戦国野郎
  監督 : 岡本喜八

  製作 : 東宝
  作年 : 1963年
  出演 : 加山雄三 / 中谷一郎 / 佐藤 允 / 星 由里子 / 水野久美

 

 

人生一度くらい佐藤允の魅力に何もかも忘れて身を投げ出してみるのも悪くはありません、ぐっと振り絞った目許にひとを喰った口、まっさらな腹の底から短く湧き上がるあの笑い声を聞くだけで人生が何か小さな熱気球にでもなったように手の上を浮かんでいきそうです。一方で命を捨てる覚悟なんてとっくに括ってしまってまるで生きることを嘲笑するように(そして死なんてものを心から軽蔑するように)危険の真っ只中でもあの笑顔、人生が仮に嘘でしかなくても突っ切らなければいけないと教えてくれます。人生に必要なのは目の前に開けた平原をそして海原をともに駆け巡る大切なひとの手をしっかりと握りしめることだと佐藤はウィンクしているのです。ただ何と申しましょうか、飄々とした知恵者の中谷一郎はその辺り胸に畳んでいますけれど、何分若い加山雄三の方は生きることのまっすぐを求めて平原を突っ走っていくでしょう。まあ怒るのも無理はありません、佐藤はひとを掌に踊らせるなんて平気なんですから、だって自分すら自分の掌で踊っているんですからね。ひどい話ではあります、武田勢が先見の明で手に入れた鉄砲300丁をそっくり横取りした挙句、当然武田が血眼になっているなかを長旅の危険を負って自国まで運ばせねばなりませんが誰かには危険だけを負わせてしまおうというんですから、ちょうどモヤ返し(西部劇で髭もじゃの、道端からそのまま引っこ抜いてきたみたいな埃まみれの男が酒場に入るや手揉みをしながらカップを三つ裏返してはなかに銀貨を1枚入れるとカップをあっちにやったりこっちにやったりするあの賭け)のように佐藤は誰も見たことのない300丁の鉄砲をどれかのカップに入れるわけです。それにしても岡本喜八の女性たちはどうしてこうも魅力的なのでしょう。加山にしても中谷にしても一国一城の出世を手のなかで弄んでは(まあいまは石礫を握るぐらいが関の山の身の丈ですが)自分の未来を切り開こうと足掻いている青年、まあ中谷の方はやや甘いは舐めつくしてだんだん境遇が酸っぱくなり始めたそんな青年ですが、彼らの傍らを疾風のように駆け抜けるのが星由里子と水野久美です。ともに刃のような視線であらくれどもを従えつつ乱世を生きることの躍動が女の体をまとってそのまだ澄み切っていない色気が月夜に青く光るようです。加山が、中谷が思わず彼女たちを、一国一城の未来を落っことしながら抱きとめるのも無理からぬところでしょう。さて尾花を揺らす風が吹き渡って来たようです、世は戦国、何はともあれ生き抜いてやれ。
 

 

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