快楽
  監督 : マックス・オフュルス
  製作 : フランス

  作年 : 1952年
  出演 : ジャン・ギャバン / ダニエル・ダリュー / マドレーヌ・ルノー

 

 

偏見がひとつなくなればどれだけひとびとの間を春の、野を渡るくすぐったいような風が吹き抜けていくか、パリなんて言葉の響きぐらいしか伝わっていないそんな田舎です。語り手もそんな土地柄では女子寮で寮母をするのも娼館を経営するのも同じことでどちらも尊敬されると言いますが、まあそのぐらいの誇らしさに翻って姉が故郷に帰ってきます、艶やかに着飾った五人の淑女たちとともに。弟の娘が初めての聖体拝領を迎えるそのお祝いに休暇がてら店の女たちと一緒にやってきたわけです。女たちが運んでくる都会の、と言ってもノルマンディーの塩辛い港町ですけど、それでも見違える華やかさに迎えに来た弟もやや気持ちが上ずっております。生活と仕事場が渾然となった田舎の家ですから急のお客さんにいつもの寝場所を引っ繰り返してあっちに誰々、こっちに誰々、台所にも屋根裏部屋にも割り当てられます。町の名士たちが肩書や家庭という、首にがっちりと喰い込んだ堅苦しさの胸襟を開いて女たちと深夜まで踊り明かすそんな毎日ですから神々しいまでに静まり返った田舎の、ずっと見つめられているような夜に女たちは馴染めません。寝られないまま伝わってくるのは小さなすすり泣きでして、女たちのひとりがそのしゃくりあげる声の扉を開けるとこの家の娘がいつもは母に添い寝をするのに今日ははなればなれで夜の怖さに泣いているのです。女は娘を自分の部屋に導いて添い寝をしてやります。偏見がひとつなくなればどれだけ私たちは幸福を分け合うことができるのか、いよいよ村を挙げた聖体拝領式が始まります。村人と女たちが詰めかけたこの小さい教会のなかで何が起こるのか、それは本作に委ねましょう、ただ式のあと説教台に立った神父は静かに<今日が私の人生の最良の日となった>と語り出すでしょう。さてそんなこんなですっかり上機嫌の上にほろ酔いをだいぶ通り越した弟はややはめを外しかけておりまして妻と娘がある身を忘れかけては姉と妻のきついお叱りに酔いも醒めて来た頃です。また昨日来た道を馬車を揺するようにして女たちを送っていきますが、春が終わろうという(そしてほどなく夏へと蹴立てていくまでの、そんな置き去りになったような)昼下がりに辺り一面は満開の花、女たちが摘んだ花はやがてノルマンディーの店を飾るでしょう。女たちを見送る弟は見えない幸福のぬかるみにいつまでも立ち尽くしています。姉、ではなくマダムは二日と店を休みにはしない律儀者です。不意の休業に久方ぶりの寂しい夜に処置なしだった昨夜の名士たちがまるでいままで水中で息を止めていたかのように急いで駆けつけてきます。誰もが予感のようなものに震えているような夜です、マダムが歓びに叫びます、さあさあこんな夜は皆を幸福にしたいわ。

 

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