彼の西山に登り

彼の西山に登り

公務員試験講師があれこれ綴るブログ。


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【本文】

 

前回に引き続き、選挙において、政治学・社会学的な観点から、自己の投票行動が持つ意味・効果を客観的に認識できるような補助線を述べることにします。

ただし、繰り返しますが、10/27(日)実施の衆議院議員総選挙における特定の政党への支持を誘導するものではありません。

 

前回の記事で述べた前提は、

➀自己の社会的行為の意味・効果を客観的に認識するために必要なのは、当該行為の「目的」と「機能」を区別することであり、特に客観的な結果が、意図した目的に逆行する場合(逆機能)があることを認識する必要がある。

②政治家は「自分が政治権力を掌握することに必要な支援者」(以下『支援者』)の利益のために行動する。この「支援者」とは、近代民主主義国家の場合、最終的には「当選に必要な数の有権者」(厳密には当選に必要な有効投票数)である。

ということでした。

以上及び現行の選挙制度を前提として、各有権者が選挙においてできるだけ自らの意図した(目的に沿った)効果を発生させる投票行動とはどのようなものか検討します。

 

 

1 現状維持を望む有権者の場合

現状に概ね満足していてこれを維持したい、あるいは現状変更を目指す政治勢力のすべてが提示する未来像に反対もしくは不安を覚える有権者がとり得る合理的な行動は以下の選択肢になるでしょう。

 

➀与党(の候補者)に有効票を投じる。

②棄権する。

③白票などの無効票を投じる。

 

➀は言うまでもありません。

 

②・③は、現行の選挙制度では当選者の決定について何の影響も有しないため、これらがいくらあっても、各政党の支持票(特に組織票)が有する効果がストレートに選挙結果に反映することになります。

その結果、②・③は、現状への批判的意図をもってされることもありますが、その場合でも客観的には既に多数派を獲得している与党の政権や現状の維持に貢献する行動になります(逆機能)。

とすれば、ある具体的選挙において、現政権・現状に批判的な意図をもってこれらの行動をとることは非合理的です。

一方、現状維持を望みはするが、ある具体的選挙の場面で、諸情勢により与党(の候補者)名を投票用紙に書くことが胸糞悪い、という有権者にとって、②・③は1つの選択肢ではあるでしょう。※1

ただし、当選・落選にかかわらずすべての政治家は、当落に無影響の②・③を自らの視野から度外視します。

したがって、当選した政治家も、➀に感謝し、➀を選択した有権者の利益を積極的に図る一方、②・③(を選択した有権者の利益)は安心して無視するであろう、という違いはあります。

 

 

2 現状変更を望む有権者の場合

一方、有権者が現状の変更を望む場合(右向きか左向きか等、変更の方向性についてはこの記事では問いません)、合理的な投票行動は上記1の反対、すなわち、

 

投票に参加し(棄権せず)、野党(の候補者)に有効票を投じる

 

ということになります。

 

現状変更を望むが、さりとて具体的選挙において自己の納得する現状変更を提示する政治勢力や投票したい候補者がない、という場合、棄権したり白票等の無効票を投じる、という行動をとる有権者がいますが、そのような行動の客観的な効果は、上記1にも述べたように、現状・現与党維持への貢献です。

したがって、この場合の有権者は、自らの行動の意図と効果の齟齬に直面した上で、意識的に「結局、自分は概ね現状維持でいいと思っているのだな」と納得するなり、妥協して自分の望む現状変更に最も近い主張の候補者に投票するなり、自分の納得する現状変更を主張して立候補するなりすることが、合理的といえるでしょう。

 

また、現状変更を望み、具体的選挙において投票したい野党候補者もいるのだが、当該小選挙区において当該候補者の落選がほぼ見えているため、自分の票を死票にしたくないとしてとるべき投票行動に迷う有権者が意外に少なくない印象です。

その場合に意識したいのは、死票にも一定の効果はあるのだが、自分はその効果に納得できるか、ということです。※2

 

まず、選挙区全体の有効投票総数が増加することにより、当選に必要な支援者数のハードルが上がれば、支援者以外の死票を投じた有権者にも利益が回りやすくなる、という効果です。

前提の繰り返しになりますが、政治家というのは支援者の利益のために行動します。

その方法については、当選に必要な支援者数が少ない場合なら、例えば補助金等の形で金を渡すなど、支援者にだけ個別的に利益を付与することも可能でしょう。

しかし、選挙区における有効投票総数が増え、それに伴い当選のために必要な支援者数のハードルが上がると、さすがに個別的な利益付与は難しくなります。

となると、より広い有権者の支持を取り込むための利益付与の方法は、道路等の公共施設を設置する形や、減税等の負担軽減、手当等の福祉水準向上のような制度化された形にならざるを得ません。

その場合、設置された公共施設の利用や、制度化された負担軽減、福祉水準の向上による利益は、当選した政治家の支援者以外の有権者も享受できます。

したがって、具体的選挙において投じた票が死票になったか否かに関係なく、とにかく選挙に参加して有効投票総数を増やし、当選に必要な支援者数のハードルを上げれば、当選した政治家の支援者以外の、死票を投じた有権者も一定の利益を享受できる可能性が高くなります。

 

次に、当選した政治家の獲得票と死票との差が僅差であるほど、当選した政治家は、次の選挙の当選のため、死票を投じた有権者の意向にもある程度配慮せざるを得なくなる、という効果です。

この効果は選挙区での候補者数や落選候補者の有力度も重要なファクターですから、小選挙区において与野党有力候補者の一騎打ちという場合には大きく、野党候補者が乱立して死票が割れる場合(例えば今年の東京都知事選挙のケース)や、一騎打ちでも両候補者の獲得票差が極端に大きいため当選者がこれを無視できる場合(例えば田舎の選挙区で自民党候補者と共産党候補者しかいないケース)では小さくなるでしょう。

ただ、死票の数・比率が、次回選挙での再選を目指す政治家が無視できない程度に達している場合、どの落選候補者の支持者を取り込もうとするかに選択の余地はあるものの、死票を投じた有権者(の一部)の意向にも、一定程度の配慮をせざるを得ないでしょう。

 

以上の、自己の投票が死票であっても、有効投票総数を増やし、当選に必要な支援者数のハードルを上げることによる効果に納得ができる有権者は、当選可能性に関わらず、素直に自分が支持する候補者(いない場合はそれに最も近い主張の候補者)に投票するのが合理的でしょう。

なお、最低限度、「野党(の候補者)に対する有効票」でありさえすれば、投票先をあみだくじなどでテキトーに決めたとしても、この効果は期待できます。

 

一方、納得できない場合は、当選できそうな候補者に投票先を変更することになりますね。

ただ、現行制度下の衆議院議員選挙に限って言えば、最も支持する候補者が重複立候補者として比例名簿に登載されているか確認した方がいいでしょう。小選挙区で死票になっても惜敗率が高ければ比例代表で復活できるかもしれません。

 

 

 

※1 なお、「自分はノンポリ(政治に関心のない非政治的人間)である」という自意識を確証・誇示するために棄権・白票を含む無効投票を選択する有権者がいますが、本文で述べたようにその行為の客観的効果は現状・現与党維持であり、これも立派な「政治的行為」です。

したがって、このような有権者は、この目的と効果の齟齬に直面した上で、この齟齬を自己において納得すべく思想的に苦闘するのでなければ、組織から指示された候補者に唯々諾々と投票する組織票の投票者と、知的には大して変わらないと私は思います。

 

※2 現行選挙制度下での衆議院議員選挙に限定すれば、重複立候補者の比例復活が惜敗率で決まることから、小選挙区の落選者に投じられた死票数が比例復活に直接的な効果をもってきますが、現行制度下での特殊事情ですので、本文では度外視します。