１７歳のジャズ、而して、スーパーカブ 第８３話
僕は、この御伽噺を進めたいと思う。今回の大震災の話をまだまだしたいけどさ、大昔の哲学者の言葉通りにさ、＜わたしはわたしの畑を耕すだけです＞ってさ。まあ、ヴォルテールの薄汚い野郎の言葉さ。薄汚くて、かつ、大嘘吐き。僕とよく似てる。原発事故が、スリーマイル原発事故ばりに危険でもさ、＜僕は僕の畑を耕すだけです＞なんて気取ってるんだ。こうして電力をばんばん使ってさ、ほんとは大震災のこと原発事故のことを書きたくってしょうがないキチガイのくせにさ。
僕は、気取ってるんだ。
何を？
社会のことが気になってしょうがないくせに、気にならないと気取ってるんだ。
隆志は、テレビから映し出される震災の模様や被災者を観て、ただ何もできない自分を呪いながら泣いてる。
バカチョンは、正直者さ。
感情的なのさ。
情感たっぷりなのさ。
人生とやらを彩るのは、感情や情感だ。隆志のバカチョンは、知らず知らずに彩ってやがるんだ。この御伽噺だって、あいつが彩ってるんだ。何の気取りもなしに、あいつに彩られてるんだ。
まったく、厄介な奴と僕は共に生きてるもんだ。
おい、隆志、てめえの感情や情感が震災までも引き起こしたんじゃないか？ てめえの仕業なんじゃないのか？
そして、てめえみたいなクズが震災にまで彩りを与えてるんじゃないのかよ。
クズチョンめ。
みさと息子と勝美母さんの話は控えようと思う。なぜって、この３人は、隆志以上に厄介だからだ。侮辱的な意味じゃなくてさ。いま僕がインターネットで書いたら、一騒ぎになるかもしれないくらいに活動的だからだ。
この三人は、正真正銘の活動家だ。
隆志は、いまのところ、感情や情感に揺すぶられているだけで、自分に呪いをかけて泣いてるだけだけどさ、みさと息子と勝美母さんは、逸早く、手を打ったんだ。
呪ったり泣いてる暇なんかなかった訳だ。
流石だと思う。
やくざ、大物右翼の愛人。そして、僕の勉強家の息子。
流石だ。
この３人がしたこと、していることはいまはまだインターネットでは書けない。
いつか僕は書くだろうけどさ。
「啓太、会津若松のあのお婆ちゃん、無事かな？」
おい、隆志、その話はまだ早いぞ。
てめえのせいで今日も御伽噺は前に進められなかったろうが。
てめえは厄介だぜ、疫病神なんだろ？
さあ、今日は御伽噺はもうお仕舞いだ。また明日、つづきをでっち上げることにするよ。
１７歳のジャズ、而して、スーパーカブ 第８２話
閑話休題にしよう。
大地震が起きた。地震だけでなく津波が来た。原発が糞を漏らし続けてる。まだ正式名称は決まってないみたいだけど、東北関東大地震だ。
僕は、とくに原発について書きたいと思う。僕は、原発は必要だと思ってる。なければ、こんなふうにインターネットで駄法螺を吹くこともできないからだ。それに、最早、原発がなければ日本国内は何一つ成り立たない。何一つ成立しないんだ。原発は、事実以外のなにものでもない。ただの事実だ。
ところで、僕は、ポリティカル、つまり、政治的なことはあまり書きたくない。政治など下痢便みたいなものだ。現代社会において、下痢便が何の役に立つんだ。現代社会は、個々人に任せられてるんだ。政治家はピエロにすぎない。そんなピエロが行ってる政治に期待なんかしちゃいけない。今回の大地震だって、政治家は何をしてるんだ。何もしてやいない。下痢便は何もできない。でも、放っておけば、有害だ。
原発。
僕らは、何かをつくって生きてる。原発だってそうだ。僕らは、何かをつくらなければ生きていけない。原発も、そのひとつだ。でも、僕らは原発を、やはり、怪物だと認識しなければならない。僕らは、怪物をつくったんだ。平和利用するためにさ。平和ならいいさ、でも、相手は怪物だ。いつだって平和とはいえない。僕らの最大の過ちは、怪物の平和利用ではなくて、怪物が暴れまわった場合に、どんなふうにして始末をつけるかを考えなかった点にある。具体的にいえば、原発が暴走した際に、原発を速やかに解体する技術もないままま、つくってしまったということだ。
原発は、解体できない。
さあ、どうする。
このまま現状を悪化させないようにする？
それはそうだ。
でも、いつまでも対症療法が効果的だとはいえないし、現に効果は出ていない。
僕らが、怪物をつくったんだ。責任は、僕ら個々人にある。でも、僕らはみなド阿呆だ。責任なんか誰も取らないし、取ろうともしないだろう。これは、悲劇じゃない。笑い話でもないけど、ただの事実なんだ。
さあ、今日は御伽噺はもうお仕舞いだ。また明日、つづきをでっち上げることにするよ。
１７歳のジャズ、而して、スーパーカブ 第８１話
僕は、隆志の背中から奇妙な力を感じていた。それは、単純化していえば、力強い幸福感だった。どんなものも、どんなことも、それには負けてしまうような力だった。隆志は、いまだってそうなんだ。いまだってそんな力を持ってるんだ。ああ、玲子さん、隆志はいまもあんたのことを想ってるよ。あいつ、死ぬまであんたのことを想い続けるよ。あいつ、そんな力を持ってるんだ。誰にも負けない力を、敢えてひとつだけ挙げるなら、あいつにはそんな力があるんだ。玲子さん、あんただってそれがわかっていたはずでしょう？ それなのに、なぜあんたはさ、何でだろう、自殺なんかさ、僕ら、みさとあんたを長く、あまりに長く待たせてしまったけど、待ってくれなんかいえやしなかったんだ。いつか必ず迎えに行くなんていえやしなかったんだ。僕ら、あの出会いをひと夏のただの思い出みたいにしてしまったんだね。僕と隆志の罪は重いよ。僕ら、知らなかったんだ。みさと玲子さんの身に、その体内に、母体内に、その胎内に何が起きていたのかなんてさ。知るべきだったさ。
僕と隆志は、それをきちんと知るべきだった。
僕、いま、幸せなんだと思う。いつも、みさと一緒にいられて幸せだ。隆志ともそうだし、勝美母さんともそうだ。それから、僕とみさの息子とも一緒にいられて幸せだよ。あのときできた息子さ。あのひと夏にできた息子さ。玲子さん、あんたにも息子か娘がいたこと、知ってるよ。僕は、知ってるんだ。知ってるんだよ、玲子さん、遅すぎるけどさ。隆志とのあいだにできた子どものことを知ってるんだ。あのひと夏、みさとあんたが何を考えていたのか、いまなら充分すぎるほどわかるよ。変えたかったんだよね。何かを変えたかったんだ。僕と隆志もそうだったんだ。僕ら４人は、あの夏、同じ考えをもっていたんだ。
でも、玲子さん、何かがあんたを変えることを押しとどめたんだね。
僕はさ、当然、玲子さんともみんなで幸せになれたんだと思ってるんだ。
玲子さん、僕の考えは甘いかな？ そして、罪深いかな？
玲子さん、あんたは僕らの犠牲者みたいだよ。僕さ、あんたにお礼をいうべきなのかもしれないんだ。でも、謝罪するべきかもしれない。まだよくわからないんだ。ありがとう、それから、ごめんなさい。
「やったね！ 啓太、俺の祖母ちゃん凄いだろ？」
「ああ、凄いよ」
「もっと喜べよ、何だよ、その面は」
「ハンサムか？」
「真っ黒だ」
「お前も真っ黒だ。クロンボ隆志め」
僕と隆志の顔は、排気ガスで真っ黒けだった。
「このどす黒いクロンボ隆志め、このニガーめ」
「おい、差別はやめろよ、啓太」
僕らは、お互いを指差しながら大笑いした。黒人を莫迦にしながら、腸が捩れるほど大笑いした。莫迦みたいに大笑いした。
「わはは、わは、わはは」
もはや、隆志の祖母ちゃんとなった温泉の婆ちゃんも笑っていた。
さあ、今日は御伽噺はもうお仕舞いだ。また明日、つづきをでっち上げることにするよ。