2024年度国家総合職専門択一試験・憲法コメント | 彼の西山に登り

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3/17に実施された2024年度国家総合職試験のうち、大卒程度試験の法律区分の問題を見せてもらうことができましたので、今回はそのうち専門試験(多肢選択式)の憲法の問題について簡単にコメントすることにします。

受験した方で問題と正答が手元にある前提です。問題【№】は法律区分のものです。

今後の公務員試験の参考にすることを主目的とした簡単なコメントなので、詳細な解説ではない点はご了解ください。

 

 

2024年度の憲法は、基本的人権4問、統治機構3問と標準的な出題でした。基本的人権では、頻出分野(№1・3)とそうでない分野(№2・4)とが半々で、正答を判断するだけなら極端な難問はありませんが、頻出でない分野を2問出題することで、選抜機能を持たせた印象です。統治機構は全て頻出分野の総合問題でした。国会(№5)に正解肢を絞りにくくする引っ掛けがありますが、他は平易です。

 

 

【№1】=正答3

憲法13条に関する判例素材の問題。イ×→肢2・3→ウ×orエ〇で解答できます。

 

ア〇 最大判平27・12・16民集第69巻8号2586頁。「氏の変更を強制されない自由」に関する後半も妥当であることまで押さえていないと迷います。

イ× 最判平12・2・29。同判例は、患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならないとしており、本記述のような事実の下では、医師らは、説明を怠ったことにより、患者が輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、この点において同人の人格権を侵害したものとして、同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うとしました。結論が判例と異なるので、簡単に切れると思います。

ウ× 本記述は大阪空港公害訴訟控訴審判決(大阪高判昭50・11・27)の判決文ですが、最高裁では認められていません。環境権を明確に認めた最高裁判例がないことを知っていれば切ることができます。

エ〇 最判平元・12・14。いわゆるどぶろく裁判の判例です。出題頻度がやや下がりますが、有名な判例の1つです。

 

 

【№2】=正答1

参政権に関する判例素材の問題。唯一妥当なア〇が最新判例ですが、押さえていなくても消去法で解答すれば見た目ほど難易度は高くありません。

 

ア〇 最大判令4・5・25。同判例は、本記述のように述べた上で、最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)に最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査に係る審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反するとしました。

イ× 最大判昭43・12・4。同判例は、当該組合員に対し、勧告または説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法としているので、勧告又は説得の段階では違法ではありません。典型的な引っ掛けです。

ウ× 最判昭25・11・9。同判例は、選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないとしました。

エ× 最判平9・3・13。公職選挙法上の連座制を憲法違反とした判例は、今のところありません。

 

 

【№3】=正答2

思想・良心の自由に関する判例素材の問題。ア〇は国家総合職以外には労働法でないと出題が見られない判例ですが、ポスト・ノーティス命令と謝罪広告(エ〇)は同趣旨ですし、各記述とも結論で正答を導けるので、解答は難しくありません。

 

ア〇 最判平2・3・6。

イ× 最判昭63・2・5。同判例は、本記述のような事実関係の下で、書面交付の要求は、社会的に許容し得る限界を超えて職員の精神的自由を侵害した違法行為であるということはできないとしました。基本的には労働法の判例ですが、企業・労働者という私人間の行為であるにもかかわらず、本記述の結論は「憲法第19条に違反する。」としており、判例を知らなくても誤りであることは明らかです。

ウ× 最判平23・5・30。同判例では、校長の職務命令は憲法19条に違反しないとしており、結論が異なるので容易に切れます。

エ〇 最大判昭31・7・4。重要基本判例です。

 

 

【№4】=正答4

裁判を受ける権利に関するおおむね判例素材の問題。正解肢4が基本判例で平易なので、解答は容易です。

 

1× 民事裁判に関して、国が法律扶助を行うことを義務づけた憲法上の規定はありません。法テラスが民事法律扶助業務を行っている点は妥当です。

2× 最大判昭24・5・18。同判例は、「民事法規については憲法は法律がその効果を遡及せしめることを禁じてはいない」ことから、「新法を以て遡及して出訴期間を短縮することができる以上は、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合でない限り憲法第32条に違反」しないとしました。

3× 最判平13・2・13。同判例は、本記述のように規定する民事訴訟法312条及び318条は憲法32条に違反しないとしました。

4〇 最大判昭24・3・23。憲法32条に関する重要基本判例で、正答になることも多い判例です。

5× 最決平20・5・8。同決定は、憲法32条所定の裁判を受ける権利は、性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断を求めることができる権利をいうから、本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は、同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないことを理由に、原審が、抗告人(原審における相手方)に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできず、憲法32条違反の主張には理由がないとしました。

 

 

【№5】=正答3

国会に関する総合問題。イ〇→肢3・4までは平易ですが、オ×が紛らわしく、迷って時間を浪費したり、誤答したりしかねません。

 

ア× 条約の承認手続について規定する憲法61条は同60条2項(衆議院の優越)のみ準用し、同60条1項(予算先議権)は準用していません。

イ〇 憲法59条4項。

ウ× 衆議院が解散されたときに、衆議院議員総選挙の日から30日以内に召集されるのは、臨時会ではなく特別会です(憲法54条1項)。

エ〇 憲法50条、国会法33条。

オ× 憲法59条1項は、「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。」と規定します。ここにいう「この憲法に特別の定めのある場合」とは、衆議院の優越が認められる場合(同条2・3項)、地方自治特別法の場合(憲法95条)のほか、参議院の緊急集会(同54条2・3項)の場合が挙げられます。この場合、参議院だけで国会の代行として、法律を制定できます。特別会での衆議院の事後承諾は、「10日以内に同意がない」場合に将来的に失効すると一般に解されており、同意前に効力が発生している以上、成立・効力要件ではないと解されます。

 

 

【№6】=正答5

内閣に関する総合問題。平易です。

 

ア× 内閣が違憲であると判断した法律であっても、合憲であるとして制定した国会の判断を尊重し、国会が改正・廃止しない限り、誠実に執行しなければならない(憲法73条1号)と一般に解されています。

イ× 憲法66条3項の「責任」は政治責任であり、刑事・民事・懲戒責任のような法的責任ではないと一般に解されています。

ウ× 最大判昭34・12・16。日米安全保障条約に基づく行政協定につき、同判例は、行政協定の根拠規定を含む安全保障条約が国会の承認を経ている以上、これと別に特に行政協定につき国会の承認を経る必要はないとする政府見解を踏まえ、米軍の配備を規律する条件を規定した行政協定は、既に国会の承認を経た安全保障条約3条の委任の範囲内のものであると認められ、これにつき特に国会の承認を経なかったからといって、違憲無効であるとは認められないとしました。

エ〇 内閣総理大臣につき憲法67条1項、6条1項。国務大臣につき68条1項、7条5号。

オ〇 最大判平7・2・22。

 

 

【№7】=正答5

司法権に関する総合問題。個々の記述はやや長めですが、条文や確立した概念(~と一般に解されている)が決め手になっており、見た目ほど難易度は高くありません。

 

ア× 司法権の独立を侵害するような国政調査権の行使はもちろん認められませんが、本記述に挙げられている「判決内容の当否や裁判官の訴訟指揮の仕方などに関する調査」は、司法権の独立を侵害する典型例であると一般に解されています。

イ× 憲法77条1・3項。最高裁判所規則制定権を有するのは、その名の通り最高裁判所のみで、最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができるだけです。下級裁判所に規則制定権を付与する憲法上の規定はありません。

ウ〇 「一切の法律上の争訟」(裁判所法3条1項)、客観訴訟の説明とも、妥当です(客観訴訟の説明につき行政事件訴訟法42条参照)。

エ〇 明治憲法下の説明(大日本帝国憲法57条、60条、61条参照)、現行憲法下の説明(憲法76条、裁判所法3条参照)とも妥当です。