ピグ
ミスターミーハーなおれは早速作ってみたのである。そしてもう二度とタッチしないと心に決めたのであった。魔が差したのだよ魔が。人間魔が差せば大抵のことは出来るらしいよ(ポジティブ)?しかしよぉ、消せないのなあれ。罠だわ罠。やわったわぁ。壮絶美少女キャラにしちゃったんだよね。ああ、嘘ですよ。どうせおれは微妙に変なキャラにすることうけあいですよ。そうしましたよ。もう二度とピグには触りませんよ。
アラクネ(17)
その日マユミは一人公園のベンチに座って自分の影を見つめていた。菱山カナコの葬儀からおよそ一ヶ月が経とうとしている仕事帰り。家の近所の公園。街灯が白々しく透き通りマユミのつむじと舞い落ちる桜の花を照らす。自転車は横倒しにして停めた。そういう気分だった。仕事にも慣れ、私生活の動乱も落ち着きを見せ始めた時期、もうタケハル達やミシモ、カナコと空メールのやりとりをしていない。マユミの心に去来したものは空虚感、厭世感。心に出入りするモヤモヤ。上がったり下がったりのジグザグ。マユミは厭世感を感じるとこの日のように夜風に吹かれることにしていた。未だ寒さの残る空気を生暖かい南風が切り裂く不気味な夜だった。
マユミは何も考えていない。ぼーっとして、ただ影を見つめている。こんな時に何かを考えてしまえば、それはネガティブな思考パターンに結びつくこと間違いないからである。ぼんやりと、薄く目を閉じる。何も考えずに。そのマユミの姿は結跏趺坐し瞑想する修行者に見えなくもない。
目を閉じてすぐにマユミは目を見開いた。停止した筈の思考に割り込んできたものがあったからである。
「なんだって言うのよ」
マユミは影に向かって呟いた。
くも、クモ、蜘蛛、目を閉じると浮かぶイメージ。映像と文字のダブルパンチ。まばたきごとに替わる脳裏に浮かび上がるイメージ。蜘蛛、タランチュラ、ゴケグモ、オニグモ、ジョロウグモ、アシダカグモ、八つ脚、カニグモ。
「疲れてる、か」
そう呟いたのち、瞼の裏に浮かんだ言葉は、憑かれているのだ、だった。
マユミはまばたきを意識した。呼吸がそうであるように普段不随意的に動かしている所為を意識してしまうと厄介なことになる。マユミは一回一回のまばたきをカメラのシャッターを切るように随意的に行わなければならなくなった。
次々と現れては消えるイメージ。赤い目、黒い目、ビーズをちりばめたよう、尖った堅そうな脚に生えている堅そうな毛、メスに食われるオス蜘蛛、子供に食われる母蜘蛛、網を紡ぐクモ、規則正しい網、一瞬にして糸にくるまれる虫、投げ縄、ふわふわと風に乗り空を行く蜘蛛、牙、ぷっくりと膨らんだ腹、まがまがしい模様。そして細長い袋状の巣に籠もる蜘蛛。長い牙の蜘蛛。地蜘蛛。ジグモ。あの蜘蛛。
怖くなってマユミが立ち上がった時、びょう、と生暖かい風が吹き、マユミは、はっとして、また、目を見開いた。確かに立ち上がった筈であったが、マユミは街灯の細かく細かく明滅する光の匂いが染み付いたベンチに腕を組んで座っていた。慌てて携帯電話を取り出し時刻を確認する。時刻を確認する、というのは行動の副産物で、現代の利器である携帯電話を見ることで自分を安心させようとした。携帯電話のデジタル時計は公園に来た時より一時間が経過していることを示していた。
「なんだよ、夢オチかよ、何が怖いって性犯罪の方が怖いよ、ふふ」
怪奇現象、超常現象など全く信じていないマユミであったが怖いものは怖い。引きつった苦笑いを浮かべると急いで横倒しにした自転車を立て直し足早に家へと帰った。マユミは気付かなかった。自分が座っていたベンチの脚には雪国の民家の軒樋に連なる氷柱のよう、いくつもの白く細長い紐のようなもの、すなわち、ジグモの巣により埋め尽くされていたことを。
家に帰ればいつも通りの光景が待っていた。マユミは安心して母が用意した夕飯を食い、風呂に入り、上がると少し背伸びした美容液を顔から首筋にかけて塗りたくる。ひび割れ対策にかかとにも塗る。マユミがベッドに入る頃、リビングのフローリング部はマユミの足跡でオイリーな輝きを放ち、マユミの母はそれをいつどのように叱るか考え倦ねていた。
ベッドに入ったマユミ。先程起こったことをミシモ達に伝えるかどうか少し迷ったが、あのことは疲弊した精神がV字回復する為のきっかけに見た他愛の無い悪夢であったと解釈し、こんなことで一々連絡を入れていたら痛い子になってしまうと判断した。
マユミはベッドに横たわるといつも同じことを思い、望み、考え、寝る。悪い癖だ。この日も同じようにしていた。
「ただ認めよ、さすれば与えん」
突然誰かに話しかけられてマユミは飛び起きた。嫌な声だった。その声は形容可能な種の音ではない。強いていうなればハゲタカを喋らせたらこんな声になるであろう。
上半身をベッドから起こしたマユミは気がつくと華奢な四つ脚の椅子に座っていた。周りは黒い空間が広がっている。どうやら立方体の中にいるらしい、とマユミは直感した。明かりは見て取れないが決して暗い空間ではない。その証拠に、目の前に居るミシモの姿は暗闇の中でスポットライトを浴びているよう、とても鮮明だ。
「あー、なんだ夢か」
「そう。これは夢さ。儚い一夜の夢さ。刹那に見る夢さ。土師マユミ、お前の夢さ」
ミシモの口から発せられる声色はミシモのものでなくあの嫌な声だ。
「はあ、私眠りたいんだけどってこりゃおかしいか。あんた何?ミシモの格好してさ。やめてよね」
「俺が俺を見ているのではない、お前が俺を見ているのだよ」
「あー、そりゃそうだ。あ、ていうことは変えられるかな?これ明晰夢っていうやつよね確か。でも私夢で思い通りにいったこと無いのよねぇ。みんなが空飛んでる夢の中で飛ぼうとしても飛べないし。飛んだら飛んだでもの凄くノロノロでやっとこさ浮いてるって低空飛行。わかってるの。こんな夢を見る奴ってのは」
「大地と空の距離は現在の自分と理想の自分との距離さ」
「お前が言わなくてもわかってるっつうの」
「俺は夢、しがない夢さ。昔は人間だったがね」
「は?」
「お前の脳みそを借りる儚い夢さ。だから、俺の姿も喋る言葉もお前のボキャブラリーに左右されるのさ。ぶーらぶらぶらぶーらゆあゆよーん左右に左右にぶーらぶら」
「はあ、なるほど」
「ブログペットのようなものね、だろう?」
「ま、私だからね。私の考えぐらいわかるか」
「そこは違うのさ。きゃはははは。俺は俺さ。お前が見ている俺は俺さ。お前の脳みそを借りているだけなのさ。めじねえきめじねえき」
続
マユミは何も考えていない。ぼーっとして、ただ影を見つめている。こんな時に何かを考えてしまえば、それはネガティブな思考パターンに結びつくこと間違いないからである。ぼんやりと、薄く目を閉じる。何も考えずに。そのマユミの姿は結跏趺坐し瞑想する修行者に見えなくもない。
目を閉じてすぐにマユミは目を見開いた。停止した筈の思考に割り込んできたものがあったからである。
「なんだって言うのよ」
マユミは影に向かって呟いた。
くも、クモ、蜘蛛、目を閉じると浮かぶイメージ。映像と文字のダブルパンチ。まばたきごとに替わる脳裏に浮かび上がるイメージ。蜘蛛、タランチュラ、ゴケグモ、オニグモ、ジョロウグモ、アシダカグモ、八つ脚、カニグモ。
「疲れてる、か」
そう呟いたのち、瞼の裏に浮かんだ言葉は、憑かれているのだ、だった。
マユミはまばたきを意識した。呼吸がそうであるように普段不随意的に動かしている所為を意識してしまうと厄介なことになる。マユミは一回一回のまばたきをカメラのシャッターを切るように随意的に行わなければならなくなった。
次々と現れては消えるイメージ。赤い目、黒い目、ビーズをちりばめたよう、尖った堅そうな脚に生えている堅そうな毛、メスに食われるオス蜘蛛、子供に食われる母蜘蛛、網を紡ぐクモ、規則正しい網、一瞬にして糸にくるまれる虫、投げ縄、ふわふわと風に乗り空を行く蜘蛛、牙、ぷっくりと膨らんだ腹、まがまがしい模様。そして細長い袋状の巣に籠もる蜘蛛。長い牙の蜘蛛。地蜘蛛。ジグモ。あの蜘蛛。
怖くなってマユミが立ち上がった時、びょう、と生暖かい風が吹き、マユミは、はっとして、また、目を見開いた。確かに立ち上がった筈であったが、マユミは街灯の細かく細かく明滅する光の匂いが染み付いたベンチに腕を組んで座っていた。慌てて携帯電話を取り出し時刻を確認する。時刻を確認する、というのは行動の副産物で、現代の利器である携帯電話を見ることで自分を安心させようとした。携帯電話のデジタル時計は公園に来た時より一時間が経過していることを示していた。
「なんだよ、夢オチかよ、何が怖いって性犯罪の方が怖いよ、ふふ」
怪奇現象、超常現象など全く信じていないマユミであったが怖いものは怖い。引きつった苦笑いを浮かべると急いで横倒しにした自転車を立て直し足早に家へと帰った。マユミは気付かなかった。自分が座っていたベンチの脚には雪国の民家の軒樋に連なる氷柱のよう、いくつもの白く細長い紐のようなもの、すなわち、ジグモの巣により埋め尽くされていたことを。
家に帰ればいつも通りの光景が待っていた。マユミは安心して母が用意した夕飯を食い、風呂に入り、上がると少し背伸びした美容液を顔から首筋にかけて塗りたくる。ひび割れ対策にかかとにも塗る。マユミがベッドに入る頃、リビングのフローリング部はマユミの足跡でオイリーな輝きを放ち、マユミの母はそれをいつどのように叱るか考え倦ねていた。
ベッドに入ったマユミ。先程起こったことをミシモ達に伝えるかどうか少し迷ったが、あのことは疲弊した精神がV字回復する為のきっかけに見た他愛の無い悪夢であったと解釈し、こんなことで一々連絡を入れていたら痛い子になってしまうと判断した。
マユミはベッドに横たわるといつも同じことを思い、望み、考え、寝る。悪い癖だ。この日も同じようにしていた。
「ただ認めよ、さすれば与えん」
突然誰かに話しかけられてマユミは飛び起きた。嫌な声だった。その声は形容可能な種の音ではない。強いていうなればハゲタカを喋らせたらこんな声になるであろう。
上半身をベッドから起こしたマユミは気がつくと華奢な四つ脚の椅子に座っていた。周りは黒い空間が広がっている。どうやら立方体の中にいるらしい、とマユミは直感した。明かりは見て取れないが決して暗い空間ではない。その証拠に、目の前に居るミシモの姿は暗闇の中でスポットライトを浴びているよう、とても鮮明だ。
「あー、なんだ夢か」
「そう。これは夢さ。儚い一夜の夢さ。刹那に見る夢さ。土師マユミ、お前の夢さ」
ミシモの口から発せられる声色はミシモのものでなくあの嫌な声だ。
「はあ、私眠りたいんだけどってこりゃおかしいか。あんた何?ミシモの格好してさ。やめてよね」
「俺が俺を見ているのではない、お前が俺を見ているのだよ」
「あー、そりゃそうだ。あ、ていうことは変えられるかな?これ明晰夢っていうやつよね確か。でも私夢で思い通りにいったこと無いのよねぇ。みんなが空飛んでる夢の中で飛ぼうとしても飛べないし。飛んだら飛んだでもの凄くノロノロでやっとこさ浮いてるって低空飛行。わかってるの。こんな夢を見る奴ってのは」
「大地と空の距離は現在の自分と理想の自分との距離さ」
「お前が言わなくてもわかってるっつうの」
「俺は夢、しがない夢さ。昔は人間だったがね」
「は?」
「お前の脳みそを借りる儚い夢さ。だから、俺の姿も喋る言葉もお前のボキャブラリーに左右されるのさ。ぶーらぶらぶらぶーらゆあゆよーん左右に左右にぶーらぶら」
「はあ、なるほど」
「ブログペットのようなものね、だろう?」
「ま、私だからね。私の考えぐらいわかるか」
「そこは違うのさ。きゃはははは。俺は俺さ。お前が見ている俺は俺さ。お前の脳みそを借りているだけなのさ。めじねえきめじねえき」
続
気持ちいいね☆
オ○ニー気持ちいいよオ○ニー。いまさら!?いやごめん。戻らないで。それにしても昨日のオ○ニーは格別だった。尋常じゃなかった。尋常じゃなかったんだ。あ、○に入るのは素直に…いや、素直のナだよ!素直のナだね!もしくは綺麗な人のイヤなところ、のナ。いつも通りのやり方で、まあたまにしか観ないお気に入りのネタでやったのだが、それにしても尋常じゃなかった。そういや近所にアダルト女優の“常夏みかん(化粧薄い時)”に似ている娘をみつけたことがあってさ。すぐ常夏みかんのDVDを買いに走ったことがあったね。実際にビデオ屋の行き帰り息が切れても走りきったからね。凄いね。エロパワー。しかし昨日のはあまりに気持ちよくてさ、下世話な話(全体的に下世話だ)量も出た。例のシャンパン現象とはいかないが、勢いも稀に見る程だった。掃除大変だった。昔ちょうどグリップの位置を虫に食われたことがあってさ。なんていうんだろうか、かゆいところをかきしだく快感と快感の相乗効果でそりゃあよかった。その時ぐらい気持ちよかった。以上かもしらん。あの時は食われにいったもんなしばらく自ら。とにかくオ○ニーいいよオ○ニー。最近 オ
ザナニーばっかしてたからなぁ。たまにはやらねばセンチメンタルオ○ニー。ありがち。
ひくなよ。
ザナニーばっかしてたからなぁ。たまにはやらねばセンチメンタルオ○ニー。ありがち。
ひくなよ。
アラクネ(16)
マユミの面接を担当した高橋という男は、これまた大学の先輩且つ同じ学科出身者であり、就学時期こそ被らなかったが歳も先輩と言えるそれ相応のものであり、マユミの相談相手役になるにはこれ一択という人物であった。高橋も同じ教授のコネで入社した口であり、マユミに親近感を覚え先輩社会人としての役まわりにまんざらでもなかった。わりかし整った顔をしているマユミと、恋愛してもいいかわからない、と高橋は考える程だった。というよりももはや高橋は完全に恋をしていた。
「俺の場合この会社に入社して良かったことは満員電車に乗らなくて良くなったことだ、都心に向かう人の群れとは上り下りが逆コースだからな。朝、向かいのホームで高校生バイトに押し込まれるおっさん達を見てると内心笑いが止まらないよ。もちろん帰りも。ま、それが如何に恵まれていることかを考えると嫌なことがあってもちゃんと働こうって気持ちにもなるさ。その分給料低いからとんとんかもしらんが」
マユミが社会人になって半年になろうとする頃、マユミと高橋は二人っきりで飲みに出かけた。
「そうですねぇ。私なんかやろうと思えば自転車で通えますからね。時間的に電車とバスを使った場合とあまり変わらないことに気がつきました」
それまでも月に一、二回二人っきりで飲みに出かけることがあった。もちろんマユミが酔って暴れ出すことはない。あれはミシモといる時専用と決めている。
「お前、だからといって交通費ちょろまかすなよな」
「交通費なんてあってないようなもんじゃないですか。駅から会社までのバス代出てないじゃないですか。かといって駐車場は一杯だし。むしろ自転車通勤を奨励してますよ。ということはちょろちょろとまかすしかないでしょう。一応冗談ですけど」
「うむ、経理にバレずにうまいこと月の半分ちょろまかしたとして、大体いくらになる?」
「…三千円弱ですか」
「行き帰りにコンビニに寄って水分補給やらなんやらしようものなら赤字、か。なんかむなしくなってくるな」
「…ですね。ところで今やってる新商品開発ってどんなものになるんですかね?」
マユミは開発部に異動する為、開発に興味があることを高橋に小出しにアピールする作戦をとっていた。自分に素直になれないマユミらしい作戦である。当然、この人私に興味持っているに違いない、と確信した上での作戦だ。そのことは決して誇大妄想の賜物ではない。高橋はそのことを態度や言動にお首にも出していないつもりであったが、素人童貞である高橋のことである。高橋の心の機微を探り当てることなどマユミにとって赤子の手を痛めつけないように捻るが如く容易い。
高橋はマユミの面接を担当したが開発部所属の人間である。うまいこと事が運べば、うまいこと私の提案をこいつが拾ってくれれば、うまいことこいつをダシにすれば。高橋と二人きりで飲む時に、マユミはラジオに投稿しているリスナーの気持ちになった。(ちなみにマユミは男として見た場合の高橋に全く興味が無い。告白された場合には、そんなつもりで飲んできたわけではない、と無碍にあしらえば良いと既に判断が下されている。哀れ高橋。下の名前さえつけてもらえず。目的意識の違いが生む悲しき人間模様の贄よ。頑張れ高橋。負けるな高橋。お前にはきっといい未来を用意すると筆者が約束しようではないか。恋したマユミは死んだが。)
「うーん、行き詰まりだ。パスタなんだけど、何かいい案ある?」
高橋とて馬鹿ではない。マユミが開発に興味があることはこれまでのマユミの態度からわかっている。来て欲しいとさえ思っていた。自分に人事権があるならば。きっかけが必要だった。マユミが開発部に見初められるきっかけ、すなわち、実績。
マユミは基本的に馬鹿である。目標があってもそれに近付く努力、それを放り投げている。それをしないであーしたいこーしたいあーなりたいこーなりたいとほざくタチである。オセロや将棋を何度やってもうまくならない。小学生の頃、授業の水泳の昇級試験を教師から義務付けられた最低辺の級をやっつけでパスするとそれ以降受けなかった。英検三級を中学一年で取ると取得時に行った面接が怖くなってそれ以降受けなかった。ミシモが受験しなければ大学に進む気はなかった。運動をやらせれば、所謂運動神経というものにそこそこ恵まれていたのだろう、変に飲み込みが早く割合何でも器用にこなし、始めて半年程は有望株であるがそれ以降はぱたりと成長を止める。そして辞める。物事の最初期に出会う“コツ”を掴むとそれで満足し、周りがそれで通用しなくなるレベルに入ると逃げる。向上心というものがまるでない。あるにはあるのだが向上心よりも自分が弱い現実に立ち向かうことの苦痛が先に立つ。やったことが無い人よりはうまい、強い、わかる、それでガラスの自尊心、虚飾に縁取られた自尊心を満ち足らせようとした。そう、自分に向上心が欠如していること、目標に向かって努力行動をしないことをマユミは自覚している。何といっても自分の大っ嫌いな部分である。しかし、それさえも、努力出来る人間になりたい、と思うだけで克服する努力をそれが必要であるとわかっていながらしないからこその馬鹿である。本気を出せば私だって、と、この期に及んで本気で思っている節がある。この時も、開発部に行きたい、と思ってはいたが、では現実的ないい案を用意しているかと問われればそんなものは、明日考えよう、という次第であった。
「パスタですか、何か決定事項はあるんですか?」
マユミは発想のかけらを拾い集めようとした。マユミが恐れていることは才能が無いことを認めること、悟られることである。奇をてらう性格もそれの現れであると云えよう。何かアイディアは無いかと問われたら無いとは言えない、言いたくない。ましてやこの機会だ。が、
「いやぁ、それがパッケージがパスタである以外なんもかんも決まらなくて」
かけらはパスタだけであった。せめてキーとなる食材や風味さえ決まっていればまだなんとか発想の余地はあったのだが。
「そうですか」
「そうなんだよ」
「…」マユミのアルコールを摂取していながらちっとも酔っていない頭のなかでぐるぐると原価や旬の食材、最近の流行り、自分の好きな食べ物、食べたことがあるパスタ、どこかで見たことがあるパスタ、やらが目まぐるしく交錯した。食材に関係するものだけではおさまりつかず、交錯する思考の中に、好きな作家の言葉であるとか最近気になった洋服であるとかいつか見た映画のワンシーンなども参加して、めちゃくちゃになっていた。
「…ま、そんな簡単に」
タイムリミットを宣言されようとした刹那、マユミはとりあえず目の前にあった言葉を掴んで投げつけた。
「トイ・プードル、的な」
「えっ?」
苦し紛れに言った自分でも何が何やらわからぬイメージが商品として現実にコンビニの陳列棚に並んだのはその日からおよそ1ヶ月半後のことである。「パスタDEヘルシー・プードル味!?」は世間を賑わす大ヒット商品に、とまではいかなかったがそこそこのスマッシュヒットを記録した。発売三日で「パスタDEヘルシー・目印はプードル!」に名前が変わったことはご愛嬌。
続
「俺の場合この会社に入社して良かったことは満員電車に乗らなくて良くなったことだ、都心に向かう人の群れとは上り下りが逆コースだからな。朝、向かいのホームで高校生バイトに押し込まれるおっさん達を見てると内心笑いが止まらないよ。もちろん帰りも。ま、それが如何に恵まれていることかを考えると嫌なことがあってもちゃんと働こうって気持ちにもなるさ。その分給料低いからとんとんかもしらんが」
マユミが社会人になって半年になろうとする頃、マユミと高橋は二人っきりで飲みに出かけた。
「そうですねぇ。私なんかやろうと思えば自転車で通えますからね。時間的に電車とバスを使った場合とあまり変わらないことに気がつきました」
それまでも月に一、二回二人っきりで飲みに出かけることがあった。もちろんマユミが酔って暴れ出すことはない。あれはミシモといる時専用と決めている。
「お前、だからといって交通費ちょろまかすなよな」
「交通費なんてあってないようなもんじゃないですか。駅から会社までのバス代出てないじゃないですか。かといって駐車場は一杯だし。むしろ自転車通勤を奨励してますよ。ということはちょろちょろとまかすしかないでしょう。一応冗談ですけど」
「うむ、経理にバレずにうまいこと月の半分ちょろまかしたとして、大体いくらになる?」
「…三千円弱ですか」
「行き帰りにコンビニに寄って水分補給やらなんやらしようものなら赤字、か。なんかむなしくなってくるな」
「…ですね。ところで今やってる新商品開発ってどんなものになるんですかね?」
マユミは開発部に異動する為、開発に興味があることを高橋に小出しにアピールする作戦をとっていた。自分に素直になれないマユミらしい作戦である。当然、この人私に興味持っているに違いない、と確信した上での作戦だ。そのことは決して誇大妄想の賜物ではない。高橋はそのことを態度や言動にお首にも出していないつもりであったが、素人童貞である高橋のことである。高橋の心の機微を探り当てることなどマユミにとって赤子の手を痛めつけないように捻るが如く容易い。
高橋はマユミの面接を担当したが開発部所属の人間である。うまいこと事が運べば、うまいこと私の提案をこいつが拾ってくれれば、うまいことこいつをダシにすれば。高橋と二人きりで飲む時に、マユミはラジオに投稿しているリスナーの気持ちになった。(ちなみにマユミは男として見た場合の高橋に全く興味が無い。告白された場合には、そんなつもりで飲んできたわけではない、と無碍にあしらえば良いと既に判断が下されている。哀れ高橋。下の名前さえつけてもらえず。目的意識の違いが生む悲しき人間模様の贄よ。頑張れ高橋。負けるな高橋。お前にはきっといい未来を用意すると筆者が約束しようではないか。恋したマユミは死んだが。)
「うーん、行き詰まりだ。パスタなんだけど、何かいい案ある?」
高橋とて馬鹿ではない。マユミが開発に興味があることはこれまでのマユミの態度からわかっている。来て欲しいとさえ思っていた。自分に人事権があるならば。きっかけが必要だった。マユミが開発部に見初められるきっかけ、すなわち、実績。
マユミは基本的に馬鹿である。目標があってもそれに近付く努力、それを放り投げている。それをしないであーしたいこーしたいあーなりたいこーなりたいとほざくタチである。オセロや将棋を何度やってもうまくならない。小学生の頃、授業の水泳の昇級試験を教師から義務付けられた最低辺の級をやっつけでパスするとそれ以降受けなかった。英検三級を中学一年で取ると取得時に行った面接が怖くなってそれ以降受けなかった。ミシモが受験しなければ大学に進む気はなかった。運動をやらせれば、所謂運動神経というものにそこそこ恵まれていたのだろう、変に飲み込みが早く割合何でも器用にこなし、始めて半年程は有望株であるがそれ以降はぱたりと成長を止める。そして辞める。物事の最初期に出会う“コツ”を掴むとそれで満足し、周りがそれで通用しなくなるレベルに入ると逃げる。向上心というものがまるでない。あるにはあるのだが向上心よりも自分が弱い現実に立ち向かうことの苦痛が先に立つ。やったことが無い人よりはうまい、強い、わかる、それでガラスの自尊心、虚飾に縁取られた自尊心を満ち足らせようとした。そう、自分に向上心が欠如していること、目標に向かって努力行動をしないことをマユミは自覚している。何といっても自分の大っ嫌いな部分である。しかし、それさえも、努力出来る人間になりたい、と思うだけで克服する努力をそれが必要であるとわかっていながらしないからこその馬鹿である。本気を出せば私だって、と、この期に及んで本気で思っている節がある。この時も、開発部に行きたい、と思ってはいたが、では現実的ないい案を用意しているかと問われればそんなものは、明日考えよう、という次第であった。
「パスタですか、何か決定事項はあるんですか?」
マユミは発想のかけらを拾い集めようとした。マユミが恐れていることは才能が無いことを認めること、悟られることである。奇をてらう性格もそれの現れであると云えよう。何かアイディアは無いかと問われたら無いとは言えない、言いたくない。ましてやこの機会だ。が、
「いやぁ、それがパッケージがパスタである以外なんもかんも決まらなくて」
かけらはパスタだけであった。せめてキーとなる食材や風味さえ決まっていればまだなんとか発想の余地はあったのだが。
「そうですか」
「そうなんだよ」
「…」マユミのアルコールを摂取していながらちっとも酔っていない頭のなかでぐるぐると原価や旬の食材、最近の流行り、自分の好きな食べ物、食べたことがあるパスタ、どこかで見たことがあるパスタ、やらが目まぐるしく交錯した。食材に関係するものだけではおさまりつかず、交錯する思考の中に、好きな作家の言葉であるとか最近気になった洋服であるとかいつか見た映画のワンシーンなども参加して、めちゃくちゃになっていた。
「…ま、そんな簡単に」
タイムリミットを宣言されようとした刹那、マユミはとりあえず目の前にあった言葉を掴んで投げつけた。
「トイ・プードル、的な」
「えっ?」
苦し紛れに言った自分でも何が何やらわからぬイメージが商品として現実にコンビニの陳列棚に並んだのはその日からおよそ1ヶ月半後のことである。「パスタDEヘルシー・プードル味!?」は世間を賑わす大ヒット商品に、とまではいかなかったがそこそこのスマッシュヒットを記録した。発売三日で「パスタDEヘルシー・目印はプードル!」に名前が変わったことはご愛嬌。
続
疑う心は暗い鬼のよう
井脇ノブ子ってそういや女だったね。ついさっきまで井脇ノブ子がなんかしたっていうニュースを聞きながら、その人がノブ子であることをちゃんと認識していながらてっきり男の井脇議員がなんか問題起こしたかと思ってた。別に男だから女だからってわけじゃなくて単純に。いや、井脇ノブ子が女だってことは知ってたよ?テストによく出るじゃん。この人は男でしょうか女でしょうかって。小二のテストでよくひっかかったじゃん。よくひっかかったもんだからどっちが正解か思い出せないことってあるじゃん。こっちが間違いねって覚えちゃうと後々やっかいじゃん。ハシボソカラスとハシブトカラス都会にいるのはどっち?ヤマセミとカワセミ珍しいのどっち?ほーほけきょはウグイスとホトトギスどっち?梅の枝にとまってる鳥はウグイスだっつってんのに絵にするとメジロになるのはなぜ?とか。ま、ありがちありがち。
ああいう人のこと(またしても男とか女とかということではなく)なんつったっけ、英雄コンプレックスじゃなくて、誇大妄想ってわけでもなくて、なんつったっけなぁ。忘れちった☆てへへ。
ああいう人のこと(またしても男とか女とかということではなく)なんつったっけ、英雄コンプレックスじゃなくて、誇大妄想ってわけでもなくて、なんつったっけなぁ。忘れちった☆てへへ。