太平洋のさざ波 27(1章ハワイ) | ブログ連載小説・幸田回生

ブログ連載小説・幸田回生

読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

   27

 ノースショアから戻った翌日、予定通りにダイアモンドヘッドに向かうことにした。

 


 フリースペースにはマイケルさんとマリアさんのカップルの姿は見えず、朝食にトースト、シリアル、オレンジのスライスを抓み、 コーヒーを飲んでいると、日本に留学中の東京に住むミャンマー人女性に声を掛けられた。

 


 竪琴で有名なかつてのビルマから日本はともかくハワイまで足を伸ばしている事に関心しながら、日本でお会いすることがありましたらと社交辞令で会話で締めた。


 
 ホテルからクヒオ通りまで歩いてバスを待った。
 ダイアモンドヘッドがあるワイキキビーチからオアフ島の東へ向かうの初めてであり、ノースショアに見参した昨日と同じくどこかウキウキして気分で運転手の後の座席に腰掛けた。

 


 窓の外の広いカピオラニ公園をぐるっと周りながら、
 敷地内のホノルル動物園がこんなに近くだったのかと想っている間に緑の絨毯に別れを告げた。
 なだらかな坂道を上って行くと、バスが停車した。



 乗客の多くの観光客に続いてバスを降り、彼らに付いてダイアモンドヘッドの麓に設けられた料金所のようなゲートに辿り着いた。

 


 施設料なのだろう、1ドルを払って入山したダイヤモンドヘッドはウィキペディアによれば232メートル。
 至近距離のワイキキビーチから眺めても、それほど高い山に見えず、レンタカーで制覇したとはいえ、3000メートルを超えるマウイ島のハレアカラ山からすれば、体のいい丘程度である。



 歩き始めて5分もすると、朝食の時に階段を降り、
 バス停からゲートまでの勾配もびくともしなかった足が、
 昨日のノースショアのサーフィンが祟ったのか、筋肉痛なのか、 今まで一度も経験がない左脹ら脛が痙攣でもするようにピクピクと動き、間を置かず、右足の膝がガクッと音を鳴らした。

 


 その場に立ち止まり、半ズボンでむき出しになっている左脹ら脛を左手で触り、2度3度、筋肉を揉みほぐした。
 次ぎに右手で右膝の皿を押さえ、若干曲げた曲げた右膝の脹ら脛を、左手で押さえ、皿の裏まで伸ばした。


 痛みはない。
 呼吸を整えて、このままダイアモンドヘッドを登ることした。
 恐る恐る、ゆっくりした足取りで登って行くと、山頂から次々に人が降りてくる。

 


 多くは海外からの観光客のようで、日本人のカップル、グループ、 団体さん、中国人、韓国人、白人、黒人の姿も見える。
 足を進めると、再び、左脹ら脛の痙攣に続き右足の膝がガクッと音を鳴らした。


 
 この時点で左右の足の機嫌を伺うか、下山するか、即決できかった。
 1分、2分と、その場に立ち止まり、右足をそっと前に出すと、惰性で左足も動いた。

 


 両足とも動くようなので辺りを窺い、ゆっくり登ることにした。
 もうすでにダイアモンドヘッドの半分以上、7部、8部程度は制覇しているはずだ。



 狭い登山道を人並み外れてゆっくり登るので、
 必然的に、一人、二人、三人と次から次へ後から追い越される。
 それに加えて、前述のように、下山客がひっきりなしに降りてくる。
 英語、中国語 韓国語、スペイン語が飛び交い、フランス語の「パードン」で自分の立ち位置をはっきりと認識した。



 日本でいえば丘程度の標高を舐めていたのか、
 このまま登っていては世界各国の人様に迷惑を掛ける。
 リタイアを決断すると、絶好の穴場の避難場所を発見した。
 山道から左に逸れ、数人もいれ満員になる岩に囲まれた狭いエレベーターのような岩場に中腰のまま、背中と尻を岩石にくっ付け合わせた。

 


 ワイキキビーチを、オアフ島の海を見下ろせる絶好のスポットの砦である。
 ここから頂上が窺えるので、標高200メートル程度だろう。
 


 ホノルル空港からオアフ島からマウイ島へ向かう途中小型機の窓から見下ろした景色が目の前に広がり、山風が心地良い。
 左右の足の痛みも忘れほど太陽の陽射しと風に当たりながら、
 何も考えず、最高の一時を過ごした。


 
 忘れていたはずの左の脹ら脛、右の膝の違和感に続いて、
 額から目の周りにピリリと電気が走った。
 日本から日焼け止めの持参しなかった上にハワイのどこでも手に入れることが可能な肌を守ってくれる液体を買わなかった自分の怠慢である。

 


 1月とはいえ、昨日のノースショアの続いてハワイの陽射しを多少なりとも侮っていた。
 ベースボールキャップだけではとてもとても、防ぎきれるものではなく白い肌が悲鳴を上げている。

 


 さあ、山を降りよう。
 足の痛みが再発することなく、ダイアモンドヘッドから無事に下山した。



 バスを待つ数分間に目的地をカハラモールに定めた。
 カハラモールはオアフ島有数のショッピングモールのようでアラモアナセンターと供にザ・バスの起点にもなっている二つモールのショッピングセンターに想いを寄せているうちにバスは到着した。



 モールに入って、ウロウロする間に迷子になってしまったようで、 店の中でグーグルマップの出番でもあるまいと呑気に構えていると、どこかで見覚えてのあるスーパーに紛れ込んだ。
 店先というか、レジの向かいというか、英語で示されたスーパーの店名で思い出した。

 


 ここはマウイで何度か訪れた系列店ではないだろうか。
 マウイ島、オアフ島とバス旅を中心に動いているせいか、
 何も買う予定がなくても、似たようなショッピングモールの類いの商業施設に寄ることが多い。

 


 何度か訪れた系列店の多少の慣れでそれほど広くない店内をぐるっと回り、レジを抜けると、ホテルのあるワイキキビーチを通り過ごし、トイレを発見して用を足すと、西船橋にいる感覚に戻れた。


 痛めた左右の足を庇いつつも太陽光を気にすることなく、散歩気分でカハラモールの中をぐるっと一周。

 


 先ほどの系列店とは一味違った、エコや天然食材を売りにしたセレブ風なスーパーに入り、少々お高いオーガニック風の菓子パン2つとオレンジジュースをピックアップ、数名の後に列に並んでベルトコンベアーに商品を乗せ、クレジットカードで購入。
 

 店の外に出て、ベンチに座り、吹き抜けの木漏日に当たり、 
 観葉植物を愛でながら、お昼を頂くことにした。

 


 ライ麦なのか、商品知識に乏しくて申し訳ないが、
 西船橋の大衆的なスーパーの食パンに慣れているせいか、
 ライトブラウンの歯ごたえがある少々堅めのオーガニックなパンを二つ続けて食べた終えたら、左足脹ら脛に代わって、
 奥歯からこめかみ付近にかけてピクッと、震えが起こった。

 


 それでも、痛みもなく、空腹を満たしたことで、ぐっと気分が落ち着いた。


 カハラモールの雰囲気にも少しばかり馴染んでくると、
 日本であれハワイあれ、モールやショッピングセンターはどこも同じような気分になって、カハラモールはこのままお暇して、
 さらに東に足を伸ばすとしよう。

 

">