3つの傘」がしぼんで傘の外に追い出され雨に濡れる人がどんどん増えていきます。「3つの傘」の外にいた母子家庭や日雇い労働者に加えて、若者やシングルの女性、自立型のフルタイム非正規労働者、そして周辺的正社員など、傘の外で雨に濡れる人が多様化していきます。私は傘の外で濡れている人たちの相談活動などをやってきましたので、90年代以降、傘の外に追い出され濡れる人が多様化して増えてきたことを実感しています。


 この「3つの傘」がしぼむなか、日本社会でもっとも困難を抱え込まされているのが「家族」ではないかと感じています。


 いま日本の標準世帯は、夫婦と子どもの世帯を指しています。しかし、夫婦と子どもの世帯の割合は、1985年に40.0%でしたが、2005年には29.9%と3割を切っています。逆に単身世帯は1985年に20.8%でしたが、2005年に29.5%と急増しています。これが、2030年には夫婦と子どもの世帯は21.9%になり、単身世帯が37.4%と1985年の比率が完全に逆転して、日本の標準世帯は単身世帯になります。そうすると、これまでの「男性正社員の傘」は通用しなくなります。


 現在の日本でも、夫婦と子どもの世帯29.9%のうちの4割はもう子どもは成人していて、夫婦と成人未満の子どもの世帯は今の日本でも18%しかいない少数派になっているのです。


 この間、クローズアップされた高齢者の不明問題は、「3つの傘」がしぼんで、家族に福祉を依存する日本社会が限界に来ていることが背景としてあり、家族が悲鳴をあげていることを示していると思うのです。


 何よりも「経済成長」が大事と繰り返す方たちがいますが、「経済成長」というのは、国民一人ひとりの能力が開花されたことの結果として生まれるわけで、若者、女性、障害者のみなさんなどいろんな人の能力を開花できるようにしなければ「経済成長」もままならないと私は思います。OECDの事務総長も日本は女性の能力をいかさなければ経済成長はむずかしいと指摘しています。日本社会は女性や障害者などが社会参加しづらいようなバリアがたくさんあります。その人たちがかわいそうというようなことではなくて、その人たちが日本社会に参加できるようにしていかないと経済成長もままならない。一人ひとりが力を発揮できる「全員参加型社会」に変えていかないと、日本社会はもたないのではないかと思っています。


 「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、日本にはきちんとした社会保障=「ウェルフェア」が無いことが問題なのですから、「ワーク・ライフ・ウェルフェア・バランス」が必要なのではないかと思っています。「仕事」と「家庭」と「福祉」のバランスをきちんと取りながら「全員参加型社会」に変えていかないと日本社会はもたないのではないかと思っています。


 「3つの傘」がしぼみ、弱まる中で、傘の外で雨に濡れる人が増えていく、そこで、私は内閣府参与として失業者などの生活再建をマンツーマンで支援するパーソナル・サポート・サービス、人的ワンストップ・サービスのモデル事業を今秋から動かしていくことになっています。就労支援と福祉政策とを組み合わせた「寄り添い型」支援の取り組みとなります。「全員参加型社会」への取り組みのひとつとして進めていければと考えています。