てぃんさぐぬ花・・・3 | ブログ連載小説・幸田回生

ブログ連載小説・幸田回生

読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

 3

 

 この日は、風が通り抜ける丘の麓のログハウスも朝からムンムンと暑かった。
 アキは朝食を終え、テーブルの上に国語辞典と漢和辞典を並べていつもの食台で本を開く。
 少しずつ本を読み、日本語の遅れを取り戻そうとしていた。
 

 

 百円で買った星新一のショート・ショートを広げている。 
 1ページ、2ページと読んでゆく。
 帰国子女枠で日本の大学に進もうか?
 これからの進路を描いていた。

 

 彼女は帰国後3年を経過している。
 それでも、帰国子女扱いしてくれる大学はある?
 外国の大学は?
 いまさら。
 外国には、もう飽き飽きしていた。

 

 日本で暮らそう。
 そう決意して3年前両親から離れて、テツと日本に戻ってきた。
 大学には進まず、自分しか出来ない何かを専門的な事を身に付ける。
 今のアキには、それがわからなかった。
 決めかねていた。


 

 テツは部活にでていた。
 彼の通う公立中学は多くの生徒に部活に参加するよう、半ば強制的に押し付けていた。
 姉の好きが高じて、サッカー部でゴールキーパーをやっている。 
 彼は、サッカーを中学までと決め楽しんでいるに過ぎない。

 

「Jリーガーになりなさいよ」
「自分がやれば? Lリーグという女子のリーグがあるんだよ」
「それくらい、知ってるわ」

 姉の弁当を持って、彼は日曜日の今日も練習試合に出場している。
 

 

「死ぬほど暑かったね。
 ゴールマウスでくらくらしたよ。砂埃の中、倒れこむかと思った」

 

 家に戻るとテツは開口一番そう言って、ペットボトルのミネラルウォーターをごくごく飲んでいる。
 ローカルニュースが伝えいていた。

 

 今日、9月としては、この地方の史上最高気温だと。
 トッドが横で背伸びをしている。



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