彼の西山に登り

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公務員試験講師があれこれ綴るブログ。


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【本文】

 

直前講義収録の第1波が過ぎ、一息つきましたので、間が空きましたが、国家総合職1次試験専門試験の行政法コメントの続きです。

今回は行政救済法のうちの国家補償法の問題と、行政組織法の問題です。

問題が手元にある前提で、今後の試験対策のための簡単なコメントであり、詳細な解説ではありません。

№は法律区分のものです。

 

 

【№16】=正答5

国家賠償法1条に関する判例素材の問題。ア〇→肢1・5までは平易ですが、ウ〇・エ×・オ〇の素材の判例は細かく、難易度高めの問題です。

 

ア〇 最大判平17・9・14。なお、その後の判例(最大判平27・12・16、最大判令4・5・25等)でも、細部は異なるものの概ね同じ基準を用いて判断されていますが、本記述は平成17年判決のものです。

イ× 最判平19・1・25。同判例は、本件の場合、当該児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は、都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当であるとしました。結論が判例と異なるので、簡単に切れます。

ウ〇 最判平25・3・26。なお、結論的には、本件建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえないとしました。

エ× 最判昭57・2・23。同判例は、不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録にあらわれた権利関係の外形に依拠して行われるものであり、その結果関係人間の実体的権利関係との不適合が生じることがありうるが、これについては執行手続の性質上、強制執行法に定める救済の手続により是正されることが予定されているから、執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合は格別、そうでない場合には権利者が右の手続による救済を求めることを怠ったため損害が発生しても、その賠償を国に対して請求することはできないとしました。

オ〇 最判平5・1・25。

 

 

【№17】=正答4

国家賠償法2~5条に関する判例素材の問題。イ×→エ〇で平易です。

 

ア〇 最判昭53・7・4。

イ× 最判昭45・8・20。同判例は、本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできないとしました。重要基本判例です。

ウ〇 最判昭53・7・17。国家賠償法4条関連の重要基本判例です。

エ〇 最大判平・14・9・11。

 

 

【№18】=正答2

行政機関相互の関係(行政官庁法通則、権限の代行)に関する問題。誤肢には細かい知識を問うものもありますが、正答2は平易です。

 

1× 専決・代決の説明はおおむね妥当ですが、専決では、形式的には行政庁の名において権限が行使されるので、行政庁が処分庁として扱われ、したがって、行政手続法5条1項の規定に基づき審査基準の作成義務を負うのも行政庁です。※1

2〇 権限の委任の説明として、通説に照らし妥当です。

3× 専決・代決の法的性格については、学説上。補助執行説と授権代理説の争いはありますが、補助執行説によって法律の根拠は不要と一般に解されています。※2

授権代理説によった場合、そもそも授権代理に法律の根拠を要するかについては、学説上不要説と必要説の争いがありますが、不要説が通説です。※3

したがって、「いずれの説によっても、法律の根拠が必要であると一般に解されている。」とはいえません。

4× 最判平3・12・20。同判例は、専決権限を行使した補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきであり、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、賠償責任を負うとしました。

5× 権限の委任がされた場合、委任機関から受任機関に権限が移譲されるため、法律に別段の規定がない限り、委任機関は受任機関に対して指揮監督権を有しないのが原則です。しかし、上級機関は、下級機関に対して、一般に指揮監督権を有するので、受任機関が委任機関の下級機関である場合には、委任機関は上級機関としての指揮監督権を行使できると一般に解されています。権限の委任の問題で頻出の引っ掛けです。

 

 

【№19】=正答5

地方自治法上の地方公共団体に関する問題。地方自治法の問題としては極端な難問ではなく、標準的といえるでしょうが、特に国家総合職が第一志望でない受験生の場合、そもそも地方自治法を勉強していたかが先決問題ですね。

 

1× 地方公共団体の組合(である一部事務組合及び広域連合)は、特別地方公共団体に分類されます(地方自治法1条の3第3項、同法284条1項参照)。

2× 普通地方公共団体の執行機関には、普通地方公共団体の長の外、委員会と委員があり(地方自治法138条の4第1項)、委員会は長の補助機関ではありません。これらの執行機関は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、相互の連絡を図り、一体として行政機能を発揮するようにしなければなりませんが(同法138条の3第2項)、基本的にはその事務を自らの判断と責任において執行します(同法138条の2の2)。

3× 住民訴訟は監査請求前置がとられており(地方自治法242条の2第1項柱書)、緊急の必要があるときに住民監査請求をスキップできる制度はありません。

4× 指定都市の説明は妥当です(地方自治法252条の19第1項参照)。しかし、中核市は、指定都市が処理することができる事務のうち、中核市において処理することが適当でない事務以外の事務で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができます(同法252条の22第1項)。つまり中核市は、指定都市が処理できる事務のうちの一部を処理できることになります。

5〇 地方自治法245条の2。同条の定める関与の法定主義により、国や都道府県の関与には「法律又はこれに基づく政令」の根拠が必要であり、そのため、省令又は通達を根拠にして行われてきた関与については、廃止するか、法律又はこれに基づく政令に規定し直す作業が必要になりました。※4

 

 

今回で行政法を終わります。

何とか都庁・特別区の1次試験までには民法を終わらせたいと思っています。

 

 

※1 宇賀克也『行政法概説Ⅲ』【第5版】2019年 有斐閣(以下、『宇賀Ⅲ』)P51。

 

※2 『宇賀Ⅲ』P54。

 

※3 塩野宏『行政法Ⅲ』[第5版]2021年 有斐閣(以下『塩野Ⅲ』)P34。なお、『塩野Ⅲ』P37では、授権代理に法律の根拠不要であるとする通説に立つ前提で、授権代理説と補助執行説の「いずれの説によっても、法律の根拠は不要であり、相手方に対する名義は、専決・代決権者ではなく、本来権限を有する者の名義であるとする実務上の取扱いを認めるので、(吉川注:専決・代決の法的性格論は)実益のある議論ではない。」と指摘しています。

 

※4 宇賀克也『地方自治法概説』【第9版】2021年 有斐閣 P425(最新版でない点、ご容赦ください)。