030の一触即発の事件が起きてしばらくしてからだと思うが、父の二郎が夜、家に帰らなくなった。
夜帰らないというのは、昼間は家にいるからである。
共同経営していた松江電気が倒産してから、父は個人経営の電気工事店を営んでいたが、その事務所は自宅の一部屋だった。
母は看護婦で、当時は外来に配属になっていたので毎日日勤。朝7時20分か25分のバスで出勤する。
父は7時30分くらいに家に入り、仕事を始める。そして17時30分から18時までの間に家を出てゆく。
そして母は18時30分から19時くらいに家に帰ってくる。
連絡を取り合っているのかと思うほど、全く見事に入れ替わる。
私にとっては居心地のいい状態になっていた。
私が20代の初めくらいだったと思うが、NHKで実の父親を殺した少年の、少年院での行動や作文を取材した番組を見たことがあった。
私は愕然とした。
その作文で、彼が父に対して思っていたことというのが、一字一句違わず、子供のころに私が父に対して思っていたことと同じだったからである。
私も父を殺していても不思議はないのだと思った。
私はこの時期に父が家に帰らなかったことについてだけは、ある意味感謝している。
そうでなければ
私がこの世にいなくて、父が塀の中にいるか
父がこの世にいなくて、私が塀の中にいるか
どちらかになっていたかもしれない。