製作 : 大映
作年 : 1958年
出演 : 川口 浩 / 野添ひとみ / 船越英二 / 永井智雄 / 岸田今日子
ずっと寂しい口笛の歌が流れているそんな吹き流しの夜へと主人公は流されていきます。新宿の膨大なひとの群れが息を潜めるようにして警察に追われるこの、ひとりの青年の足音に耳を澄ませています。街の入り組んだ夜の影から影へ同じ街の、いまでは気の遠くなるような隔たりを主人公は一歩づつ近づいていきます。彼には危険を犯してでも訪ねねばならない相手があるのです。それにしても愛はなぜこんなにも難しいのか、情事はかくも容易いのに。主人公は題名の通り年齢相応に肩で風を切る愚連隊の若者です。無鉄砲ですが何か感覚の鈍麻が(ちょうど疾駆する車の、最初こそその速さに目が眩むようですが速さに倦んでふいに遠くを見たときのあのぼんやりとした感じで)いまの生き方に彼を物憂くうずくまらせています。勝手気ままに見えて自分たちが喰い物にする女たちからはあからさまに人間の屑のように罵られ上に行けば行くほど大きくふんぞり返った人間たちが重しのように自分の背中を土足で踏みつけては仁王立ちしているこんな社会よりもありふれた生活の方にこそ若者の自由がありそうなのものですが... 見ればまた少女がひとり立っています。初めての、東京のひと通りに怯えながら遅れている待ち合わせに秒針よりも早くあっちこっちと見やっていていつものように適当に騙して連れ込んだあとは何とでもするつもりです。事実そうなりながらこの少女は男が敷くそんなお定まりに嵌め込まれいや自分からも嵌まって見せながらずっと射抜くような瞳で主人公のいまを掻き乱します。この瞳に映る自分を思うといまここにいる自分の方が消えていくような何とも心許ない気分にさせられます。少女は主人公を許さない、しかしそんなこと同じ境遇に突き落とされたすべて女がそうだったはずです、男を感謝する女なんていません。少女の憎しみの強さは例え人生を叩きつけられ体をおもちゃにされながらいやされたところで絶対に屈服しない何かを握りしめているそういう強さです。その強さが主人公をたじろがせ自分のこれまでとこれからが輪になって自分の首許を締めつけてきます。愛はなぜこんなにも難しいのか、情事はかくも容易いのに。結局のところ情事にはその前か後しかありません、しかし愛とは常にいまだからです。新宿を埋め尽くす警察官の、だんだんと握り潰されてくるような包囲の網に敢えて踏み入ってでも主人公が辿り着かねばならないのはまさにその、いまなのです。
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『 こけさんの、なま煮えなま焼けなま齧り 』 五十女こけ