『日本国紀』読書ノート(220) | こはにわ歴史堂のブログ

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220】石油戦略は第四次中東戦争でアラブ諸国が敗れたから始まったのではない。

 

「中東の産油国が石油価格を上げたのは、第四次中東戦争で、アラブ諸国がイスラエルに敗れたことが大きかった。」(P479)

 

と説明されていますが、誤りです。「石油戦略」による原油価格値上げは、第四次中東戦争中に行われたことで、「敗れたことが大きかった」という説明は間違えています。戦いが終わる前に採られた戦略でした。

第四次中東戦争は197310月6日から同月24日までですが、いわゆる「石油戦略」の発動は1016日です。

 

「さらにサウジアラビアを中心とするアラブ諸国は、イスラエルを支援する国に対して石油輸出を制限すると宣言した。日本はイスラエル支援国家ではなかったが、アメリカと同盟を結んでいる関係で、石油禁輸リストに入れられた。日本は急遽、イスラエル軍は占領地から撤退し、占領地のパレスチナ人の人権に配慮するようにとの声明を出した。この声明発表はアメリカの反発が予想されるものであったが、背に腹は替えられない日本政府の苦渋の決断でもあった。」(P479)

 

すでに日中共同声明の説明で、「戦後、二十七年も経っていたにもかかわらず、日本は自らの意思で外交ができない国になってしまっていたのだ。」(P477)と述べられていましたが、アメリカと同盟関係にあったにもかかわらず、反イスラエル親アラブを外交的に宣言したのはきわめて「独自外交」で、田中角栄政権の1970年代は、「アメリカ追従外交」から距離を置いた「独自外交の時代」と普通は評価します。

https://ameblo.jp/kohaniwa/entry-12453404202.html

 

「余談だが、昭和四九年(一九七四)の石油危機期間中、選抜高校野球大会では、それまで慣例となっていた表彰式の演奏曲『身よ、勇者は帰る』(ヘンデル作曲のオラトリオ『ユダス・マカベウス』の中の一曲)の使用をやめ、オリジナル曲に差し替えるということまでしている。『ユダス・マカベウス』は、紀元前の物語であるが、アラブと敵対するユダヤ人戦士を称える曲だからだ。」(P480)

 

と説明されていますが…

誤解される方がいるといけないので注釈しておきますが、「ユダス・マカベウス」の物語およびヘンデル作曲のオラトリオ「ユダス・マカベウス」の中にはアラブ人は出てきません(というかこの時期アラブ人はいません)

「ユダス・マカベウス」は、セレウコス朝シリアの支配下にあったユダヤ人たちの物語です。セレウコス朝シリアはアレクサンドロス大王の死後、分裂して生まれたギリシア系の国家で、支配下にあったユダヤ人にギリシアの神ゼウスの信仰を強制しようとしました。

「ユダス・マカベウス」は「ユダ・マカバイ」というイスラエルの英雄で、イスラエルを解放した、といわれています。よってこの物語の中のユダヤ人の敵はアラブではなく、ギリシア系セレウコス朝シリアでしたので念のため。