赤と黒 -3ページ目

『天使の囀り』

 『天使の囀り』(貴志祐介)

―あらすじ―
 精神科医である北島早苗のもとに、ブラジルから恋人の高梨が帰ってきた。高梨は新聞社主催のアマゾン調査隊に参加していたが、帰国後の彼は人格が変わったかのような様子を見せ、ついには自殺してしまう。「死」を極端に恐れていたはずの彼がなぜ死を選んだのか。高梨が残した「天使の囀りが聞こえる」とは何か。



 ホラー小説の傑作と言ってもいいでしょう。ホラー小説は因果や動機が曖昧であったり、オチが弱い作品が多い印象ですが、本作は最初から最後まで飽きることなく読み終えてしまいました。SFながらも、妙なリアリティを感じさせてくれる作品です。電車で読んでいて、作品にのめり込んでいて危うく乗り過ごしてしまうところでした。

『九月が永遠に続けば』

 『九月が永遠に続けば』(沼田まほかる)

―あらすじ―
 高校生の一人息子が失踪し、さらには愛人が事故死してしまう。佐知子は息子の行方を捜そうとするが、そこには別れた夫・雄一郎の後妻に関する恐ろしい過去が関係していた。



 序盤~中盤にかけて、「果たしてどうなってしまうのか」という期待感でどんどん読み進めてしまいました。終盤の展開は、私が期待しすぎてしまったのか、どうも今一つ。結局何がどうなったのか、よく分からないままに終わってしまった感がありますね。

『貧乏同心御用帳』

 『貧乏同心御用帳』(柴田錬三郎)

―あらすじ―
 江戸町奉行所の町方同心・大和川喜八郎。独身ではあるものの、彼は孤児を9人も引き取って同居していた。そんな彼の元に、奇妙な事件が舞い込んでくる。謎を追ううちに、秘められた真実が明らかとなる。連作短編4本を収録。



 久しぶりに著者の時代小説を読みました。再読を除けは2015年に読んだ『眠狂四郎独歩行』以来となりますので、約8年の隔たりがあります(現代劇は2019年に読んでいますが)。シバレンと言えば斬り合いのシーンはもちろん、そのストーリー構成が面白く、ついついページを捲ってしまいます。本作でもその面白さは変わらず、人妻が次々と失踪する事件や武田の埋蔵金に関する事件など、実にケレン味のきいた短編ばかりでした。欲を言えば、せっかくの子供たちがあまり活躍しないのが勿体ないところではあります。

『厭な小説』

 『厭な小説』(京極夏彦)
 
―あらすじ―
 子供、老人、扉、先祖、彼女、家、小説。それぞれに厭なものが存在し、主人公たちを追い詰めていく。厭な話7篇を収録した連作短編集。

 

 
 タイトルの通り、確かに厭な話ばかりが収録されています。個々の話はオチが分からず、事実なのか妄想なのか不明な話もありますが、最後には最終話である「厭な小説」に収束されていきます。連作だということに気付かず中盤まではよく分からないままに読み進めてしまいましたが、最終話まで読み終えて完結といったところでしょうか。いい意味で、気持ち悪さを体現している作品です。

『吉田松陰』

 『吉田松陰』(奈良本辰也)
 
―あらすじ―
 幕末の日本。萩にて私塾を開き、これからの日本のあり方について思想を広めた吉田松陰。数多くの門弟を抱えながらも、その最後は罪人として果てる。彼の掲げた思想とは何か。



 幕末の背景も含めて、吉田松陰の生涯を追う1冊です。岩波新書らしく読みやすくコンパクトにまとまっており、吉田松陰について手ごろに読み直しやすい作品とも言えます。半面、吉田松陰について不勉強な場合は、やや読みにくいかもしれません。

『許されようとは思いません』

 『許されようとは思いません』(芦沢央)

 

―あらすじ―
 入社3年目にして、営業成績を急上昇させた主人公。が、それは誤発注による間違った売り上げであった。何とかバレずに済む方法を考える主人公だったが、嘘を隠すための嘘が、異常な事態を呼び込んでいく。「目撃者はいなかった」ほか、全5篇。

 

 

 先日読んだ『贅肉』(小池真理子)のような、ふとしたことで歯車が狂っていく作品が多く収録されています。個人的には「姉のように」はなかなかの面白さでした。「目撃者はいなかった」も面白いですが、偶然が重なりすぎていてフィクション感が強い(没入感に欠ける)ですね。他もそれなりに読み応えがありますが、特筆すべきほどかというと…といったところです。

『贅肉』

 『贅肉』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 失恋をきっかけに、異常なほどの食欲を持ち始めた姉。母が病気で亡くなり、父と継母も事故で他界してしまった今、主人公は1人で姉を支えていくことになるのだが…表題作ほか、全5篇からなる短編集。

 

 

 些細な出来事がきっかけで、歯車が少しずつずれていく…といった内容の短編が多く収録されています。また、人の心の歪みや出来心など負の面が書かれており、どこにでもありそうなリアリティが感じられる作品でした。著者の作品は今までにも数冊読んだことがありますが、やはり読みやすく、内容も面白いものが多い印象ですね。

『深泥丘奇談』

 深泥丘奇談(綾辻行人)

―あらすじ―
 京都市の北部で暮らす主人公。検査のために近所の病院へと訪れた彼だが、彼はそこで不思議な何かと出会う。そして、その後も彼は様々な怪異と出会うことになっていく。

 

 京都を舞台に、主人公が様々な怪異と出会っていく物語です。タイトルに「奇談」とあるように、幻想めいた話として、怪異の正体は分からないままに、曖昧模糊としたままに終わっていきます。これを本書独特の味と見るのか、中途半端と見るのかで評価は変わってくるでしょう。

『よもつひらさか』

 『よもつひらさか』(今邑彩)

―あらすじ―
 とある町へ向かう主人公は、坂の途中で1人の青年と会う。その坂は"よもつひらさか"と言い、この世からあの世へと続く"黄泉比良坂"と関係があるという。青年は、坂にまつわる不思議な話を話し出す…全12篇からなる短編集。

 

 「ささやく鏡」や「茉莉花」など、途中でオチが読めてしまう話が多く、半分くらいはあまり驚きがないままに読んでしまいました。「おすすめのホラー小説」でネットを検索した際によく取り上げられていたので、期待しすぎてしまったところがあるかもしれません。

『氷点』(再読)

 『氷点』(三浦綾子)

―あらすじ―
 旭川市で医師として働く辻口。妻、息子、娘の4人家族として暮らす辻口だったが、ある日、妻の不注意から3歳の娘は佐石という男に殺されてしまう。妻の希望により女の子を養子として向かえた辻口だったが、その女の子は佐石の娘だった…



 2007年に読んで以来、約16年振りの再読となりました。

 「原罪とは何か」がテーマとなっている作品です。しかしそのテーマを別としても、謀略や、怒り、妬み、愛情など家族それぞれの思惑が交差した、ホラーミステリー作品としても読むことが出来ます。そのストーリーにグイグイと引き込まれ、今回の再読でも上下巻ともに一気に読んでしまいました。また、下巻ではテーマが徐々に顕わになり、原罪のみならず、信頼とは何か、愛とは何かといった事も考えさせられます。