「生活保護の母子家庭は怠け者」 -舛添厚労大臣発言への抗議文、撤回と謝罪を求める | すくらむ

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 ※生活保護問題対策全国会議等の舛添要一厚生労働大臣への抗議文を紹介します。


厚生労働大臣
舛添要一殿


   抗議文


      2009年8月27日
      しんぐるまざあず・ふぉーらむ    理  事 赤石千衣子
      しんぐずまざあず・ふぉーらむ関西  事務局長 中野 冬美
      しんぐずまざあず・ふぉーらむ・福島 理 事 長 遠野 馨
      しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄  代  表 秋吉 晴子
      生活保護問題対策全国会議      代表幹事 尾藤 廣喜
      生存権裁判全国弁護団        団  長 竹下 義樹
      全国生活保護裁判連絡会       共同代表 藤原 精吾
      反貧困ネットワーク         代  表 宇都宮健児
      女性と貧困ネットワーク      呼びかけ人 鈴木 純子


 私たちは、日頃の活動においてひとり親世帯の生活支援に関わっている立場から、生活保護を受けるひとり親世帯の生存権保障のために母子加算が必要不可欠であると痛感し、母子加算の復活を強く求めているものです。


 報道によれば、貴殿は、8月25日の閣議後の記者会見において、同月18日に神奈川県内で行った街頭演説における「働く能力と機会があるのに怠けている人に、貴重な税金を使うつもりはない」という趣旨の発言について弁明し、「怠け者発言は生活保護の母子家庭(への母子加算)について言ったつもりだ」という趣旨の発言をしました。この発言は、貴殿がわが国の厚生労働行政を統括する立場にありながら、母子世帯の実態と現行の母子家庭施策をまったく理解していないことを露呈するものと言わざるを得ません。貴殿の軽率極まりない発言によって、生活保護を受けている母子世帯に対する誤ったイメージが市民に広がり、生活保護を受けている母子が謂われのない中傷を浴びせられ、日常生活において萎縮することが懸念されます。また、「怠け者」のレッテルを避けるため、生活に困窮した母子世帯が生活保護の申請を躊躇し、その結果、母子が健康を損なうおそれさえあります。私たちは、貴殿の上記発言に対して憤りを禁じ得ず、誤った事実認識や偏見に基づく貴殿の上記発言の撤回と謝罪を強く求めるものです。


 母子世帯が決して「怠け者」ではないことをご理解頂くため、母子世帯の生活実態について4点に絞って指摘させて頂きます。是非、ご一読頂き、貴殿の誤解や偏見を正して母子世帯の生活支援にご尽力ください。


                    記


 1 わが国では母子世帯の84.5%は働いています。ただし、子どもを一人で育てながら正規職員として働く環境が整えられていないため、非正規として就労せざるを得ない人が数多くいます。均等待遇が確立されていない日本の雇用慣行のもと、母子世帯の母親が非正規労働でえられる年間の就労収入は平均で200万円にすぎません。非正規労働の仕事をかけもちして、ダブルワーク、トリプルワークで必死に働いている人たちもたくさんいます。生活保護を受けている母子世帯についても、その約半数は就労しており、就労世帯の約8割が月額3万円以上の収入を得ています。貴殿が繰り返されている「怠け者」発言は、就業率向上を意図してのものと思われますが、貴殿の所管する労働政策研究・研修機構が2003年に発表した『母子世帯の母への就業支援に関する研究』では、「母子世帯の母への就業支援は就業率を上げることではなく、生計を維持するに足るだけの良好な仕事につけるよう援助していくこと」と提言しています。つまり、安定雇用の拡大、均等待遇の実現、職業訓練の充実、保育制度の拡充などが必要なのです。言うまでもなく、これらは厚生労働大臣がなすべくして果たされないままとなっている課題です。


 2 家事や育児をしながら、ダブルワーク、トリプルワークで働き続けた母親のなかには、心身ともに疲弊していき、うつ病などの精神疾患を発症し、働きたくても働けなくなる方たちがたくさんいます。生活保護制度はこのような母子世帯の生活をかろうじて支えています。また、生活保護を受ける母子世帯は、親や親族から子育ての支援を得られない状況にある方が多く、子育てと就労を両立することが一層困難となっています。このように、生活保護を受けている母子世帯の約4割は、働きすぎやDV被害などによって身体を壊して働くことができなくなっていたり、本来行政が対応すべき福祉施策の不備によって、傷病等をもちながらも制度の谷間におかれている方であったり、障害や不登校などの事情を抱えた子どもの育児や高齢の親の介護などで働くことができない状況におかれていたりします。


 3 本年3月末で全廃された生活保護の母子加算は、就労したとしても生活を維持できない母子世帯が、子どもとの生活・子どもの育ちを支えるための特別な支出を支えるためのものでした。母子加算廃止の代替措置として、厚生労働省は07年度から就労促進費制度を導入しましたが、それでは病気や障害ゆえに就労や求職活動ができない母子世帯はカバーされず、結果としてこれらの世帯については何らの代替措置もなく、生活困難を一層深めています。就労促進支援のための制度は重要ですが、やはり母子加算は必要であり、その復活は急務です。


 4 東京大学の大学経営・政策研究センターが今年7月に発表した調査結果によれば、年収200万円未満の家庭の高校生の4年制大学進学率は3割に満たず、1200万円以上の家庭では倍以上の6割強に達しています。また、大阪府堺市で行われた実態調査によれば、生活保護を受ける母子世帯の4割は、世帯主が育った家庭も生活保護を受けていました。いったん貧困に陥ってしまうとそこから抜け出すことが困難な社会構造が存在し、世代を超えて貧困が連鎖している実態が明らかとなっています。生活保護を受けながら育った女性たちは、二重三重のハンデを背負ったまま社会に出て、非正規の低賃金労働を強いられ、生活保護を受けなければ生活していけない状況に追い込まれているのです。


 最後に、以上に示した母子世帯の実態の一部については、貴殿が最高責任者である厚生労働省発行にかかる2009年度版「厚生労働白書」に記述されているということを指摘しておきたいと思います。同白書は「障害者、母子家庭の母等社会的支援を必要とする人々がいる。…また母子家庭については、母親が一人で子どもを養育しつつ生活を成り立たせなければならず、就業が厳しい場合や制限される場合がある。このため、子どもの健全な成長の観点も踏まえつつ、生活面の支援や経済的な支援を行ないながら、就業支援を行なうことで総合的に自立を支援することが重要である」(「厚生労働白書」第1部 第1章 第1節)としています。母子家庭を取り巻く状況については、母子1世帯当たりの平均所得金額が243万2千円(うち200万2千円が稼働所得)にとどまり、全世帯の556万2千円と比べ低い水準であることを指摘しており、さらに、母子家庭の母の84.5%が働いており、ハローワークが受けた新規求職者の受付け件数は2007年度の186,569件から2008年度は217,237件と16.4%増加しているにもかかわらず、反対に就職率は2007年度39.5%が2008年度34.8%と「大幅に落ち込んでおり、厳しい状況となっている」(同、第1部 第2章 第4節)と指摘しています。


 このような白書の記述は、母子家庭の厳しい経済状況や就労状況を示しており、貴殿のいう「母子家庭は怠け者」という認識とは正反対であると考えられます。そこで、改めてうかがいます。貴殿の認識はこの白書が示した認識と同じなのか、それとも白書の認識を否定するものなのか。そして、8月25日の貴殿の発言はどのような根拠に基づいているのか。これらを、国民の前できちんと説明してください。


                                   以上



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舛添厚労相また暴言 - 派遣村でなく怠け者は生活保護の母子家庭
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