太平洋のさざ波 26(1章ハワイ) | ブログ連載小説・幸田回生

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読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

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 彼に男女4人の仲間を紹介されて陽暮れ近くまで海と波に戯れた。
 4人は二組のカップルで全員20代前半から半ばで房総半島の勝浦周辺在住の日本人で彼より一足先にハワイを訪れ、
 ノースショア近くのアパートで一緒に暮らしす短期滞在者だっ

た。



 彼らは互いをニックーネームで呼び合っていたが、
 ドレッドヘアーの彼は一番の年長でゲンさんと呼ばれ、
 セブンで仕入れたサンドイッチとクロワッサン、
 スパムおにぎりとハンバーガーを交換しながら昼食とした。

 


 まさかこの日、海に入ると想いもしなかったので、
 日本から持参してマウイで浸かった海パンはワイキキビーチの側のホテルのバッグに眠ったままで、俺は黒いトランクスのまま海に入った。


 
 そんな突発的な出来事にもどうにか対応して、
 初めてのサーフィンに興じた俺はゲンさんと仲間の4人と楽しい一時を過ごした。

 


 ゲンさんにサブの小ぶりなサーフボードを借りて教えを請い、
 最初はおっかなびっくり、ぺっぴり腰でバランスを崩し、
 海に落ちては波に打ち付けられ、汐水を飲んでは喘いだ。
 ゲンさんの名人芸に見蕩れながら、小波がやって来そうな気配を感じると、ボードを持って海に入った。



 ゲンさん達は冬の海には定番だと想っていたウェットスーツは着用せず、水着のままサーフィンに興じたので俺は凍えながらも冬のノースショアの海に次第に慣れてきた。

 


 海水はトランクスの中にも容赦なく入り込み、脱げそうで一踏ん張りしながら、何度か失敗を繰り返すうちに体が自然と要領を覚え、不格好ながらも、だんだんサマになってきた。



 腹が減ってビーチに上がった。
 ゲンさんの束となったドレッドヘアーから海水が首筋から胸元に落ち、上背は俺と同じくくらいながらも引き締まった腹筋から弾かれた滴が砂浜に落ちた。
 セブンで買ったチョコで包んだ甘いお菓子で空腹を満たした。
 

「俺は源間と言います」

 


 ゲンさんが切り出した。

 


「源義経の源に間を付けて、げんまです」

 


「それで、ゲンさんですか、僕は吉田です」

 


「お互い名前も知らないまま、ノースショアでサーフィンを通して打ち解けました。
 狭い所ですが、よければ、今晩はこっちに泊まりませんか?」

 


 ゲンさんの誘いに若干の間を開けた。

 


「誘っていただいてありがとうございます。
 明日、ワイキキビーチの近くで行きたい所があるので、
 バスがある間にホテルに戻ります」

 


「それは残念だな。
 では晩飯でも一緒にどうです?」



 仲間の女性にバスの時間を調べてもらい、7時半過ぎのアラモアナセンター行きの最終バスを確認した。
 2時間近く時間があった。



 仲間の部屋に戻り調理する時間がなかったので、
 ゲンさんがセブンまで車を飛ばし、食料を調達して、
 夕陽が沈んだビーチの側でゲンさんの仲間4人と俺はビール、  運転するゲンさんはコーラの乾杯のあとダブルバーガー、ビザ、 ホットドッグ、アメリカンな食材を堪能した。

 


 太陽が海の彼方に沈んでからは焚き木の炎を頼りに海風に当たりながら、締めにパイナップルをトッピングしたショートケーキを頂いた。 



「また来て下さいと言いたいところですが、
 この次ぎ合う時は日本ですか。
 同じ千葉県内とはいっても、東京に近い人は千葉都民の感覚でしょう。

 


 俺は房総の海が織りなす波の音を聴きながら、日々を過ごしのが日課になりました。
 船橋から勝浦は近からず遠からずですが、連絡ください。
 待っています」


 源間さんと仲間と別れ、ホテルの部屋に戻って来た。
 ノースショアからのバスの窓に映る点在する民家の灯りと所々に現れる商業施設の照明以外、暗闇の中をひた走った。


 
 ノースショアで俺だけの乗客が一人、二人と増えてくるにつけ、 車内に賑わいが生まれるどころか、かえってシンと静まり返る中、薄暗い照明を頼りにで後部座席でスマホのアプリで現在地を確認すると、もうすぐ日米決戦を告げた、パールハーバー。

 


 気づいたら、月灯りなのか、窓の外の光が届いている。

 

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