ハイ・シェラ
  監督 : ラオール・ウォルシュ
  製作 : アメリカ

  作年 : 1941年
  出演 : ハンフリー・ボガート / アイダ・ルピノ / アーサー・ケネディ / ジョーン・レスリー

 

 

ラオール・ウォルシュ ハイ・シェラ ハンフリー・ボガート


中年もすんなり男盛りというにはハンフリー・ボガートの横顔には青ざめた凄みが走っていて(何というか尖らせた顔つきでいつも半歩相手ににじり寄って一歩も退かない感じが漲って)そんな彼が一体いつからジョーン・レスリーを見初めたのかそう思い返すと男の心中もなかなかつづら折りに隠れては開け開けては隠れていきます。折角恩赦で出獄しながらまたぞろ危ない仕事に呼び出されるボガートが車を走らせます。砂原を貫く一本道で追い抜きをかけると前のオンボロ車が突然の兎の飛び出しによろけその弾みにボガートの車も道端に押し出されます。しかし車から出てきたのは気さくな老人でボガートも事を荒らげるようなことはしません。このとき老夫婦に挟まれていたのが孫のレスリーですが彼女に気を向けるそぶりはなく... ふたたび出会うのは(まあそんな車にそんな運転ですから)いよいよ事故を起こしてのっぴきならなくなったその現場でしてたまたま居合わせたボガートの目の前を車から降りるレスリーが片足を引きずるのを見たときからボガートの心のなかに(彼の年齢と稼業からすれば)小娘といっていい彼女が大きくなっていきます。生まれながらの不自由ということですがこの娘の足を治すことがボガートの(、柄にもない)朗らかな希望になっていって(まあおわかりのようにこの引きずった足に自分の捻れた半生を見て)すっかりそれをあるべき形に戻した娘と自分の未来をやり直そうと夢描いているのです。脚本はジョン・ヒューストン(にW.R.バーネット)ですが全体のざっくりとした筆致に時折繊細な線を指先でなぞるようなところがあって、主人公にしても単に暗黒街の顔役というだけではありません。刑務所の扉をくぐって8年ぶりのシャバの空気を存分に吸い込む彼は出迎えを置き去りにしてひとり公園の木漏れ日に身を浸すと子供たちの戯れにほくそ笑みます。地元の少年も知らないような釣りの穴場も知っていてそんな陽気(で孤独)な横顔がひと殺しも辞さない名うてのギャングの、もうひとつの顔なのです。しかし未来を手にできるのも今度の仕事でまとまった報酬を手にした上であってそんなヤマのために集められた山小屋には相棒というには年端もいかない若造がふたり、意気がっても端々に物見遊山の気の緩んだところがあって呆れたことに街の女を伴っています。ボガートの横顔を光と影が織りなしながら広がっていくようにやがてこのふたりの女がボガートの前になり後ろになって...  血塗られたギャングと置き忘れた少年時代を夢見る男の未来とは一体彼の前にあるのか後ろにあるのか。ささやかながら脚本の巧さがひらめくのが襲撃する高級ホテルの下見にボガートが訪れて買い求めた煙草に小銭を投げますが売り子に値段を念押しされます。そうです、8年のムショ暮らしで煙草の価格が上がっているそんな小さい感覚のズレにこの10万ドルのヤマの運命が淡く揺らめいています。

 

 

 

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